須能玲奈(すのうれな) | ページ 3 | 会計士の履歴書 | 活躍する会計士たちの仕事やキャリアを紹介

Ernst & Young ニューヨーク事務所

日系企業部 監査部門

マネージャー

須能 玲奈 すのう れな

英語力と監査経験でニューヨーク移住の夢を実現。既成概念にとらわれずやりたいキャリアに進む
アイディアマンタイプ
アイディアマンタイプ

東京都出身 ・ ニューヨーク在住
慶応義塾大学 経済学部 卒業

7人生の目的と公認会計士という資格

公認会計士という資格は、日本では監査法人に勤める道や企業内会計士として一般企業に勤める道が一般的かもしれません。ただ、それ以上に、自分自身の経験から、会計士の資格は人生の可能性を広げてくれるものだと私は思っています。

傍から見たら一見無謀なように見えたニューヨークで働くという私の10年越しの夢が叶ったのは、私が会計士の資格を持ち、監査法人での勤務経験があったからでした。渡米前にはニューヨークへの思いが強すぎてあまり気にしていなかったのですが、私が渡米した2009年はリーマンショックの尾を引いてアメリカの景気は低迷していて、企業はリストラも行っていた時期。アメリカでの就労経験のない人を就労ビザのサポートをしてまで雇おうという会社はまずなく、人材紹介会社に行っても門前払いで、ニューヨークでの就職活動は難航しました。私と同じようなキャリアを歩んでいる人も周りにいなかったので、ニューヨークに住む人が書いていたブログで見つけた情報等を頼りに、手探りで就職活動を行いました。

アメリカでは、大学を卒業するとOPTというアメリカで1年間就労する権利をもらえます。通常は、OPT時代に研修を行った会社から就労ビザを出してもらうという流れですが、語学学校しか行っていない私はOPTも持っていなかったので会社は最初から私を正社員として採用しなければいけないというリスクがあり、多くの人に「OPTがない人のアメリカでの就職は難しい」と言われ続けました。それでも、なんとか日系企業のニューヨーク子会社で最初の仕事に就くことができ、その後も、英語がネイティブでない私が日本人のいないアメリカの監査法人に就職することができたのは、全てあずさ監査法人での経験があったからでした。アメリカでの就労経験はないけれども、日本のKPMGで4年半働いてきた人であるならば雇ってもいいかなと思ってもらえたのです。アメリカの監査法人では他の会社と同様にリストラが行われることもあるので、国は違っても4年半も勤めていたならばと思ってくれたアメリカ人もいたようです。

会計士の資格があったからこそ叶えられた、ニューヨークで働くという私の長年の夢。そして、渡米丸2年で手にしたアメリカ企業で働くという夢。英語が拙いのは部署内で私だけ、というBDO監査法人での2年間を支えてくれたのは、あずさ監査法人での会計監査の経験でした。英語でのコミュニケーションが下手でも、監査調書は日本で習った通りに作っていたので、内容を理解して仕事はしていると周りは思ってくれていたようです。やっと手にしたアメリカ企業での仕事でしたが、BDO監査法人では入社初日から英語の壁が高すぎて、お金をもらって逆に毎日英語を勉強させてもらっているという感じでした。英語はあくまでコミュニケーションの手段にしか過ぎず、できて当たり前という世界なので、アメリカでは英語ができないということは、基本的能力が欠けていて、時には知能も劣っていると見られかねません。そのため、毎日届くメールや同僚の会話の中で知らない単語があればこっそり調べたり、同僚のビジネスメールで参考になる表現があれば真似してみたりといったことをやり続けた2年間でした。大変だったけれども、逆に、アメリカ人しかいない環境だったので、アメリカ人の仕事の仕方や交渉の仕方、電話での話し方や上司との付き合い方、さらには、ユダヤ教徒の同僚も多かったので、ユダヤ教徒の習慣といった本では絶対に学べないようなことを経験することができ、それは今でも私がアメリカで仕事をする上での土台になっています。

8これから成し遂げたい事、将来の夢

最初はただただニューヨークに住んで働きたいとの思いで渡米しましたが、ニューヨークでアメリカ流の働き方や価値観に触れ、社会の枠や年齢のしがらみに囚われずに自分のやりたいことを追求しているニューヨーカーを見て、私もこの街でもっと色々なことをしたいと思うようになりました。日本人はアメリカへの憧れが強く、政治や経済、音楽、映画等アメリカのことは日本のメディアでよく報道されていますが、その半面、アメリカで日本の話題を耳にすることはほとんどありません。ニューヨークに渡ってすぐにそのことに気がついて、あまりの温度差の違いに衝撃を受けました。また、日本では欧米のものを好きな人が多く、日本が長い年月をかけて育んできた日本の伝統文化や日本ならではの美徳は、最近はあまり大切にされていないように思います。日本の外に出て初めて、そういった日本の良さを再認識すると同時に、自分自身が日本のことを他国の人に説明できるほどに知らないことを恥じるようになりました。そんなことから、プライベートではアーティストの友人たちと一緒に日本の伝統文化を紹介するJ-Collabo(https://www.j-collabo.org)というNPOを立ち上げました。私自身は文章を書くことが趣味なので、左官職人、画家、書道家等多くの方にインタビューを行い、記事を発信しています。引退後に自分が生まれ育った日本のことをもっと知ろうと日本全国を旅して回った中田英寿さんにもインタビューをさせてもらいました。学生時代はサッカー観戦が大好きで、会計士の受験時代に中田選手の試合を見ていつも勇気づけられていた私にとって夢のような時間で、どんな夢でも強く願い続ければその夢は思わぬ形で叶うのだと思いました。

アメリカの中でも感度の高い人が多く住むニューヨークには、日本文化に造詣が深いアメリカ人もいて、趣味で自宅に本格的なお茶室を作ってしまうような人や、カウンターで高級なお寿司のおまかせコースを楽しむ人もいます。ただ、そうした人たちはニューヨークでもまだごく一握りに過ぎず、日本が誇る伝統工芸や文化、食材はまだまだアメリカには浸透していません。その一方で、日本には自社製品の海外展開を目指して様々な取り組みを行っている会社が多いことをここ数年感じています。日本の技術水準はとても高くて品質も確かなので、適切な戦略を立てて海外展開をすれば、海外でも成功する商品は数多くあると思います。将来的には、ニューヨークへの進出を目指す日本の中小企業のビジネスや会計のお手伝いをし、日米の架け橋となるようなことを行いたいと思っています。

また、日本にいた時には周りに私のような形で渡米を考えている人がいなかったので、一人で情報収集を行っていましたが、ニューヨークに来てから、日本でキャリアを積んだ後に自力で渡米し、ニューヨークで活躍している数多くの方々と知り合い、刺激を受けました。日本では、良い大学を出て一流企業に就職することが勝ち組のように言われることもありますが、人生の選択肢はそれだけではないと思います。ニューヨークで自分の夢を叶えて生き生きと暮らしている人たちの価値観や生き方は、日本で暮らす人たちにとって何かヒントとなることもたくさんあると思いますので、そうしたことを何らかの形で日本へもっと発信していきたいという思いも最近は強いです。

9キャリアを模索する会計士、会計士受験生へのアドバイス

長い人生、遠い先のことは考えられないかもしれませんが、いつの時代も自分の夢や目標を持ち続けることは大切だと思います。最終的に自分が本当に幸せを感じられるのは、特定の肩書やお給料を得た時ではなく、自分の夢や目標が叶った時だからです。まずは、1年後、3年後、5年後の夢を書き出してみて、そこから逆算して、それらの夢を叶えるためには今何をすべきかということを考えて行動してみたら良いかもしれません。夢が分からないという場合は、自分が何をしている時が楽しいか、どんなことをしている時に自分が生き生きとしているかを考えてみることが、自分の夢や目標を探す大きなヒントになると思います。また、自分の夢を考える時に、既成概念に囚われないことが重要です。「周りからどう思われるか」「こんなことは実現不可能ではないか」といったことを考えて自分の行動や思考に制限をかけてしまうと、自分が本当にやりたいことは見えてこないからです。日本の外の世界に目を向けてみることも自分の人生を考える上で、大きなヒントになるかもしれません。私自身は、ニューヨークに住んでいた方が自分らしく生きられるので、ニューヨークに住むという選択をしていますが、長期で住むわけではなくても日本とは違う国をふらっと旅行してみて、現地の人と交流し、そうした人たちの生き方や考え方を知ることで、新たに生きるヒントや自分がやりたいことが見えてくることもあると思います。

最近よく思うのですが、会計を知っていることは、どんな仕事をする上でも基本だと思います。ビジネスの現状は全て数字に現れてくるからです。日本の会計士業界には優秀な人が多く、私はいつも周りの人に教えてもらったり助けてもらったりする日々でした。アメリカの監査法人で働いて、日本の会計士のレベルの高さを再認識しています。数字への感度が高いだけでなく、物事を深く考えることができるのは、日本人の大きな強みだと思います。日本にいると周りが皆そうなのでそうしたことを感じることはあまりないかもしれませんが、これは自信を持って良いことだと思います。また、目標に向かってこつこつと努力することができるのも、日本人の大きな強みです。そんなことから、会計士の資格はどんな道を歩む上でも自分を支えてくれるものだと思いますし、自分の夢を叶える大きな武器になると私は思っています。

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