2監査法人における経験およびその後のキャリア選択のきっかけ
キャリアの基礎を作ってくれた監査法人時代
監査法人では、10年間、国内監査部に所属し、監査法人の監査対象としては比較的規模が小さく、内部管理体制が未整備なクライアントを多く担当した。そのため、会社の作った資料を検証する前段階で、クライアントに対して、必要な内部管理体制、会計基準の考え方、資料の作り方などをレクチャーする事に多くの時間を費やした。
規模の小さいクライアントを多く担当していた分、製造業、小売業、不動産業、旅客運送業、ソフトウェア業など様々な業種のクライアントの監査業務を経験することができた。担当クライアントによって、監査チームの編成が異なるため、沢山のメンバーと仕事をする機会があり、多様な仕事の進め方を学ぶことができた。仕事量が多く、体力的に大変な時期もあったが、クライアントやチームメンバーに恵まれたおかげで、クライアント先で仕事をする事が楽しくて仕方がなかった。
コンサルの仕事に目覚めた税理士法人時代
監査法人10年目にして、よりクライアント目線で仕事をしたいという思いが強くなり、中堅税理士法人に転職した。もともと大学時代は税理士になろうと税理士試験の勉強からスタートし、会計士試験合格前に税理士試験にも合格していた経緯もあり、いつかは税務実務にも携わりたいと思っていた。
税理士法人では、3年間、「クライアント・ファースト」という法人の理念に深く共感し、会計・税務コンサルとして、ただひたすらに、クライアントに喜んでもらえる仕事をすることに注力した。法人内には尊敬できる税理士の先輩が沢山いたので、とても刺激的で勉強になった。と同時に、お金に直結する税務の難しさ、厳しさも知り、税務業務に対しては相当慎重に取り組まないといけない事も学んだ。
徐々に私個人を指名して仕事を依頼してくれるクライアントが増えてきたので、自分を求めてくれるクライアントに対して、よりフットワーク軽く、自分が提供し得る最大限の業務を提供したいと思い、2017年10月に個人事務所を開業した。
3今現在の仕事の内容、特徴、キャリアパス
仕事の内容
今現在は、監査法人、税理士法人での経験を活かして、主に上場会社、IPO準備会社に対して、①会計、税務コンサルティング業務、②内部統制、内部監査の支援業務、③社外役員をしている。
①会計、税務コンサルティング業務
メインの業務であり、日常の会計、税務に関する相談業務に応じたり、四半期決算毎に、クライアントに出向き、会社が作った決算書、開示資料等を監査法人に提出する前にチェックをしている。税金・税効果計算、連結決算、複雑な注記情報等、クライアント単独では作成困難な資料については、自ら作成することもあるが、単に作成した資料をクライアントに提供するだけでなく、経理メンバーの人材育成の観点から、資料作成に必要な会計基準、税務の考え方や具体的な算定方法をレクチャーすることで、次回からは内製化できる体制にすることを心掛けている。
会計、税務上の論点については、クライアントとコミュニケーションを取りながら、クライアントと一緒に会社としての見解を固めている。監査法人との協議に必要な資料を作成したり、協議の場に会社側のメンバーとして同席し、会社の見解を説明したりすることもある。今の監査法人は、会計士不足や監査手続の厳格化の影響で、以前よりもクライアントと丁寧にコミュニケーションを取れる時間が少なくなっているので、監査法人での監査経験に基づくアドバイスはクライアントからとても重宝がられている。
資本・業務提携、組織再編等の取引については、計画段階から相談を受け、事前に会計、税務、監査上の論点の洗い出しを行っている。これらの相談は、経営陣から直接受けることが多く、クライアントの経営の方向性を知ることができるとともに、経営陣と直接のコミュニケーションを取ることで自身の存在価値をアピールできる絶好のチャンスでもある。
②内部統制、内部監査の支援業務
クライアントの国内拠点及び海外拠点の内部統制、内部監査の支援をしている。企業不正や不祥事が多発する中、内部監査によるガバナンス強化のニーズは非常に高いが、中小規模の会社では人手不足や能力的な観点から社内に内部監査の専任者を置くことが難しい状況にあるため、私のような外部の専門家に支援を依頼する会社が増えてきている。内部監査の一環として実施する経営陣とのディスカッションや従業員へのヒアリングの際にも公認会計士や公認不正検査士の資格を有する第三者という点で、社内の人には言いにくいような事項についても非常に率直な意見を聞かせてもらえることが多く、より実効性のある監査ができていると感じる。必要なガバナンスの整備は不可欠であり、その一翼を担うことができるというやり甲斐を感じながら、仕事に取り組んでいる。
下記③の通り、自身も社外役員をしていることから、取締役の職務執行を監査する監査役という立場と、経営プロセスを監査する内部監査という異なる立場を経験することは、社外役員としての業務を行う上でも非常に有益だと考えている。また、①の会計、税務コンサルティング業務は、どうしても四半期に仕事が集中する中、内部統制、内部監査の支援業務は決算繁忙期を避けて仕事ができるため、稼働時期としても独立会計士にとってはとてもありがたい仕事だ。
③社外役員
最近は、国を挙げての女性活躍推進や有価証券報告書への女性役員の人数、比率の記載の義務化等の取組みにより、社外役員として会社に関与して欲しいという依頼も多く、現在、3社の社外監査役に就任している。日本の女性役員比率は非常に低いが、従業員、顧客、株主等のステークホルダーには女性も多く、役員会においても女性の視点や感性を取り入れることは重要だ。
これから徐々に生え抜きの女性役員も増えていくだろうが、すぐに社内から多くの女性役員を輩出することは男性からの抵抗もあり、難しいかもしれないので、まずはその前段階として、私のような社外の女性専門家を役員として登用し、役員会で女性が堂々と発言できる雰囲気を醸成していくことは社会的意義のある重要な業務だと感じている。
仕事の特徴
①メインクライアントは、上場会社及びIPO準備会社
メインクライアントは、監査法人時代に監査をしていた上場会社や友人・先輩会計士から紹介してもらった上場会社、IPO準備会社だ。自分の強みは、10年間の大手監査法人での上場会社に対する監査経験と3年間の中堅税理士法人での上場会社及びIPO準備会社への会計、税務コンサルティング経験なので、これからも、自分の強みを最も発揮できる上場会社、IPO準備会社をメインクライアントとして、仕事をしていきたい。
②Face to faceのコミュニケーション
事務所で仕事をするよりも、クライアント先で仕事をしている時間の方が長いのが、私の働き方の特徴だ。監査法人時代から、現場至上主義で、クライアントから何か相談事がある際は、できる限り、メールや電話で終わらせる事なく、短い時間でもクライアントのオフィスに行き、対面で対応するようにしている。オフィスに行くと、メールや電話だけでは伝わらない社内の雰囲気や相談事に対する緊迫感を知ることができ、また、そこから新たなニーズが生まれてくる事も多くあるので、「会計士業界の三河屋」、「会いにいく会計士」を目指している。
③人事に関するコンサルティング業務
クライアントで働く時間が長いと、自ずと社内の人間関係やメンバーの仕事ぶりが見えてくるので、最近は、クライアントのニーズに応じて、管理部門の人事評価、人事・採用戦略に対するアドバイス、採用面接への同席といった人事に関するコンサルティング業務も行っている。まさに、組織は「人」で決まるので、社外の人間ながら、クライアントの人事に関与する機会をいただけることは、とても光栄なことだ。
④信頼できる専門家仲間との連携
今のところ、従業員を雇う予定はないため、自分一人では対応できない業務については、信頼できる弁護士、会計士、税理士、社労士等の専門家仲間と連携しながら対応している。サラリーマン時代は、同じ士業でも受け身で仕事をする人が多く、自分との熱量の違いにストレスを感じる事があったが、独立して仕事をしている専門家で受け身の姿勢で仕事をする人はおらず、前のめりな人ばかりなので、熱量の高い専門家仲間とともにクライアントにサービス提供できる今の環境は、クライアントにとっても自分にとってもメリットがあると考えている。
キャリアパス
クライアントの方からは、CFOとして社内に入って欲しいと依頼をいただく機会もあるが、今は、社外だからこそできる仕事を追求していきたい。イノベーションには「若者、バカ者、よそ者」が必要と言われているが、「よそ者」だからこそ、社内の常識にとらわれず、それぞれのクライアントを客観的に観察した上で、適切なアドバイスができると考えている。より適切なアドバイスができる「よそ者」となれるように、より多くのクライアントの仕事をすることで、自分の経験値を上げていきたい。そして、クライアントにとって一番身近な社外の専門家として、コーポレート・ガバナンスを担う存在であり続けたい。