【インタビュー】社会福祉専門IPOスペシャリスト。専門性を高めるために足し算すべきキャリアは? | ページ 2 | 会計士の履歴書
会計士の履歴書 > 特集一覧 > 社会福祉専門IPOスペシャリスト。専門性を高めるために足し算すべきキャリアは?

社会福祉専門IPOスペシャリスト。専門性を高めるために足し算すべきキャリアは?

株式会社global bridge HOLDINGS / 樽見 伸二

社会福祉専門IPOスペシャリスト。専門性を高めるために足し算すべきキャリアは?

株式会社global bridge HOLDINGS / 樽見 伸二

今回の特集は、新日本有限責任監査法人からサクセスホールディングス株式会社(現:ライクキッズネクスト株式会社)の執行役員管理部長、PwCあらた有限責任監査法人IPOソリューション部を経て、IPOコンサルタントとして独立するとともに株式会社global bridge HOLDINGSの取締役に就任された、樽見伸二(たるみ しんじ)さんをご紹介します。
社会福祉事業のIPO専門家として経営者から嘱望される存在になるために、どのようなキャリアを歩んできたのか、また転職希望が多いCFOにはどのような人材が求められているのかお伺いします。

株式会社global bridge HOLDINGS
事業内容は、直営福祉事業として、保育事業と介護事業の2事業を展開。福祉支援事業としてICT事業展開。保育事業では、首都圏と大阪関西圏を中心に認可保育園・小規模保育『あい・あい保育園』を運営(2017年12月末現在30施設)。介護事業では、通所介護(デイサービス)『やすらぎ』ならびに放課後等デイサービス『にじ』を、介護や保育との複合交流施設として設置(同13施設)。日本の人口問題を社会問題と捉え、福祉事業によって解決することに特化している。2017年10月より東京証券取引所プロマーケット上場。東京都墨田区錦糸町に本社を構える。グループ会社は株式会社social solutions(保育事業・介護事業)と株式会社social solutions(ICT事業)の2社。2007年1月設立。

キャリアサマリー
1982年群馬県伊勢崎市生まれ。群馬県立伊勢崎商業高校卒業後に、立命館大学経営学部に進学卒業。
大学在学時の2004年12月に合格し、新日本有限責任監査法人東京事務所に入所。建設業監査に携わり、企業会計ナビEYの執筆活動も行う。
2011年より、サクセスホールディングス株式会社(現ライクキッズネクスト株式会社)の執行役員管理部長に就任。
その後上場企業IPO経験を活かし、2016年よりPwCあらた有限責任監査法人IPOソリューション部に入所し、マネージャーとして活躍。
2017年、樽見伸二公認会計士事務所を設立。同年12月、株式会社global bridge HOLDINGSの取締役に就任。人事、法務、IR指導・対応、システム部長兼システム販売部長、営業部長を兼任しながら、グループ全体の経営企画を担当。
2018年1月より、日本公認会計士協会東京会の公認会計士によるIPO関連業務支援プロジェクトチーム構成員を務める。

3一生分の栄光と挫折を経験した事業会社での5年間

サクセスホールディングスは樽見さんにとって初めて経験する事業会社でしたよね。会社の最初の印象はいかがでしたか?

IPO準備ということで規模の小さな会社をイメージしていたのですが、従業員数が千人もいる大企業でした。IPOはトップダウンで全社一体となって進めていく必要があるのですが、人が多かったこともあり会社全体として意思が統一できていない状況でした。

会計士の野口さんという方がCFOのポジションにいらっしゃったのですが、「1人ではどうにもならない。もう1人自分と同じくらいのポテンシャルがある部下が欲しい」と思いキャリアナビに求人を出して、部下として入ったのが自分だったのだそうです。

IPO準備会社はIPO未経験でも採用してもらえるものなのでしょうか?

IPO実務を希望してサクセスに入ったのですが、監査法人ではほぼ建設業会計に特化していたので、IPOの経験は皆無でした。「Iの部って何?」という世界から、実務に飛び込みました。

未経験だということは面接のときにもお話ししました。それでも面接官だった野口さんと波長が合ったせいか気に入られて採用してもらうことができました。未経験でも会計士だから最低限のポテンシャルはあるだろうし、あとは会社の人とうまくやれる素質があれば大丈夫だと思ったのではないでしょうか。まだ28歳で若かったので、これから成長すると期待してもらったのかもしれません。

サクセスホールディングスをお辞めになった理由はなんですか?

サクセスでは3年で3回も上場させることができたし、CFOにも就任しました。「監査法人をやめたときはどうなることかと思ったが、事業会社もなんとかなるものだ。一部上場会社のCFOになれたしキャリア的にも申し分ない」と思っていました。

そんな矢先に、サクセスが買収されて大きな方針転換があり、管理部門をはじめとして皆が会社を辞めざるをえない状況になりました。最短でIPOを成功させた功績から一転、買収によるリストラ。他の人が何十年もかけて味わうような浮き沈みを、たった5年間で経験することになりました。

突然の退職勧告に、「樽見さんはすぐ転職できるけど、私たちはすぐには転職できない」と部下の子たちは泣いていました。それもそうだと思い、次の転職先が決まるまで全員の面倒を見て最後の部下がやめる日まで会社に残りました。

部下の転職がすべて決まったところで気が抜けてしまい、自分の転職活動をする気力はなくなってしまいました。そんなとき、知り合いがPwCのIPOの部門長とたまたま知り合いで、「樽見さんみたいな人を探しているよ」と紹介してくれたことがきっかけで、監査法人の世界へ戻ることにしました。

企業買収が原因で退社することになったのですね。次のPwCでは、IPO経験と東証一部のCFO経験があるので好待遇で迎えてもらえたのではないでしょうか?

当初マネージャーで入る予定だったのですが、マネージャー昇格の必須条件だった英語基準を満たせなくて、最初はシニアスタッフとして入りました。面接をしてくださったパートナーからは「3か月後にマネージャー推薦のタイミングがあるから、そのときにマネージャーに推薦するから。それまでに英語を何とかするように」と言われていました。

IPO経験があって東証一部のCFOの経験があるのにシニアで入ってきた珍しい人がいるということで、事務所の噂になっていました。自分としは「別に給料が変わるわけじゃないし、残業代が出るか出ないかの違いだけ」という淡々とした感じでした。

それでも入れ代わり立ち代わり「どうしてシニアで入ったんですか?」と聞かれたので、「英語ができないから」と本当のことを答えたのですが、冗談を言っていると思われたかもしれませんね(笑)。3か月後にマネージャーに推薦してくれたパートナーには今でも感謝しています。

PwCのIPO部門をおやめになった理由は何だったのでしょうか。

PwCのIPO部門はBIG4の中では規模が小さくて20人くらいでした。少人数だったので統制がとれていて、比較的自由にやりたいことができました。「IPO経験を活かしてセミナーの講師をしたり本を書いたりしたい」と言ったら、「どうぞどうぞ」となんでもやらせてくれました。忙しかったけど行って良かったです。

ですが監査法人として意見を言わないといけないので、IPOアドバイザリーも細かいところまではできません。リスク度外視の際どいところはBIG4では無理でした。正解だったらいいけど違ったときに責任がとれないので縛りがありました。

自分が目指すIPOアドバイザリーがしたいと思っていたとき、友達から「一緒に独立してやって欲しい」と誘われて、PwCをやめて独立することにしました。

4成功の秘訣は“若さ×IPO×CFO×社会福祉事業×監査”の経験をフル稼働させたこと

公認会計士という資格は、樽見さんにとってどのような意味がありますか?

会計士という資格があるからプライドをゼロにできると思っています。勤めている人が何を恐れているかというと、やはり首になることです。日本は終身雇用制だし、公務員が“なりたい職業トップ10”に入る国だし、みんなリスクを恐れて何もしない感じになってしまう。その結果、虚勢をはって仕事をしないといけなかったり、プライドを高くしないといけないので聞きたいことが聞けなかったりして喧嘩もする。

でも会計士なら「ふざけているけど会計士だから頭いいんだろうな」と思ってもらえますし、本気を出せば仕事ができるという証明もできています。「僕仕事できますよ」って顔をしなくていい。会計士イコール“ポテンシャルの証明”になっていますから。

会計士の資格だけではなくて、IPOやCFOに関しての実績もありますよね。

自分の場合、IPOやCFOの経験があって一通りできるし実績があるから、肩肘張らなくて済みます。

その結果、プライドが高い人にも柔軟に対応できるし、基本は社内外で喧嘩をしません。いつ首になってもいいのでリスクのあることも提言できるので、社長からも信頼されていい循環になっています。

樽見さんのように専門性を身に付けたいと思っている方もいると思うのですが、そうなるための秘訣はありますか?

若かったので素直に「分からないです」と言えたことが秘訣かもしれません。サクセスの上場時期がIPO不況と重なっていて証券会社の引受部も余裕があったので、質問すればいくらでも答えてもらえました。さらに担当者の方がIPO実務の先生のような方で、厳しく指導してもらい力が付きました。

サクセスがIPO準備を始めた当時、サービス業はジャスダックしかなかったので大阪証券取引所に上場しました。その後鞍替えして東京証券取引所に行こうとしたのですが、両者が別市場だったのでもう一度新規上場の審査を受けるように求められました。

同じ会社で同じ審査資料を練り直して作ったのが良い復習になり、IPOの専門性がさらに高まったのだと思います。

僕自身はIPO未経験だったにもかかわらず、2012年にJASDAQ、2013年に東証二部、2014年に東証一部へと最短で上場できたのは、ひとえに証券会社の担当者の方からご指導いただいたおかげだと感謝しています。

IPO準備がしたければまず監査法人でIPOの経験を積む。海外に行きたいのでまずは英語を勉強してみる。事前に準備をしてから転職する会計士の方が多いですよね。これについてどのようにお考えになりますか?

若いうちに受かった人ほどとりあえず何でもやってみればいい。監査法人に長くいるほど早く受かったアドバンテージを自分で殺してしまって、普通になってしまう。早いうちから「IPOをやりたい。CFOになりたい」と目標が見えているなら、会計士試験に受かったその場で進んでもいいくらいです。

海外を考えているなら語学学校に行ってからじゃなくて、準備なんかしていないで今すぐ海外に行ったほうがいい。周りの成功している人たちを見ると、下準備無しでとりあえず海外に行っていて、ちゃんとできるようになって帰ってきています。これが国内の大手監査法人の中で海外に行こうとすると、とりあえずTOIECで750点、800点をとってからになる。それでTOIECはできるけど現地の人ともしゃべれないし何もできない人が量産されていて、もったいないと思います。

やってみたけど失敗してやっぱり監査法人が良かったと思うなら、今の時代は外でちゃんとやってきた人なら監査法人に戻れるから大丈夫。BIG4は厳しいかもしれないけど中小でもいいと思えるくらいの柔軟性がある方が、幸せになれます。

123