【インタビュー】IPO領域の匠。物事に正面から向き合って取り組めば、必然と結果はついてくる。謙虚に誠実に目の前のことに取り組もう【第3回】 | 会計士の履歴書
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IPO領域の匠。物事に正面から向き合って取り組めば、必然と結果はついてくる。謙虚に誠実に目の前のことに取り組もう【第3回】

渡邉淳事務所/渡邉 淳

IPO領域の匠。物事に正面から向き合って取り組めば、必然と結果はついてくる。謙虚に誠実に目の前のことに取り組もう【第3回】

渡邉淳事務所/渡邉 淳

今回、特集でご紹介するのは、渡邉淳事務所代表の渡邉淳(わたなべあつし)さんです。エンジニアから会計士、監査法人からコンサル、CFOとして会社を最終的に上場一部へと導き、現在はちょっと休憩という会計士として理想的にも映る人生を歩まれている渡邉さん。最初からこのポジションを築くことを目指したのか、振り返ってみて今、感じていることなどをお伺いしてみました。

本特集は、3回に分けて掲載いたします。第3回は、IPOと会計士についてとこれまでの経験を振り返って現在感じていることです。
※渡邉さんの詳細なキャリアについてはこちらを参照。


キャリアサマリー
1992年4月 富士通株式会社に入社、配属は移動通信端末開発部(エンジニア職)
1995年5月 富士通株式会社を退職し、公認会計士資格試験勉強をスタート
1997年10月 公認会計士第二次試験に合格、青山監査法人(現 PwCあらた有限責任監査法人)に入社
2003年7月 監査法人から野村證券株式会社へ出向 引受審査部に配属され株式上場(IPO)審査業務等に従事(2年間)
2006年4月 株式会社ラルクに入社、IPOコンサルティング業務に従事
2008年5月 同社取締役就任
(2011年8月より株式会社エランのIPOプロジェクトを支援)
2014年5月 株式会社エラン取締役CFOに就任
(2014年11月 東証マザーズ上場、2015年11月 東証一部市場変更)
2018年3月 株式会社エラン取締役を退任、翌月に公認会計士渡邉淳事務所設立(現任)
(その他、いくつかの企業<上場企業及び上場準備企業>の社外役員を兼務)

1IPOと会計士

これまでのお話を振り返ってみて、渡邉さんのキャリア=IPOという感じがしますが、IPOの面白さや逆に大変さはありますか

IPOの面白さですが、何といってもIPOは成長企業における一大イベントであることです。IPOのためには本当に広範囲な論点をひとつずつクリヤーしないとならないため、会社経営全般に関わることができます。また、IPOプロジェクトは、とても前向きなプロジェクトです。IPOが達成できれば、経営者、役員・従業員、株主、取引先、証券会社や監査法人などの関係者の全てがハッピー、WIN-WINになります。そこに仕事としての面白さを感じました。 
私が苦労したこととしては、IPOコンサルの時は実力がなかなか評価されないことでした。ここでいう評価はクライアントからの評価ではなく世の中からの評価です。IPOコンサルを名乗るだけなら会計士であれば誰でもできます。依頼者であるIPO準備企業や証券会社やVCなど業界関係者からはなかなかIPOコンサルの実力はわかりません。コツコツと実績を積み上げ続けないと評価されないんです。どの専門領域でも同じだと思いますが、悪い評判を立てるのは簡単ですが、よい評判というのはなかなか出回りません。私のIPOコンサルキャリアの終盤には、渡邉に担当してほしいとご指名でお仕事が来るようにもなりましたが、それまでにもの凄い年数を要しました。
会社の中に入って当事者としてIPOをしたエランですが、いきなりCFOとして飛び込みましたので、役員や従業員に仲間として認めてもらうのは簡単ではありませんでした。エランとは、それまでにも3年近くコンサルタントとして関わっていましたので、何も関係がないところから飛び込む方に比べれば遥かにましだとは思いますが。これまで沢山のCFOと関わってきたお陰で、どのようなことをすれば仲間として認められるか、どういうことをしたら拒絶されるかというのが、ある程度はわかっていましたので、愚直に認められる、評価されるCFOを目指しました。あと、社内の人間になるとあらゆる問題が自分の責務として降りかかってきますので、その問題点の多さには正直びっくりしました。外部から関わっていた時はIPOプロジェクトに直接関わることだけを対応していましたが、中の人間になると本当にいろいろな問題が生じ、底なし沼に入ってしまった気分でした。かなり沈み込んだ後でやっと足がつきましたが入社直後はかなり焦りました。聞いていた状況よりもかなり悪い状況で焦ったという話は、ベンチャーあるあるとしてよく聞くお話ですが自分もその洗礼を受けました。

IPOの分野で会計士は活躍できますか、また、どういった視点や強みがあるとよいでしょうか。

もちろん活躍できると思います。
監査法人などの立場で沢山の会社を見てきたという場数は、それだけで本当に貴重です。企業の方は自分の会社だけしか知りませんよね。転職してきた方でも自分が経験した会社だけですので数社のみです。
それと、会計や開示など絶対的な自信を持っている専門分野があると信頼はされやすいですよね。会計士は、法令やその他制度の条文に直接あたって、しっかり検討することが身についているので、周辺領域についても身につけるのが早いと思います。
また、監査法人とは別の人的ネットワークがあるとよりよいと思います。私も監査法人・証券会社・IPOコンサルというキャリアを踏んだお陰で、監査法人・証券会社・印刷会社・弁護士・信託銀行・人材紹介会社・社労士・事業会社CFOなどとのネットワークがあったことで様々な局面で力を借りることができました。

なるほど、まだ監査法人でIPO支援業務に携わっていない人でも自信を持ってチャレンジできそうですね。渡邉さんがこれまでのキャリアを踏まえて、仕事をする上で大切だと感じていることはどの様なことでしょうか。

・WIN-WINのマインド
瞬間的な成功はありえますが、自分だけよい思いをするという仕事の仕方では長続きしません。
・とにかく謙虚であること。
自分より優秀な人はいくらでもいますから、よい仕事をするためには個人の手柄を狙うのではなく、周囲の皆さんに活躍してもらうことです。部下にも感謝する気持ちは忘れてはいけません。
・相手の立場を考える  
自分側からの目線ではなく、相手の立場からどう見えるかをあらゆる局面で意識します。それをやり続けていれば、ある程度は相手が何を考えているか、何をされたら喜ぶか、困るかが汲み取れるようになってきます。

2すべては目の前の事の積み重ねであり、結果は後からついてくる

相手の立場に立つというのは仕事だけではなく、プライベートでも必要なことですよね。これまでの渡邉さんのキャリアは本当に色んなことが積み重なった結果なのだと感じました。ご縁を感じて目の前のことに向き合ってきちんと結果を出してきたということですよね。

そうですね。そもそも最初からCFOを目指していたわけでもありません。すべてが予定通りで順調だったわけではないのです。先にも話しましたが、後からみればすべてが必然的な流れのようにも感じますが、その時々で自分は、困難な局面にぶつかり悩むこともありました。出向先から戻ってIPO経験を監査法人内で活かしたいと思ったのに、活かす場所がなくなった時なんて、どうしたらいいのかと思いましたし。でも、あの時に急に進路変更をしてIPOコンサルに転じたからこそ、今があります。思い通りにいかなくても、すぐに失敗だと思う必要はないと思います。失敗かどうかはその時では判断できないですよね。思い通りにいかないだけで失敗ではないのです。
先ほどもお話ししましたが、私は、最初から、CFOになりたいとか、会社を上場させたいとかそういう夢を持っていたわけではないのです。もちろん、将来の夢をしっかり持ちそのために頑張っている人もいますが、夢がわからないけど、ただ、目の前のことには一生懸命取り組むという人もいます。それでいいと思います。夢ややりたいことがなくても、目の前のことにきちんと向き合って、とにかく誠実に取り組めば結果はついてくるものです。私がCFOになれたのも、会社が上場したのも、私にとってはたまたまそうなったというだけのことです。

やってきたことが積み重なってすばらしいキャリアとなったのですね。後輩の会計士たちへの伝えたいことはありますか。

先にも言いましたが、相手の立場に立って物事を考えることはとても大切だと思います。それとも繋がることですが、GIVE&TAKEという言葉の意味を間違えている人が多い気がします。相手が何かしてくれなければ自分も相手に対しての行動をしない、という意味に捉えている人がいるようですが、それは違います。もしお互いがそのような考え方でいると何も始まりません。まずは先に自分が行動を起こすことです。相手から返ってくるのは、その時ではなくてもいいのです。しばらく後に返ってくるかもしれません。もしかするとその相手からは返ってこないかもしれませんがそれでもよいのです。GIVE&GIVEでよいと。そういう気持ちでいてほしいですね。

最後に豊かな人生がこれからの目標と仰っていましたが、何か見えてきたことやこんなことがしたいという具体的なことはありますか。

とてもありがたいことに、それなりに豊かな人生になってきていると思います。ですが、残念ながら、まだ、次にこれがやりたいと熱く燃えるようなことは見つかっておりません。
最近ちょっとやってみたいと思っていることは、「若い方に武器を配ること」です。
書籍等で有名な瀧本哲史さん(故人)は若者に期待されていました。講演や出版活動を通じて、若者への武器として、自分で考え生きていくための術を惜しげもなく提供されていました。その様な活動をみて、私も武器を配りたいと思いました。瀧本さんのような強力な武器は持っていませんが、私もいろいろな種類の小さな武器は持っているのではないかと思います。私のスキル・ノウハウ的なものも、いずれ陳腐化してしまいますし、配っても減るものではないので、もし欲しい人がいるならどんどん配りたいですね。それで誰か一人でも、悩みが解決できたり、励ますことができたりすれば嬉しいです。
私のスキル・ノウハウ・その他の経験としては、キャリア形成や転職相談、経営相談や社外役員活動、IPO全般、上場企業CFO経験、投資業(ベンチャー投資や不動産投資)、宅建士資格、ワインエキスパート資格、お遍路88カ所巡り、東京大学EMPでの学びなどです。興味がある方がいれば喜んでお話したいと思います。
ありがとうございました。

(了)
本特集の第1回はこちらから
本特集の第2回はこちらから

インタビュアー:桑本 慎一郎

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