2監査法人における経験およびその後のキャリア選択のきっかけ
「公認会計士」という資格を初めて知ったのは高校生のときであった。大学の進路選択前に、将来どのような職業につこうかと考えていた。自分はサラリーマンには向いていなさそうだから、将来はプロフェッショナルとして何か手に職を携えて生きていくのがよいだろうと漠然と思っていた。
複数の職業の中から、たどり着いた選択肢が公認会計士であった。実家が零細企業を経営していたこともあり、じっくりと中身を見たことはなかったが財務諸表が父の書棚に並んでおり、会計を身近に感じていた。
大学時代は勉強に打ち込んでいたものの、1回目・2回目は短答式試験で不合格となり、3回目の受験でようやく合格した。試験合格と同時に、あずさ監査法人へ入所した。私が監査法人に入所してすぐは、まだ四半期決算も内部統制監査もなく、スポット業務も含めて様々な業種・規模の会社を担当させていただいた。
そのため、新人から3年間のスタッフ時代には、まずは公認会計士のベースとなる、監査業務を徹底的に頭に叩き込んだ。なお、入所同期の友人と比べ事務所勤務の日が多く、「ジムキング」という不名誉なあだ名をつけられていたために、限られた業務の中で誰よりも成長したいとひっそり意識を高く持ち続けていたことを記しておきたい。
その後シニアスタッフとなり、内部統制監査制度導入前のいわゆる「3点セット」の文書レビューや、IFRS導入のためのアドバイザリー等のコンサルティング業務を、監査事業部にいながらにして経験できたことは良かった。
また、複数の監査チームのインチャージ業務に従事することでマルチタスクをやり遂げる効率性を身につけたり、日本を代表する企業のJ-SOXやUS-SOX監査におけるあるべき統制とはどういうものかという案件に携わったりするなど、高度な実務を数多く経験できた。
マネジャーに昇格してからは、当然ではあるがマネジメント業務が増えた。具体的には50人~60人程度の年間のアサインメントの調整、新人の育成制度構築、後輩のキャリア相談等、組織作りの一翼を担えた。それまであまり経験しなかったIPO支援業務にも携わり、クライアントが上場するのを間近で見届けることもできた。
監査法人に在籍した約10年間、担当した業務や一緒に働いていたチームメンバーとの関係を含め、一切の不満はなかった。それどころか、尊敬する上司や、頼もしい同僚・後輩が多く、彼らと一緒に働くことでさらに成長できるという土壌もあると思った。
ただ、自分自身の裁量を広げたい、もっとクライアントに身近に寄り添うタイプの公認会計士を目指したいと思い、2016年8月末をもって監査法人を退職、会計事務所を開業することとした。
3今現在の仕事の内容、特徴、キャリアパス
現在は、会計事務所の代表を務める傍ら、ブリッジコンサルティンググループ株式会社(以下、「ブリッジ」)にも参画しBPR支援事業部を統括している。いわゆる「複業」である。どちらが「副業」ということでもなく、どちらもメインであると意識している。
会計事務所では、中小企業・ベンチャー企業の会計・税務顧問、セミナー講師等を行っている。具体的には、法人成りのアドバイス、銀行からの融資や補助金申請のための事業計画の策定、記帳支援、決算・税務申告等である。
一方ブリッジでは、IPO準備企業の業務改善支援やシステム導入支援を行っている。具体的には、クライアントの現状の業務フローをヒアリングし、課題を把握した後、ひとつひとつクライアントと話しあいながら、改善の解決策を探していく。その過程にはシステムを導入して手作業を減らしていくことも含まれる。
また最近では、大手企業との業務提携等のプロジェクトも担当しており、ブリッジの経営理念でもある「一人でも多くの人を幸せに導く懸け橋になる」を実現すべく、より多くのクライアントの業務サポートを行っている。
「複業」のいい点としては、2つあると考えている。
1点目は、片方で得た業務経験や知識をもう片方へ生かすことができること。2点目は、人脈が大いに広がることである。
プロフェッショナルである以上は、クライアントに対して幅広い提案ができるほうが望ましい。そのためには、幅広い専門領域の知識と経験を身につけること、自身の専門分野以外においては信頼できるプロフェッショナル人材を知っていることがクライアントへの価値の提供につながると思っている。
しばらくはこの複業体制でキャリアを積み、自分の価値を高めていきたいと考えている。