4あなた独自の強みと今現在の仕事との関係性
私独自の強みは、①笑顔、②好奇心旺盛、③行動力、の3つです。
“笑顔”は、小学生の頃の裏のあだ名が「ニヤニヤマン」と呼ばれるほどで(笑)、人とコミュニケーションをとるときに自然と笑顔になっているらしく、伊那食品工業株式会社の塚越寛会長にお会いしたときも有難いことに“笑顔”を褒めて頂きました。仕事をする以上は必ず誰かと関わり合いを持つため、コミュニケーションの場面で笑顔でいることは、場を和ませたり早期に信頼関係を構築することにつながります。経営企画の仕事は、経営者や社員、ステークホルダーなど様々な人と会話をしながら進めていくことがほとんどです。そのため、信頼してもらうことで「平林だから」、「平林になら」と本音で話してもらえることも多くなります。仕事をしていくうえで、一人ひとりとの個別の信頼関係と心の距離には気を配っています。“笑顔”は、信頼を得て心の距離を縮めていくための強力な武器になると思います。
そして、色々な物事に“好奇心旺盛”であることと、何でもいいから“行動”してみることを実践しています。小さい頃から、ピアノを習ったり、剣道やラグビーや水泳を習ったり、漫画を描いたり、ゲームを作ったり、作曲したり、とにかく色々なことに興味を持っては実際に自分でやってみていました。社会人になってからも多趣味なのは相変わらずです。朝活に興味をもったので、丸の内朝大学に通ってたくさんの異業種の人と知り合い、プロジェクトの進め方やイベント企画、アイディアを実現させる思考を学ばせて頂きました。学習塾ベンチャーに飛び込んでは、新人21カ条という人生の鉄則ともいえる哲学を学ばせて頂きました。速読法を習ってたくさんの本を読むようになり、様々な知識のインプットに役立ちました。公認会計士経営懇談会という勉強会で、私の会計士の師匠である谷慈義先生に出会い、経営哲学・人生哲学の必要性を学び、会計士としてのアイデンティティを確立しました。煎茶道の御家元から美意識や芸術、思考法や世の中の仕組みを学ばせて頂きました。
インプットなくして、アウトプットはありません。経営企画の仕事に関連する経営や組織作りには幅広い知見が必要で、色々なことに興味を持ち経験し学んできたからこそカタチにできるものがあります。アンテナを広く張って、実際に行動してみて、当たり前の努力を当たり前にする。そうやって成長でき、世の中に価値をアウトプットできることは、楽しいことだと感じます。
5仕事をしている中で、心が大きく動いた瞬間
お恥ずかしながら、仕事中に感情が溢れて涙をこらえきれなかったことが何度もあります。
市役所に勤務していた頃に、小学4~6年生を長野県の川上村に連れていって2泊3日の自然体験をする“むさしのジャンボリー”というイベントに参加しました。薪を割って火起こしをしたり、キャンプファイヤーをしたり、天体観測をしたり、自然体験が盛りだくさんの事業です。事務局側は、雨で濡れたテントを干して乾かしたり、次のイベントの準備に駆け回ったり、トイレをきれいに清掃したり、子どもたちが安心して生活できるようにひたすら動きます。そして、最終日の退村式のこと。子どもたちから、お世話になった裏方の人たちにということで歌のプレゼントがあったのです。いつもは児童館に来て遊んだり、ふざけたり、ときにケンカしたり、叱ったりしている子どもたちが、一生懸命に歌を歌ってくれている。その姿を見て、歌を聴いて、涙が止まりませんでした。
児童館から市役所本庁への異動が決まり、これまで毎日ふれあってきた子どもたちにお別れを告げる日がきました。最後の日、毎週実施してきたイベントの終わりに子どもたちが集まってくれました。お手紙を書いてくれた子、ピアノの伴奏に合わせて一緒に歌ってくれた子、ぬり絵をプレゼントしてくれた子。子どもたちとの関係は決して楽しいことばかりではなくて、厳しく叱ることもあったし、健全な成長のことを考えてはどう接するべきか思い悩んだこともありました。彼ら、彼女らの人生に真正面から向き合ってきたからこそ、みんなが自分のことを想って手紙やプレゼントを用意してくれたことを思うと、嬉しい気持ちで胸がいっぱいになりました。
花まる学習会で、野外体験に引率で参加したときのこと。初めてリーダーとして担当したチームは、小学1年生から5年生までの男の子チームでした。とくに1年生のT君は、わがままでケンカっ早くて、初日から何度も何度も些細なことで揉め事を起こしていて、チームの雰囲気もよくありませんでした。それでも、同じ時間を過ごすに連れて、初めて出会った男の子同士が、少しずつチームになってきたのです。川で魚を捕まえるために網をお互いに貸しあったり、役割分担をして協力しあう姿がありました。主語が、「俺は」から「俺たちは」に変わっていきました。いつの間にかかっこよく成長し、絆が生まれていました。最終日に、子どもたちを一人ずつ呼び出して成長したことを伝える大切な時間があります。バラバラでケンカして気まずかったチームが、最後には気持ちを一つにして仲良く過ごせるようになったことが嬉しくて、一人ひとりの頑張りや成長した姿を伝えながら、自然と涙が流れてきました。
私にとっては、人に向き合い、生きるということに向き合い、心と心が通じ合うことで感情が動きます。それは子どもたちとの出来事にかかわらず、経営も同じだと感じています。経営者は命がけで、従業員たちの生活を背負ってビジネスに向き合っています。M&Aで買収が決まったときも、その経営者が「ありがとう、御社に決まって本当によかった」と言ってくれたときは、熱い気持ちがこみ上げてきました。会計の数字は人が行動したあとの結果に過ぎません。数字の背景にある“人”にとことん向き合うことは、仕事の醍醐味だと思っています。
6公認会計士という仕事に関連して深く悩んだこと、それをどのように乗り越えたか
“公認会計士”というのは自分のタグになります。取引先に紹介されるときも「平林は公認会計士なんで」と紹介されることも多く、正直プレッシャーに感じることもあります。実際、一般事業会社の経理には、会計士よりも実務経験を積んで専門知識をもった人材も数多くいます。その事実に向き合ったときに、しばらくの間、公認会計士としての自分の存在意義に思い悩む期間がありました。
公認会計士としてのアイデンティティを確立できたのは、公認会計士経営懇談会で谷慈義先生に出会ったことが大きいです。
谷先生は事業再生を専門とし、経営難の企業約50社をV字回復させてこられた方です。顧客、社員、株主、取引先といった、企業を取り巻くステークホルダーと一体になって、常に“経営のあるべき姿”、“心の経営”、“救済”を追求されていました。一方で、還暦を過ぎてからは仏道に精進して『浄土宗僧侶』の肩書ももっており、私にとっては正直よくわからない不思議な存在でした。
谷先生から教わったことはたくさんありますが、一番ハッとさせられたのは、初めてお会いしたときの「正しいことを言うときは相手を傷つけやすいものだと気付いているほうがいい」という一節です。「公認会計士は、経営哲学を磨き物事を正しく見て、誤りを正したりズバズバと指摘する必要がある」と仰られました。ただ、相手を傷つけないように、心を配ることが大切だというのです。たしかに、物事を良い方向に導いていくためには、“正しいことを正しいと言う”ことが必要なのですが、正しいことを真正面から言うと、言われた相手の心はグサリと傷ついてしまいます。そこに思いやりの心がないと、相手に受け入れてもらうことすらできません。
公認会計士は“公に認められた”資格なのだから、その責任と誇りをもって、正しいことを正しいとビシバシと言っていかなければなりません。そのような、公認会計士としての在るべき佇まいを直球で投げかけられたことで、それまで輪郭がぼやけていた公認会計士としてのアイデンティティが確たるものとなりました。「自分は公認会計士なんだ、公認会計士として生きていこう」と強く思えた瞬間でした。
世の中には色々な人がいます。一般事業会社にも、どうしても周囲や上司からの評価を気にした言動をとる人もいます。そういう行動をとって丸く収まることもあれば、問題を先延ばしにしてしまい、会社のためになっていないようなケースもあります。こういった場面に遭遇したときに、公認会計士としての意思と覚悟をもち正しいことを正しいと言っていくことで、周囲からのより深い信頼を得られるようになると考えます。谷先生と出会って、公認会計士としての自分に自信を持てるようになったのです。