2監査法人における経験およびその後のキャリア選択のきっかけ
高校までを長崎で過ごした後,福岡の大学に進学したため、将来は九州で働きたいと思い、会計士試験二次試験に合格した後は、あずさ監査法人福岡事務所に入所した。
50名程度の小さな地方事務所であり、東証一部上場会社は数える程しかなかったが、幸運にも上場会社の担当となった。また、東京事務所のチームにもアサインされ、監査チームメンバーも10名を超えるような誰でも知っているような会社の業務にも従事した。
大規模クライアントでは業務フロー、内部統制がしっかりと整備・運用されていて、社会人経験も無い私にとっては学ぶことが多く、知の欲求が満たされて行く感覚があり、とても楽しく仕事が出来ていた。
また、これらの経験は、後々、独立して中小企業に対して業務支援を行う場合にも非常に役立つものであった。
監査法人3年目には東京転勤となり、福岡事務所と東京事務所で仕事の進め方、文化、人間関係の全てが異なることを肌身で実感し、これまで九州以外のことを知らずに九州が一番良い所だと思っていた自身がいかに世間知らずだったかと思うに至り、それ以後はイメージで話すことはせずにまずは経験してみて、経験に基づいて判断をすべきだと考え、行動するようになった。
監査法人での経験も非常に楽しいものであったが、毎期繰り返される監査業務から得られるものが経験年数が増えるにつれ減っていっていたため退職を決断した。
退職後は独立か、海外で働くかの2つの選択肢で考えていたが、独立後に海外で働くことは難しいと考えたことや福岡と東京のような違いが日本と海外でも必ずあり、その経験が自身のキャリア形成にも、とても重要なものとなるであろうと思い、Yotsuba Accounting (Thailand) Co.,Ltd.に転職した。
Yotsuba Accounting (Thailand) Co.,Ltd.は日本人は私含めて2名(ほどなくして1名退職したので、私1名となった)、タイ人10名程度の小さな組織で、タイに進出する日系企業に対して、税務、会計、監査や会社設立、清算の業務を行っていた。会計基準はほぼIFRSに準ずるものであったため問題はなかったが、税制は国により全く異なるものであり、また、日本語による文献等も少ないため非常に苦労したが、タイ人スタッフ、現地の日本人の友人のサポートもあり業務は徐々に回せるようになっていった。
そんなタイでの経験も、タイ人と日本人の考え方の違いだったり、文化の違いを学び、また、現地での友人が出来たことはとても良かった。日本人とタイ人の考え方の違いで興味深いなと思ったのは時間に対する考え方で、タイ人は朝の通勤時に電車が多かったら無理して乗らずに、次の電車を待つことだ。これは“マイペンライ(何とかなるさ)”という考えが根底にあるのだと思う。
タイでの経験が1年経過し業務を一通り回せるようになり、家族が日本にいたこともあり退職を決めたタイミングで大学時代の友人から連絡があり、“本当に世の中に役立つ環境ビジネス”を経営理念としている株式会社ecommit(※)が上場を目指すので経理部の体制構築を手伝って欲しいと話があった。帰国後、特にやることが決まっておらず、面白そうだという思いと、以前から環境問題に問題意識を持ち、独立後は何かしら環境に関することもやりたいと思っていたので願ったり叶ったりという思いで話を聞きに行き、すぐに参画することになって今に至っている。
※株式会社ecommitのHP(http://ecommit-kandk.com/)
3今現在の仕事の内容、特徴、キャリアパス
株式会社ecommit(以下、エコミットという)の取締役経理部長を任されている。非上場の中小企業、ベンチャー企業の多くは同様だと思うが、職務分掌、規程は整備されておらず、Excel管理のデータが多く、アナログな業務も多い非常に効率が悪い状況であった。また、エコミットは全国に営業所を4拠点、リユースショップを1店舗もっており、それぞれ拠点間で人や物のやり取りが多いが、損益が適切な部門に計上されておらず、部門損益が実態を反映していない状態だった。
私に与えられたミッションとしては、「数字に強い会社にして欲しい」ということだった。
まずは部門損益が実態を反映し経営判断に資するような情報を提供するために、部門への計上ルール、勘定科目の改訂を行い、不採算部門のリストラクチャリング、不採算取引への対応を主導して、損益改善に努めた。
次に売上高の50%程度を占める海外売上高に目を付けた。衣類や家具、食器、農機具等のような商品を海外に販売する場合、販売先はほとんどが東南アジア、中東、アフリカのような発展途上国であり、得意先は狡猾かつタフなメンバーばかりであるため、品質に対するクレームをつけるなどして、回収に至らない債権が散見されるよう状況であった。このような状況に対して、着金後の商品の引き渡しの徹底、売掛金年齢表の整備、運用、債権管理システムを導入し、滞留債権の適時把握、定期的な確認業務を行えるような仕組みを作ることで、回収漏れが発生しないようになった。
そして現在取り組んでいるのは、システム化だ。劇的な業務効率化を行うにはシステム化が必須であると感じたため、会計システムをクラウド会計システムに変更し、極力、手作業を排除していった。
これらの業務を通じて、会計士が中小企業、ベンチャー企業で業務改善に携わることで会社を良くすることに大きく寄与することができ会社からも感謝され、とてもやりがいを感じることができた。
今ではエコミット以外の数社でも業務改善、上場準備支援の業務を提供するようになったが、今後はより多くの会計士が監査や税務だけではなく、会計、監査の知識や経験を活かして業務改善に取り組む業務を提供するようにしていきたいと思っている。