原都志也(はらとしや) | ページ 2 | 会計士の履歴書 | 活躍する会計士たちの仕事やキャリアを紹介

警察庁

警察大学校

助教授(警部)

原 都志也 はらとしや

公正な社会の実現を目指す
研究者タイプ
研究者タイプ

1970年2月12日生まれ(54歳)
愛知県出身 ・ 東京都在住

4あなた独自の強みと今現在の仕事との関係性

私独自の強みといえるかわかりませんが、私のキャリアの特徴は、公認会計士試験に合格していながら、監査法人には一度も勤務せず、国税や警察という「公務員」の組織(官庁の中でも調査・捜査部門)で、悪質な事案を多数扱ってきたことにあると思います。国税と警察は、いわゆる法執行機関であり、法律を武器に、法令違反行為を取り締まる組織であり、その組織の一員として暴力団などの「反社会的勢力」も含めた脱税者や犯罪者に対峙してきました。そうした意味では、さまざまな事件、事案を通じて社会の裏側を見る中で、不正を見抜く力や不正に対決する強い思いがあります。
次に、国税、警察という公務員組織で勤務してきましたので、公共性に関する感覚、組織感覚、マネジメントスキルは強みになっていると思います。(逆に「弱点」かもしれません。)
警察の幹部としては、時間が限られた中で臨機応変に「適切な判断」をすることを求められ、時には命に関わる事案も取り扱いましたので、「決断力」や「バランス感覚」を身につけることができたと考えています。
私個人の性格の特徴は、①物事を冷静に分析できること、②正義感が強いこと、③粘り強いこと、④協調性があることです。こうした性格の特徴は、今現在の警察での財務捜査などの仕事に役立っていると思います。
捜査の最終段階である刑事裁判は「証拠」に基づいて判断されます。したがって、私の強みである「①物事を冷静に分析できること」は、各種事件捜査において、「事実関係」である「証拠」、特に財務に関する証拠に基づいて客観的に分析することができるという意味で役に立っていると思います。
「②正義感が強いこと」は、警察の仕事が犯罪者と対峙して捕まえることですから大事な素養だと思います。「③粘り強いこと」は、事件の検挙までには高いハードルがあることも多いので、「あきらめずにコツコツと目標に進むこと」というのは捜査では武器になっています。
「④協調性があること」は、警察では個性を持ってスタンドプレーをするよりも「組織力」を発揮してそれぞれが役割を果たすことで成果を上げることが求められますので、強みになっているかと思われます。
さらに、現在の研修の仕事については、自分自身の強みが活かされていると感じています。実は、私自身は子供の頃、「学校の先生になりたい」という気持ちがあり、大学では中学・高等学校の教員免許も取得しました。その意味では、「教育」の分野は自分の関心が強い分野であり、現在の『人に教える』という研修の仕事は、非常に手応えを感じています。

5仕事をしている中で、心が大きく動いた瞬間

仕事をしている中で、心が大きく動いた瞬間は、自らの公認会計士としての知識・国税での実務経験などの「財務捜査官」としての専門性を活かして不正を発見し、新聞の一面トップに掲載されるような社会的反響の大きい事件を検挙でき、「世の中のためになった」と実感できる結果が出た時です。
その中でも特に印象に残っている事件は、上場会社(建設会社)による粉飾決算事件[商法違反(違法配当)、証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)]です。
この事件捜査の入り口は、マンション建設を得意とする上場して間もない建設会社の従業員が会社から多額の資金を横領しているという相談が警察署にあったことでした。
相談段階での工事部責任者(『工事部長』)からの話によると、経理担当課長による数億円規模の横領事件という趣旨でした。
工事部長の話からは、
① 上場会社における経理担当課長単独の不正行為としてはあまりにも多額であったこと
② 横領された資金の種類も通常資金とは別管理となっていたこと
③ 経理担当課長に権限が集中していたこと
などの不審点が感じられ、公認会計士として私は、これは単純な横領事件ではなく、上場会社による会計不正が存在している事案だと直感しました。
そこで、工事部長に詳細を確認すると、①協力会社などに依頼して「裏金」を捻出していたこと、②「裏金」の捻出を経理担当課長に任せていたことなどの不正経理が判明するとともに、さらに、③建設会社の業績向上のために「工事進行基準」を悪用して前倒しで工事原価を計上する「粉飾決算」を行っていたことがわかりました。
この事件は、公認会計士として早期に「粉飾決算」容疑に着目し、内偵捜査を開始したことが功を奏した事件であり、隠れた企業犯罪を暴くことができて「警察に入ってよかった」と思えた事件の一つです。
この事件の後も、警察では、市議会議長らによる贈収賄事件、国会議員による公設秘書給与詐欺事件、上場企業の役員による関係会社に対する多額不正融資事件、外国公務員贈賄事件、地元著名企業による融資詐欺事件などの社会的反響の大きな事件で財務捜査などに携わり、解明・検挙できました。
いずれも社会的反響の大きい会計不正が背景にある事件で、「財務捜査官」としての知識・経験がなければ警察での立件が困難か重大な支障が生じたと考えられる事件でしたので、他では得がたい経験をさせていただき、「警察に入ってよかった」と感じた事件でした。

6公認会計士という仕事に関連して深く悩んだこと、それをどのように乗り越えたか

警察の財務捜査の仕事は社会正義のためという崇高な使命があり、仕事の内容もとてもエキサイティングなものであることは間違いありません。しかし、何度か仕事上、自分自身の「公認会計士」という資格に関連して、このままでよいのかと悩んだことがありました。
それはせっかく「公認会計士」という資格があって「専門捜査員」である財務捜査官として特別採用されたのに一般警察官と同じような業務を任され、日常業務では、公認会計士としての専門性を活かした活躍の機会がないことに「焦り」を感じたことでした。
というのは、警察組織はとても大きな組織で、「犯罪捜査」だけでもとても幅が広い仕事であるうえ、犯罪捜査以外にもたくさんの業務があります。したがって、「財務捜査」は警察業務の中では特殊な業務に過ぎず、まずは一般の警察官と同じことを求められ、一般の警察官と同じようなキャリアパスを歩むことを求められたからでした。
そうした中で、悩みながらも現在まで仕事を続けてこられた理由は次の3つのことがあったからです。
一つ目は、警察での捜査はとてもやりがいがある面白い仕事だったからです。
まず、捜査では、被疑者も被害者もどちらも「人」を相手にするため、「人の人生」に深く入り込むので、刑事ドラマのような場面も多く、また、一つ一つの事件の奥が深いことから、これを経験することで自分自身の成長につながったからです。そして、じっくりと「人」に向き合える犯罪捜査の仕事は私自身の肌に合い、面白いと感じることができたからです。
また、捜査は犯罪を摘発する「社会正義の実現」にかかわるものであったことも大きく、悪い人をやっつけるという警察の仕事は、「社会のためになっている」という実感が持ちやすかったことが大きいと思います。このため、仕事の大半は「財務捜査」でなかったとしても、捜査全般は公認会計士の使命と通じるところがあり、「公正な社会の実現」とつながっており、そこにやりがいがあったからです。
二つ目は、警察の様々な部署で上司、同僚など周りの人に恵まれ、よい人との出会いで自分自身を成長させてもらえたからです。また、警察では定期異動があり、部署がかわるたびに、さまざまな人との「出会い」があり、「人間の幅」を広げることができたからです。さらに言えば、警察は研修の機会も多く、さまざまな分野の人と交流する機会をいただき「捜査幹部」としてのやりがいを感じることができたからです。
三つ目は、前述したように数は少ないものの何度か「財務捜査官」としてやりがいを感じることができた大型経済事件や社会的反響の大きい事件に携わることができたからです。粉飾決算の事件はもちろん、上場企業における公認会計士の監査そのものが問題となる事件も担当することができました。特にある事件では、公認会計士や会計監査制度の根幹に関わる事件を検挙できましたし、外国公務員贈賄罪の事件の糸口を発見することができました。これらの事件は私のような財務捜査官が独自の着眼点で事件解決の糸口を発見し、その専門性を発揮した財務捜査をしなければ検挙できなかった事件でした。こうした事件を検挙したことで、組織の中で自分自身の存在意義を確認することができました。
つまり、犯罪捜査というのは、お金では計れない価値がある仕事であり「治安を守る」という「社会正義の実現」に直結する仕事で、何年かに一度であっても公認会計士としての自分にしかできないような価値がある仕事ができたことが今も仕事を続けている理由になっています。
 

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