MYKアドバイザリー株式会社 他
取締役
匿名(男性)
インシデントレスポンス事業責任者として不正と対峙。デジタル・フォレンジックなどレアな経験を生かして不正予防にも貢献
1980年代生まれ 非公開出身 非公開在住
非公開(大学卒) 2001年合格
01
キャリアサマリー
公認会計士2次試験合格。監査法人トーマツ(現:有限責任監査法人トーマツ)東京事務所にて非常勤勤務
監査法人トーマツ(現:有限責任監査法人トーマツ)東京事務所に入所。監査部門にて法定監査業務に従事
同法人ERS(エンタープライズリスクサービス)部(当時)兼務。法定監査業務に加え、財務諸表監査の一環としてのシステムレビューや内部統制報告書制度(いわゆるJ-SOX)導入コンサルティング業務に従事。また、同法人におけるJ-SOXサービス提供ツールの開発や法人本部の監査業務高度化プロジェクトにも参画
同法人監査部門帰任とともにマネージャー昇格。法定監査業務を中心としつつ、IFRS導入コンサルティング業務や不正調査業務に従事
同法人のグループ会社であるデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー株式会社(現:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社)大阪事務所に移籍。不正調査業務や監査チームに対する不正調査に関するコンサルテーション業務、大阪事務所における不正調査関連事業の開発を中心としつつ、大手総合電機メーカーの組織再編などのM&A関連業務にも従事
地方におけるFASサービスの需要に応え、また、地方における公認会計士など職業的専門家のキャリアパスを一つでも多く提供することを志し、MYKアドバイザリー株式会社設立
初志貫徹すべく、いばらき総合会計事務所を設立
02
監査法人における経験およびその後のキャリア選択のきっかけ
公認会計士二次試験合格後、監査法人トーマツ(現:有限責任監査法人トーマツ)東京事務所に入所した。これから成長していく企業を支援したいという想いから、最も多くのIPO実績があった同法人に迷いなく入所を決めたが、配属においては成長企業を多く担当する部門ではなく、同法人のコア事業部である監査部門を希望した。
会計士試験の合格は単にスタートラインに立ったに過ぎず、成長していく企業を支援したいといっても社会人経験のない自分では引き出しがないので話にならない。そこで、大手企業の内情を知ることができるばかりか、最先端の監査実務を優秀な先輩方から学ぶことができる監査部門で、しっかりと知見や経験を得て、成長企業に還元していけるようになるべきと考えたのである。
最初の半年は非常勤職員としての勤務であったが、幸いにも新興企業向け市場に上場した直後のIT企業にアサインされた。9月決算で当時から四半期決算が求められていたため、ほぼ毎日深夜までクライアントの幹部たちとともに数字のチェック、修正、経理を含む管理体制の改善に明け暮れ、決算発表前には徹夜してギリギリのタイミングで監査を終え、その足で別の現場に往査したこともあった。社会人になりたて(正確には社会人になる前)に、まるで新入社員のように迎え入れていただき、公私ともに今では考えられないような色々な経験をし、また新社会人としてクライアントからも指導を受けられたことは本当に幸運であった。
また、紙幅の関係で一人一人を挙げることはできないが、所属した部署には人格としても能力的にも優れた方ばかりで、特にインチャージとして共に仕事をさせていただいたパートナーは、地区事務所長、監査部門長、審査部長の他、監査法人本部の経営企画室、マニュアル室、品質管理など、全てにおいて、一段どころか二段も三段も上の方ばかりであった。本来、若手パートナーが務めることの多い監査報告書の最下段にサインするパートナーですらそうであったから、自らの強運には驚くばかりである。
そんな状況であったからだろう。ITの知見を身に付けたいと言えば兼務が許され、いわゆるJ-SOXの知見を身に付けたいといえば、金融庁に赴き企業会計審議会での議論を内部に持ち帰りツールに落とし込む業務を与えてもらえ、Deloitteのグローバルカンファレンスに出たいと言えば日本における監査高度化効率化の取り組みを紹介するという大役をいただくなど、思えば好き勝手させていただいた。
ちょうど10年たったころ、東日本大震災が発生した。震災直後の1週間は出社禁止、それ以降も例年のような手続ができない状況であったが、それでも無事監査意見を出すことができた。この事実と、震災の深刻な被害を目の当たりにしたことは、人生について考えるきっかけとなった。そして、代替可能性という軸で考えた時に、家族を超えるものはなく、今の仕事は法人があれば私である必要はないこと、それより早いうちに別の仕事を経験した方が専門家としての幹が太くなるだろうことに改めて気づいた。
早速、家族の地縁のある大阪に移住し、今までの経験の中で最も関与が薄かったFAS業務を経験するため、同法人のFAS会社に移籍した。当初はM&Aや組織再編などをやってみようかと考えていたが、ちょうど大阪でも不正関連事業を立ち上げるということであったことから、その担当となった。徐々に環境に慣れていく中で、どうやら需要にマッチした供給が少なく、実は困っている組織が少なくなさそうだ、ということもわかってきた。そこで、当初目途としていた3年を過ぎた時に、同僚とともに現在の会社を設立し、独立に至った。

03
今現在の仕事の内容、特徴、キャリアパス
MYKアドバイザリー株式会社は、大阪と福岡の2拠点に加え、グループ内に税理士法人を擁し、近畿以西と東京を中心に、M&A事業と不祥事予防や早期発見を含む広義のインシデントレスポンス事業の2本柱で事業を行っている。M&A事業では、独立した専門家としての立場を堅持している。専門家としてのサービスに注力する弊社のポリシーから、ともすれば取引の成立を促すインセンティブにつながるようなマッチングサービス等の業務を自らは行わず、財務税務DDやバリュエーション、ディールアドバイザリー業務などを中心に行っている。
私は、インシデントレスポンス事業の責任者として、現在は不正調査やその支援を中心に業務提供を行っている。具体的には、不正事案における社内調査に対するアドバイスや社外委員としての調査の実行、デジタル・フォレンジック調査など会計士としての総合力を活かした業務がこれに当たる。また、このようなデリバリーだけではなく、原則都道府県ごとにある弁護士協同組合との特約店契約やデジタル・フォレンジックツールベンダーとのアライアンスなどの渉外業務や、インシデントの予防や早期発見を実現するという観点からの内部統制関連業務の開発も担っている。
このように、公認会計士としての専門性をコアとしつつも、上述の経験から得た会計士や弁護士などの専門家人脈とITや内部統制のスキルを活かしてニッチな業務を行っていたり、それと並行して、会社としての渉外業務なども行っていたりするのは、需要にマッチした供給がないたために実は困っている組織を支援したいという想いがベースにある。加えて、昨今の環境を踏まえた私見として、情報技術の進歩のスピードは既に人間の成長スピードを大きく超えている。来るべき仕事内容の変化や多様化に対応するには、何か一つを極めることも大事だが、多くの者がそうなることはできないし、必ずしも必要ではないだろうという考えがある。特に、私のような非才の身にとっては、コアな能力を持ちつつも幅広く連携できる能力、情報をキャッチし組み合わせることができる能力を磨くことがより重要であろうと思われるため、数年先も予測しづらい現在ではあるが、どうなってもある程度対応できるように、ある軸に沿ってキャリアを組み立てているつもりである。
04
あなた独自の強みと今現在の仕事との関係性
私独自の強みは、組み合わせの独自性であろう。つまり、過去の幅広い経験によって得たスキルや特徴の組み合わせがユニークである点が挙げられるのではないかと思う。例えば、公認会計士×大手監査法人出身×インチャージ経験であれば、それなりの人数がいる。しかし、それに地方拠点(大阪と福岡)×協会役員×公認情報システム監査人×公認不正検査士×不正調査実務の経験×デジタル・フォレンジックの知見など、すべてとは言わず、いくつかの特徴を組み合わせただけでも、かなりレアになる。また、この外観的な“量”の面に加えて、より重要な“質”の面、即ち実務経験においても、例えば、大手監査法人の経験といっても単に上場企業の監査をしていたということではなく、上述③の内容を含む大変貴重な経験をさせていただいている点も強みであると考えている。
現在の仕事は、定期的に法令等に基づき行われる業務ではなく、顧客の状況や要望に対し現実的なリソースを踏まえて業務を開発して提供する、いわゆるスポット業務である。案件ごとの状況を踏まえて、その時点でのベストと考えられるアプローチで業務を組み立てることが求められるとともに、ベストな選択は時間の経過とともに刻一刻と変化していくのであるから、関係者の利害調整能力やプロジェクトマネジメント能力も求められる。また、会社と事務所を運営している以上、業務の拡大や組織運営についても目を配らなければならない。この中には、当然にビジネス一般の常識や感覚といったものも含めた能力も求められる。
これらの業務を効果的かつ効率的に遂行するためには、当然に実務に裏付けられた広い知見が必要となってくるが、まさに私の強みが活きている。例えば、監査会計やITなどの提供業務に関する経験と知見はもちろん、インチャージとして会社や監査責任者、他部門の者を含む数十名の監査チームメンバーを巻き込んで、いくつも失敗しながら得たプロジェクトマネジメントスキル、コンサルティング業務や非常勤時代の経験から得た業務提案や価格を含めた交渉の感覚、気運も味方し経験させていただいた所属部門における人事評価やメンタリングの経験、国際会議や現地監査人との議論など、今までの経験で無駄になったものは一つもない。これは私の例に限らず、どなたにも言えることではないだろうか。

05
仕事をしている中で、心が大きく動いた瞬間
監査時代、“通常の”監査業務において心が大きく動くことはなかった。監査では監査報告書とマネジメントレターは対外的に発行されるが、そのために行う監査手続の成果である監査調書は開示されない。また、要求事項は十分に行う前提であるものの、できる限りクライアントに負担をかけないよう効率的に行うことがヨシとされる。監査は、“知らせがないのが良い知らせ“の世界である。チームメンバーとの一つの目的に向かって進むことや自己やメンバーの成長を感じることも少なくないことから、満足感はあるしとても楽しいことでもあったが、それまでであった。
しかし、監査といってもトラブルは起きる。例えば、東日本大震災や中越地震などの自然災害や、不祥事などの人為的災害が生じた場合。チームメンバーや法人の支援部門、何より監査クライアントも一丸となって仕事を進め、トラブルに負けずに成果を出した時には大きな達成感を得た。
また、プロジェクト案件でも同様のことが言えた。例えば、いわゆるJ-SOX導入やデータ監査の導入などの際にも、クライアントを含めて議論を交わし、時には意見の対立などの困難な状況も多くあった。だが達成すれば長期的にはより好ましい状況になると信じてやり遂げた時には、クライアントからの感謝の言葉を含め、やり遂げてよかったと感じた。
独立してまだ2年程度であるが、監査時代より多くの心動く瞬間がある。うまくいかないことも覚悟して、スポットでいこうと決めていたが、いざ開業すると想像してはいたが色々とすべきことがあり、すぐに数か月が経過した。それでも営業活動はしていなかったが、前職で様々なことを経験していたことが奏功し、同業者や過去のクライアントはおろか、当時のクライアントから転職した方からも転職先案件の引き合いを頂いた。その一つ一つがありがたく心動かされるのであるが、特に大阪の私にわざわざ東京や福岡など近畿圏外の地域からもご連絡をいただけていること、中にはもう監査はやらないのか、担当してくれるなら……とまで言ってくださる方までおり、本当に感謝の気持ちしかない。
また、独立するとプライベートでも色々とつながりが増える。独立した方はいずれもそうだろうとは思うが、フットサルやフルマラソン、果ては漁船での磯釣りのお誘いなどをいただくにつれ、より良い仕事をしなければというよりも、より良い仕事をしたいと心から思えるようになる。
06
公認会計士という仕事に関連して深く悩んだこと、それをどのように乗り越えたか
“公認会計士という仕事”を会計監査と捉えるならば、独立性に基づく専門家としての価値について悩んだことが挙げられる。
そもそもクライアントから依頼を受けて財務諸表等の作成物の保証を行っているのに、その依頼主に対して批判的機能を発揮するという構図に対して、本質的に悩む者も少なくないだろう。会計監査人は財務諸表等に存在するかもしれない誤りを未然に防ぐのだが、仕事をしっかりしていてもその成果は見えづらい。人は困ったときに助けてくれた人に感謝しがちだが、本当は未然に防いだ人の方が称賛されるべきという、『焦頭爛額』という故事がまさに当てはまる仕事であると思う。最も成果を享受する者の代表格である投資家と直接顔を合わせることもなく、会計監査の必要性はクライアントには理解されづらい。なぜこんなに面倒な手続きの対応を行う必要があるのかを、監査の専門的教育を受けていない人が納得できるように説明を行うこと自体が難しい。加えて、毎年のように新基準が適用されるが、会計は相対的真実であるから、ある一面から見ればより好ましい基準なのかもしれないが本質的に一意に結論が出せるものでもない。
常にそのような環境で仕事をするため、クライアントと意見の対立が起こった際には、自らの自律や信念、しかも独り善がりではなくクライアントの長期的な繁栄に資するか否かの観点からも妥当なものであることが求められるのであるから、特に経験の浅い時期には、大いに悩んだ。これは会社に求めるべきものなのか、必ず守ってもらわねばならないものなのか、他に方法はないのか、どのように説明すればよいのか、悩みの連続であったように思う。特に、会社側に近い経験を原体験として有することから、立場を踏まえどのようにふるまうべきなのかについては、監査を行っていた期間はずっと悩んでいたように思う。
もしかしたら、そもそも乗り越えられるものではないのかもしれないが、多少なりとも悩みを解消するには、やはり先輩後輩との議論や書物に当たるなどして、客観的見地から自らの考えを整理し続け、また、時には組織の仕組みとしてのコンサルテーションを積極的に活用して見解を洗練させ、実際にクライアントとの議論を多く重ねて、実務経験を積み重ねるしかないだろう。
なお、独立後はありがたいことに、自らの信念と自己責任に基づき納得感を持ってできる仕事を選んで構築させていただいているので、“公認会計士という仕事”に関連して悩むこともあまりないのが正直なところである。
07
人生の目的と公認会計士という資格
人生の目的は人それぞれであるが、仕事で成功し衆目を集め富を築くにせよ、ワークライフバランスを保った生活を送るにせよ、公認会計士という免許があるということは、プラスにしかならない。もちろんそれだけでは全く十分ではないが、自らの経験からは間違いなくあった方がよいと言い切れる。
経験や得意分野の差は当然にあるが、広範な試験科目を有する難関資格にパスしているという最低限の知識ベースをクリアしていること、制度的に下手なことをすれば資格を失うということや質を高め維持する体制を整えていることなどから、社会的に信頼ができる者であることを(少なくとも外観的には)公に認められているだけでも十分にその価値がある。実際、利害関係者が広範に及ぶような有資格であることが(実質的に)求められる仕事において、そもそも引き合いを受けるか否かには資格の有無は当然関係するが、それ以外の仕事において独立をしてからも門前払いを受けたことはない。但し、だからと言って必ずしも質の高い、クライアントにとって価値のある仕事ができるというわけではなく、それとこれとは別問題である。
また、現実的な問題として、仮にチャレンジをしてうまくいかなかったとしても、現在のような環境において、公認会計士資格者が何らの仕事も得られないということは考えづらく、そのような人に出会ったこともなければ、聞いたこともない。つまり、経済的な面からも心理的にチャレンジしやすいのは、会計士の有利な面といえるし、私ももしこの資格がなかったら職を変えるという選択自体持ち得なかったと思う。
どのような人生の目的を持つにせよ、少なくともその熱意や能力を発揮するためのハードルが下がるという意味においては、決して損することはない。現在の仕事に十分に満足している方以外で、もし資格維持費用が掛かる、継続的研修が負担だという理由で登録をやめようとか、試験に挑戦するのをやめようという考えをお持ちの方がいるならば、もう少し冷静に考えてみてもいいのではないだろうか。きっと、ハードルを乗り越えるための時間などのコストを十分に上回る何かが得られるはずである。

08
これから成し遂げたい事、将来の夢
家族や周りの方々が健やかに暮らしていくこと、これが夢である。そのためには、まず自分自身が精神的にも身体的にも健全でなくてはならない。その上で“何ができるか”である。
昨今、ワークライフバランスが叫ばれて久しいが、個人的にはあまりピンときていない。組織で就労していて、時間と労働力の対価として給与を得ているならわかるが、そもそも公認会計士をはじめとした職業的専門家は時間や労働力を提供する者ではない。経験の浅いうちはそれでも良いかもしれないが、いずれ自らを売らなければならなくなるのであるから、我々にとって本質的にワークとライフは一体であり、単に自律してメリハリをしっかりつけましょうという話と捉えたほうがしっくりくるのである。例えば、就業時間中は専門的能力を含む業務提供能力を養うこと目的に業務に専念するとしても、それ以外の時間でも自分であることには変わらないのであるから、子どもと遊んだり、旅行に行って見聞を広めたりする経験自体にも意味があるのではないか。
今は独立しているので、自己責任の中で納得感を持って仕事をさせていただいている。疲れたら仕事を調整して人の少ない時期に完全に休んだり、半日は運動をしたりしてリフレッシュし、より広い発想で効率的に仕事をする。反面、これは気合を入れないと、という時には数か月でも休みなく、毎晩深夜まで仕事をする。体はきついが、納得してやりたくてやっているし、相応の対価もいただけるのであるから、精神的にきついことはない(もちろん業務としての通常のプレッシャーはあるが)。このメリハリ、特に完全にリフレッシュできるというのが実は大事で、正解がなく個人の努力ではどうしようもないほど早くなっている世の中の流れの中で、業務に忙殺され続けることなく、一度立ち止まって視野や発想を広げることも重要なことである。
恥ずかしながら、何十年も先のことを具体的にイメージしているわけではない。ただ、初心のまま、これから成長していく企業を支援したいという想いは変わらず、むしろ企業に限らなくなってきている。私はたまたま公認会計士であるだけであって、一人の人間として、近くに求める人がいるならば求められるものを少しでも還元し続けたい。結果として、地域に何か貢献したね、と言われるようであればそれで十分である。そして、50歳なら50なり、60歳なら60なり、70歳なら70なりに、いてくれてよかったと思われる人間になれれば、夢の実現に近づくのではないだろうか。そのためには、どのような選択をすれば可能性が高まるか、常にそれだけを考えている。2018年に事務所を開設したのも、その一つである。

09
キャリアを模索する会計士、会計士受験生へのアドバイス
キャリアを模索するということは、選択肢があるということだと思う。そのこと自体、幸せなことだと気付いてほしい。私は、非常勤時代の経験もそうであるが、何より様々な不祥事の現場に遭遇し、そこで働く人間の本音の一端を垣間見ている。共通して言えるのは、みな個人レベルではこうしたいとか、こうあるべきとか、これはおかしいとか、自分の意見を持っているにもかかわらず、それを押し殺し、発露できていないということである。それでも能力がある人間は昨今の労働環境の変化も相まって、転職など他の選択をすることができているが、それも一握りである。多くの場合、現実的な問題から、そのような思いを隠して、組織のためという免罪符に救いを求めて、割り切った日々を過ごし、いつしか染まっていくほかないのである。
そう考えると、どう生きたいのかを考え、それを実現させることができる可能性がありつつも、漫然と無為に時間を浪費して可能性を狭めているような状況であれば、動いた方がいい。反面、どのような環境においても学ぶことはいくらでもあることも事実であろうし、私もそうであったが、これまでのキャリアから外れることには相当の勇気がいる。しかし、実体験から言えば、動かないで一生どこかに悩みを抱えつつ過ごして後悔することや、動かずにいたために年月ばかりが過ぎ、他の選択肢しか残らない状況に追いやられることの方が、よほど怖い。何の責任も負えないが、上述⑦のように、もし失敗しても何とかなると思えるのであれば、なおさらである。人の想像力には限界があるので、実際経験してみないと真に理解はできないだろうし、やってみないと何が起こるかわからない。人間万事塞翁が馬、少しでも動いたら周りが動き出し、思いもよらない結果がでるというのはこの数年に限っても何度も経験している。
キャリアを模索する上で最も大事なのは、どのように生きたいか、何が幸せと感じるかを内観し、自分にとっての成功とは何かを正しく理解することに尽きると思う。何が成功かは人それぞれであるが、私を例にとれば、自分にとって成功は内面的なもの、心の問題であるから、仮に運よく他人から見て成功と言われるような財産や地位を得ても、(もちろんその方が望ましいけれども)そのために自分にとって大事なものを失うようでは本末転倒、長続きしないだろうと思うのである。失敗するかどうかということではなくて、幸せではないから、しんどくなるのは目に見えており、夢の実現が遠のく。そもそも、財産や地位については満足の水準も人それぞれであるところ、私の場合はあまりこれらに頓着しないので、結果として後からついてくる。
他人から見れば一見私の決断は理解しがたいようで、最初にチャレンジをしてからもう何年も経つが、つい先日もなぜこのような道を選んだのかと問われたところである。本人としては極めて筋の通った決断であり、何より幸せなのだが、それでいいのではないか。自分や周りが不幸で何が成し遂げられようか。
色々な“できない”や“制約”を取り払い、まずは是非、自分に素直になってほしい。決断の結果、色々な経験をして、また環境も変わって、将来言っていることが変わるのも当然であるので、あまり難しく考えず今の自分と向き合えば十分である。


