星野宇潮(ほしのうしお) | ページ 2 | 会計士の履歴書 | 活躍する会計士たちの仕事やキャリアを紹介

株式会社インベーダーズ

創業者

星野 宇潮 ほしの うしお

作業は渡す、判断は渡さない。AI時代の会計士のかたち
起業家タイプ
起業家タイプ

20代
大阪府出身 ・ 東京都在住
立教大学経済学部

4あなた独自の強みと今現在の仕事との関係性

制度の言葉と、技術の言葉の両方を話せることだと思っています。
会計士でAIを使う人は増えました。エンジニアで会計を勉強する人もいます。ただ、「監査基準報告書がなぜこう書かれているか」と「このモデルは端末内で動くのか、サーバーに送られるのか」を、同じ会話のなかで行き来できる人は、まだあまり多くありません。
これは器用さの話ではなく、順番を間違えないための能力だと思っています。
正直に言うと、私は最初にこの順番を間違えました。会計士の集まりで技術の話から入りすぎて、前提の話を飛ばしていた。触れていない領域にいきなり道具を持ち込むと、たいてい拒絶されます。 だから「AIで効率化できます」ではなく、「監査という制度がなぜこう作られているか」から話さなければならない。この失敗から学んだことが、いまの仕事の進め方の芯になっています。
もうひとつは、ルールがないところで動いた経験です。スタートアップを運営していると、新しい分野には法律がそもそもない、という場面に何度も出会います。作られるのを待つのではなく自分で作ろうと考え、森・濱田松本法律事務所と組んで一般社団法人 RULEMAKERS DAO を立ち上げ、約3年活動してきました。合同会社型DAOに関する制度変更や、外国人のノマドワーカーに関する要件緩和の提言などに携わっています。
AIと監査の関係は、いままさにルールが固まる前の空白期間にあります。空白は自由を意味しますが、同時に、後から遡って評価される危険も意味する。この感覚を持っていることが、いちばんの強みかもしれません。

5仕事をしている中で、心が大きく動いた瞬間

自分が何年もかけて身につけたものの意味が、一晩で変わってしまった日のことです。
監査調書を自動生成する仕組みを、自分で組み上げました。動くようになって、初めて出力を開いた夜のことです。
私は監査法人時代、調書を綺麗に作ることに、それなりの誇りを持っていました。桁を揃える。突合表の体裁を整える。増減分析を、読む人が迷わない順番に並べる。誰に褒められるわけでもない技能ですが、これができる人とできない人がいて、自分はできる側だと思っていました。数年かけて身につけたものです。
画面に出てきたものは、それより整っていました。
手を止めたのは、悔しさでもなく、達成感でもなく、「あれ、じゃあ自分は何が価値だったんだろう」という問いでした。
しかも、それを壊したのは自分です。誰かに追い抜かれたのなら、まだ納得のしようがあります。自分で作った道具に、自分の技能を引き取られた。 その夜は、正直あまり眠れませんでした。
数日かけて考えて、たどり着いたのは単純なことでした。私が価値だと思っていたのは「作れること」だったけれど、社会が会計士に求めていたのは、そこではなかった。
境目は、書類の綺麗さではありませんでした。引き受け手が誰なのかを、あらかじめ特定できる状態にすることです。作る技能は渡せる。引き受ける立場は渡せない。 私が数年かけて磨いていたのは、渡せる側のほうでした。
これは喪失の話ではなく、棚卸しの話だと思っています。自分の仕事のうち、どこが渡せてどこが渡せないのかを、あの夜に初めて自分の手で確かめた。以来、それが仕事の選び方の基準になっています。

6公認会計士という仕事に関連して深く悩んだこと、それをどのように乗り越えたか

会計士の資格を持ちながら、会計士の仕事から離れていた時期があったことです。
起業してメタバースの会社を立ち上げ、コミュニティの会社をつくり、事業を売却して。数字の上では悪くない道でした。ただ、会計士のイベントに呼ばれることはほとんどなく、登壇するのはいつも起業家の集まりでした。自分は資格を捨てたわけではないのに、会計士としては何者でもなくなっていく感覚が、ずっとありました。
もうひとつ、業界に対する後ろめたさもありました。監査の現場では、いまも人間がやらなくていい作業が大量に残っています。増減分析は、本来人間がやる仕事ではありません。それを分かっていながら、自分は外にいて何もしていない。見て見ぬふりをしているのは、業界だけでなく自分もだと思っていました。
乗り越えたというより、技術が追いついてきたという言い方が正確です。
コミュニティのためにAIエージェントを作っていた技術を、会計事務所の業務に当ててみた。すると、ずっと「誰かがやるべきだ」と思っていたことが、自分の手で作れる範囲に入っていた。遠回りしていた10年が、そこで一本につながりました。 メタバースもDAOもコミュニティも、会計とは無関係な寄り道だと思っていたのに、AIエージェントという道具を介して、全部が会計に戻ってきた。
いまは、本当に帰ってきた感じがしています。
会計士の資格から離れて悩んでいる方に伝えたいのは、離れていた時間が無駄になるとは限らない、ということです。ただし戻ってくるときには、外で身につけたものを持ち帰る必要がある。手ぶらで戻っても、居場所はありません。

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