会計士の履歴書
與世田 温子

willsi株式会社

取締役

與世田 温子

よせだ あつこ

掛け合わせで新しい価値を生み続ける。強みを活かして会計人の裾野を広げる女性起業家

1983年4月4日生まれ(43歳) 宮崎県出身 埼玉県在住

熊本大学 理学部 環境理学科 卒業 2007年合格

與世田 温子

01

キャリアサマリー

2007

監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)入社

2011

willsi株式会社 設立、取締役就任

「理科が好き」という理由だけで高校、大学と理系に進み、学生生活をエンジョイする。

大学2年のとき、当時メキメキと成長していたソフトバンクの孫社長に憧れ、起業を決意する。しかし、自分は社会のことを何も知らないと思い、まずは社会勉強のため公認会計士になることにする。

2007年、公認会計士2次試験に合格、監査法人トーマツに入社する。ERS(IT監査)と国内監査の2つの部署をかけもちする。

2011年、起業の夢を叶えるため監査法人トーマツを退社、willsi株式会社を設立する。willsi株式会社ではまずスマートフォンのアプリ開発を手掛ける。アプリ開発の事業を始めたのは「スマートフォンが好き」そして「これから伸びる市場と感じた」から。お金も知識もなかったので、まずは自分でやってみようと思い、0からデータベースとプログラミングを勉強。お試しで制作した簿記アプリ「パブロフ簿記」をリリースする。簿記受験生から「パブロフ簿記がわかりやすい」と予想外に大きな反響をいただき、他のアプリを制作するかたわら、簿記のテキスト「パブロフ流でみんな合格日商簿記3級テキスト&問題集」なども執筆している。

02

監査法人における経験およびその後のキャリア選択のきっかけ

監査法人ではIT監査と国内監査の両方を担当させていただき、本当に貴重な経験だった。

IT監査の部署には、IT企業出身でシステムにとても詳しい先輩がたくさんいて、私は先輩と一緒に何十社ものクライアントを訪れた。公認会計士試験でも内部統制監査の一環としてIT監査について勉強したが、実務は甘くなかった。クライアントの担当者は皆システム部門の人だ。行っていることの全体像は理解できるが、目の前で話されている会話がまったく理解できない。最初の1か月は、先輩の影に隠れて、システムの専門用語をこっそり検索していた。先輩からは、ときに厳しく、ときに優しく、たくさんのことを教えてもらった。

勉強のかいあって、1年も経つと次第に1人でも業務をこなせるようになった。ちょうど内部統制監査の導入期だったこともあり、IT統制についてクライアントの方と話す機会が多く、たくさんの経験を重ねることができた。今では、そのときの経験を生かし「パブロフくんと学ぶITパスポート」という本を執筆しているというオマケつきだ。

国内監査の部署では、先輩は皆、公認会計士であり、また同期もたくさんいたのでIT監査で感じたような劣等感を感じることは少なかった。私たち後輩に対しても、クライアントに対しても真摯に向き合う素晴らしい先輩・上司と仕事をすることが多く、私の仕事に対する価値観はこのとき生まれたように思う。

このような状況で働いていたため、監査法人を辞めるときは後ろ髪を引かれる思いであったが、夢を叶えたいという気持ちを優先させ、監査法人を退職した。特に会計や監査、これまでの経験にとらわれることなく、設立した会社の事業を決めた。しかし、仕事に向き合う姿勢や、ビジネスでの細かいあれこれは、監査法人で学んだことばかりだ。大学2年生のとき「自分は社会のことを何も知らない」と、まずは公認会計士になることを選択した自分は正しかったのではないかと思う。

與世田 温子さん

03

今現在の仕事の内容、特徴、キャリアパス

現在はwillsi株式会社でアプリ開発、書籍の執筆を行っている。アプリは簿記だけでなく、行政書士試験や危険物試験もリリースしている。書籍は日商簿記2級と3級のテキストや問題集、ITパスポート試験のテキストなどだ。

特徴は「わかりやすい」こと。もしかしたらユーザー様、読者様から100%「わかりやすい」とは言ってもらえないかもしれないが、私としては日々「わかりやすい」を追及している。「わかりやすい」というのは、初学者や簿記が苦手な人でもスッと理解でき、スラスラと問題を解くことができ、試験に合格できることだ。

そのための工夫として、4コマ漫画やイラストをふんだんに使い、専門用語をやさしい言葉に置き換え、私が問題を解いている様子を動画にしている。4コマ漫画やイラストは、テキストの内容と完全にシンクロさせるため自分自身で描いている。

「わかりやすい」を追及しているのは、私自身が公認会計士を受験しているとき、簿記が非常に苦手だったことに起因する。理学部の学生であった私にとって、簿記で出てくる専門用語は初めて見るものばかりだった。手形などの仕組みも未知の世界。しかも、一生懸命に勉強して仕訳が書けるようになっても、総合問題をどう解いて良いかわからず、何年も点数が伸びなかった。
だから、イメージしにくい会社のさまざまな取引は4コマ漫画でイメージしやすくし、動画を見れば問題を解く流れやポイントがわかるようにしている。

04

あなた独自の強みと今現在の仕事との関係性

私は現在の仕事をするまでずっと、体力と負けん気以外、特にこれといった強みはないと考えていた。

しかし、現在の仕事を始めてから、自分にも強みと言えるものがあるのだと、驚いた。それは「自分の中で何かと何かを複合して新しい価値を生むこと」だ。

プログラムと簿記。イラストと簿記。
私はプログラマーではないし、イラストレーターでもない。プログラムは少し勉強しただけだし、イラストは小さいころから落書きが好きだっただけ。4コマ漫画を勉強したことはないけれど、漫画やお笑いが大好きだ。

でも、それらを複合すると、とても「わかりやすく」なる。簿記は会社の中での取引の流れを仕訳にしただけなので、言葉だけで説明するより4コマ漫画があった方が理解しやすくなる。どうせだったら少しは笑える4コマ漫画の方が楽しく勉強できる。プログラムも、最近はプロの方に修正をお願いすることもあるが、自分でプログラムをわかっているからこそ、何をどう改善すればユーザー様に資することができるか明確に伝えることができる。

知り合いの公認会計士は、会計、監査、財務の最先端で仕事をしており、羨望の念が生まれることもあるが、私は自分の強みを生かして、会計人の裾野を広げる仕事をするのも悪くないと思っている。

與世田 温子さん

05

仕事をしている中で、心が大きく動いた瞬間

会社を設立した当初は、アプリを開発することだけが決まっており、どのような内容のアプリを開発するかは決まっていなかった。しかし、試しに作った簿記アプリを使ってくれたユーザー様から、「簿記が解けるようになりました」「合格しました」という言葉をいただいたとき、こんな私が作ったものでも人の役に立つのか!と心が大きく動いた。

日商簿記3級、2級は、みなさまご存知の通り、超有名資格だ。受験者数も数十万人いる。もちろん通学口座や通信講座がたくさんあるし、書籍もアプリも数多く存在する。なぜ「試しに」簿記アプリを作ったかというと、アプリ開発の勉強を始めたものの、簿記の他に自分が価値を提供できるネタがなかったからで、これを仕事にするつもりはなかった。

だが、簿記アプリについてユーザー様からの反響が大きく、3級、2級、1級理論…と次々に簿記アプリを制作していった。また、簿記アプリは仕訳の練習しかできないので、もっと体系的に説明したいという気持ちにもなり、簿記のテキストを執筆することにもなった。

あのときのユーザー様からの声で、私の心が動くと同時に、弊社の事業内容も決定づけられたのだった。

06

公認会計士という仕事に関連して深く悩んだこと、それをどのように乗り越えたか

公認会計士という仕事に関連して深く悩んだのは、監査法人で働いており、資産除去債務の基準ができたことにより、クライアントに内容を説明し、実際に計上されている金額を確かめていたときだ。クライアントから「私の会社は変化していないのに、こんなにたくさん損失を出さなければいけないのですね」と言われた。

私が深く悩んだのは、会計基準とクライアントの心情に挟まれたことだ。会計基準は、会計をもっとよくするために変わっていくものだ。しかし、クライアントの人の言うことも理解でき、とても悲しい気持ちになった。

どのように乗り越えたかについては、2つの要素がある。

まず1つ目は自分自身の精神を変化させた。他のビジネスパーソンがどうかはわからないが、私は「自分の努力で解決できない外的要因」があると、ストレスを感じたり悩んでしまったりする傾向があった。たとえば「すみません、急なお願いなのですが、明日までに〇〇してください」のような連絡にはストレスを感じない。自分が素早く手を動かせば解決するからだ。しかし会計基準は、まだ若い公認会計士である私には、天からの声のようだった。

だが、今後何十年も仕事をしていく以上、公認会計士であれば基準や法律に従い、他の職種でも法律や規制に従わなければいけない。日本を飛び出しても、結局、他の国の法律に従わなければいけない。基準や法律や規制は、当然、社会の情勢に合わせて変わっていく。「自分の努力で解決できない外的要因」がないことなんてありえない、うまく付き合っていくべきだ、と考えることにした。

2つ目はクライアントへしっかり説明し、納得してもらうことだ。どのような基準で、どのような背景があり、財務諸表上どこに表示され、どのように注記がなされるかなど、できる限り真摯に説明した。するとクライアントの人も「そうですよねー。」と笑顔になってくれた。私の説明はたどたどしかったかもしれないが、先輩方を見ていても、みなさんクライアントにしっかり向き合って説明していることが多く、公認会計士が求められるコミュニケーション能力一つなのではないかと思う。

07

人生の目的と公認会計士という資格

私の人生の目的は2つあって、1つ目は毎日笑顔で楽しく生きること。これはどの職業を選択しても、また働いていなくても達成したい。2つ目は社会に貢献すること。これは公認会計士であるということが非常に役立っている。

監査人として監査法人で働いていたときはもちろん、公認会計士という資格や、勉強してきた知識が役立った。正しい会計数値が世間に公表される前の最後の砦として、社会に貢献しているという自負があった。

現在は監査の仕事はしていないが、簿記を教えるときに公認会計士試験で得た知識、監査法人で働いた経験が役立っている。会計は、単に会社取引の記録として使われるだけではなく、損益の計算、投資の判断など広く深く必要とされるツールだ。だから会計を学ぶ人がもっと増えてほしいと願っているし、会計教育の裾野にいる人間としてもっとわかりやすく教えたいと思う。

社会に貢献、といってもさまざまな方法があると思うが、公認会計士の専門性を生かし、公認会計士にしかできない貢献ができているのを嬉しく思う。

與世田 温子さん

08

これから成し遂げたい事、将来の夢

自分の会社をもう少し大きくして、もっとたくさんの人にサービスを提供したい。また、理想とする会社にしたい。

私が理想とする会社は、さまざまな状況の人が働ける会社だ。
自宅で働きたい、通勤して働きたい、週2日だけ働きたい、週5日働きたい、子育て中で10時から14時だけ働きたい、介護しながら働きたい…

会社が必要とする能力があっても、限定された勤務形態に沿う人しか働けないのではもったいないと感じる。自宅が良い人は自宅で、たとえ子供がいても通勤した方が楽しい人は託児所付きで通勤、バリバリ働いて能力を発揮したい人はバリバリ働いてもらうような会社にするのが理想だ。
そうすれば、サービス面と雇用面の両方で、社会に少しは貢献できるのではないかと考えている。

そのために必要な、会社の規模を拡大するための新しい柱となる事業を安定させたいと考えている。
また、うまくいくかは未定だが、1人1人をケアするためには、あまり会社を大きくしすぎないのも重要と考えている。「売上規模上位10位」には入らなくとも「従業員が幸せな会社上位10位」に入るような会社を目指したい。

與世田 温子さん

09

キャリアを模索する会計士、会計士受験生へのアドバイス

私は簿記教育に身を置いている関係で、会計士受験生の意見を耳にすることが多い。会計士受験生の不安としては、合格しても監査法人に就職できるか、監査法人に就職しても一生仕事に困らない資格なのかということもある。会計士受験生はリスクを負って勉強しているので、合格したあかつきには一生仕事にありつけるか不安に思うのは当然だ。

監査法人に就職できるかに不安はないように思うが、その後、一生仕事に困らないかどうかは人それぞれだ。ただ、公認会計士では生活できないから他の仕事をしている、という人を知らないので、安心して受験をしてほしい。

さて、本題に戻ると、公認会計士を一生モノの資格にするために、積極的にチャレンジしてみてはどうかと思う。監査法人で働いている人は、新しい科目、新しいクライアント、海外勤務…。監査法人以外では、転職や独立、私のようにアプリや書籍の執筆…。現状に固執せず、新しいことに積極的にチャレンジすると、新しい知識や経験を得て、公認会計士という資格が次第に磨かれていくように感じる。そうすると、どんどん仕事が楽しくなり、楽しい仕事に没頭しているうちに、使い切れないほどのお金が付いてくるだろう。夢物語ではなく、私はそのような公認会計士を何人も知っている。

積極的にチャレンジする精神は、会計士受験生にも持ってもらいたい。点数が伸びない科目があるなら、講師や友人に勉強法を聞いてほしいし、後回しにしていた難しい論点に手を付けてほしい。

さらに公認会計士は、何かにチャレンジするのに最適な資格だと感じる。なぜなら、失敗してもリカバリーできるからだ。
私は監査法人を辞めて8年、自分が好きな仕事に没頭する一方、どこかに「お金が尽きたら誰かに頼み込んで監査のバイトをさせてもらおう」という安心感があった。私にとって公認会計士の資格は、チャレンジに失敗してもいいという甘えというよりは、より積極的にチャレンジできる土台のようだ。

ぜひ小さいものから大きなものまで安心してチャレンジを繰り返し、一生モノの資格にしてほしい。