2監査法人における経験およびその後のキャリア選択のきっかけ
監査法人では主に法定監査に従事した。大手クライアントを担当することにより、あるべき組織とは何か、有効な内部統制とは何か、そして会計自体に接することができた。ある意味、試験勉強だけではわからない会計の実態を学ぶことができた。
しかし、もともと事業会社にいたせいか、監査よりも事業会社に身をおきたい、作る側になりたい、事業という生き物の中で仕事がしたいという気持ちが強かった。約3年監査法人に勤務し、実際に数字を作る側として、事業を身近で感じることができる事業会社へ転職することに決めた。
今の若い方は、ちゃんとした目標や目的を持っている方が多いようだが、私はその時々の気持ちでただ動いていただけで、ちゃんとした目標など持っていなかったように思う。何か楽しいことがしたいという思いだけだった。だからこそ、楽しければ業務範囲にこだわりはなかった。それがよかったのかもしれない。会計士になったのだから会計分野かなというくらいで、会計士なんだからこれはやるとか、これはやらないという思いはなく、何でもやりたかった。
事業会社に入ってみて、会計士は机上で仕訳はきれるが、実際の経理処理はできないということを痛感した。どの伝票からどんなふうに入れればいいのかもわからなかった。いろいろ勉強になったし、刺激もあった。やはり、事業会社は生き物だと実感した。
3今現在の仕事の内容、特徴、キャリアパス
前述のとおり、明確な目標をちゃんと設定しないまま、ただ、自分が楽しいと思えることをその時々で追い求め、漠然とした野心だけをもち、今まで来てしまった。実際には楽しいと思えることのほうが少なかったし、辛いと思うことのほうが多かった。
事業会社で公認会計士はいったい何ができるのか。そして、会計とは会社にとって何なのか。そういうことを、なんとなく漠然と考えていたような気がする。縁あってIPOを経験させて頂き、取締役という役職にもつかせて頂いた。自分の力で何かをしてきたというより、全てがご縁であり、自分の周りにいて頂いた方のおかげだと思っている。いろいろな経験をさせて頂いた周りの環境、そしてチャンスをくださった方々に本当に感謝している。仕事というものは、きっと、そんな縁みたいなものが楽しいのだと思う。自分ひとりではできないことが、誰かと一緒にやることで、想像もつかいないような世界にひろがっていく。
現在CFOという役職ではあるが、まだまだ力不足で十分に役割が担えているとは思っていない。CFOの役割は定義しやすそうに見えるが実は曖昧で、私の中でも明確ではないし、人それぞれでもいいと思う。会社の状況によって求められるものも様々で、管理部門全般を管掌されているという方も多いかもしれないし、CEO、COOの女房役という側面もあるが、究極的には、会社のためなら何でもする仕事だと思っている。どんな仕事でも、やり方や仕事に対する考え方や環境次第で楽しくなると思うのだが、CFOも、大変だが“楽しい仕事”だし“やりがいのある仕事”だと感じている。特にCFOとして会社の全体を見れることは、自分のキャリアにとっても大きいし、やりがいがある。“自分の仕事が”という視点ではなく、“会社のために”という視点がもてることが最も大きな特徴かもしれない。
会社のために何をしたらいいのか。そもそも会社のためとはどういうことか。それを自問自答することとなる仕事かもしれない。現在の仕事というよりも、今やりたいことなのかもしれないが、“いい会社を創る”ことが自分の中でテーマになっている。“いい会社”とは、これまた定義が曖昧だ。企業をとりまくステークホルダーによっても異なる。業績が好調な会社、社会的意義のある会社、働きやすい会社、会社に行くのが楽しくなるような会社、前を向けるような会社、品格のある会社、〇〇という会社にいると自慢できる会社、業界の先駆者となる会社など色々候補があり、“いい会社”の定義はまだまだ考えきれていない。
CFOの役割には、何をすべきとか、何をしてはいけないという境界はないと思う。領域を超えてしまうことのデメリットをあげるなら、責任の所在が不明確になることだと思う。それを回避できれば、CEOの領域だから、COOの領域だからと気にすることはないと思う。ただし、やり方に気をつけなければ、不協和音のもとになるかもしれない。
これが、自分のキャリアパスとしてどうなのか、正直よくわからない。なにせ、前述の通り、明確な目標設定ができていないもので。しかし、企業という生き物の中で仕事がしたいという思いに突き動かされて、今までやってきた。そして、そういう仕事を体験する職種としては、CFOはいい仕事ではないかと思っている。
取締役やCFOという職を通して会社を大局的にみることができ、事業を行うことの大変さ、面白さ、会社を守ることの難しさを痛感してきた。その先に何を目指すにしても、その経験は役にたつと思う。私にとって、現在の仕事もある意味、通過点である。きっと、ずっと、通過点なのかもしれない。そして、今の経験はこれから必ず役に立つ。