会計士の履歴書
辻 さちえ

株式会社エスプラス

代表取締役

辻 さちえ

つじ さちえ

「不正・不祥事」が生じない組織作りをサポート。強く、ポジティブに、そしてしなやかに駆け抜ける女性会計士

1972年4月23日生まれ(54歳) 大阪府出身 東京都在住

大阪大学 経済学部 経済学科 卒業

辻 さちえ

01

キャリアサマリー

1996

監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)入所

2015

株式会社エスプラス 設立

2016

公認不正検査士協会 理事就任

2017

株式会社シーボン社外監査役就任

2021

SBSホールディングス株式会社社外取締役(監査等委員)就任 新電元工業株式会社社外監査役就任

2022

大塚ホールディングス社外監査役就任

2023

中国電力株式会社内部統制強化委員会外部委員就任

小さい頃から勉強も運動も頑張る負けず嫌いのかたまりだったと思う。高校は大阪府立北野高校に進学し陸上部に所属。今でも友人関係が続く恵まれた友人との出会い、恵まれた環境での勉強、そして陸上部キャプテンとまさに青春を謳歌した。しかし、第一志望大学の受験に一浪しても失敗。大学でも続けていた陸上部の部室でダラダラしていた大学3回生の春に「このままでは腐ってしまう」と一念発起して資格試験の勉強を開始。経済学部だったためその学部に近い難関資格ということで公認会計士資格を選ぶ。その後は持前の負けず嫌いと根性で勉強をはじめて1年後の大学4年生の時に一発合格。ところが世の中はバブル後の超就職氷河期で、監査法人の就職ができないという状況を経験し、「仕事がある」ということの有難さを会計士人生のはじめに味わうことになった。おかげでどんなに仕事が忙しくてもネガティブな感情にならないという大変恵まれた力を身につけたような気がする。

合格から1年後の1996年10月に監査法人トーマツに入所。会計監査部門に所属し、様々な業種、規模の会社の会計監査、IPO支援業務に従事した。会計監査は丸9年間経験した。上場企業の主査も経験し、監査業務を一通り経験したとの思いから、新しい仕事に取組みたくなり、2005年にアドバイザリー部門(エンタープライズリスクサービス部門)に転属。J-SOX支援、決算早期化支援、内部監査支援等多くのプロジェクトにプロジェクトリーダーとして従事した。アドバリー部門には10年間在職。アドバイザリー部門在籍中の2009年長女を出産し、10か月の育児休暇を取得した。

2015年に19年勤務したトーマツを退職し、内部統制、内部監査関連のアドバイザリーサービスの提供や企業不正関連のセミナー講師を数多く実施している。その他、公認不正検査士協会の理事や、上場会社の社外取締役や社外監査役などガバナンスの知見を活かした役職にも就いている。

02

監査法人における経験およびその後のキャリア選択のきっかけ

監査法人には、会計監査9年間、アドバイザリー部門10年間(約1年間の育児休暇含む)の約19年間在籍した。会計監査では、規模、業種ともに様々な企業の会計監査を担当。大学卒業後、社会経験がなく監査法人の入所だったため、社会の仕組み、組織の動き方、動かし方といったものを様々な会社から学ばせて頂いたと思っている。また、電力会社での監査では、原子力発電所内の核燃料や火力発電所での燃料の棚卸、高級ホテルの監査では、スパ施設の固定資産振替や高級ワインの棚卸、百貨店の監査では、振袖や絵画の在庫評価、テレビ局監査ではいわゆるマスコミの営業職の方に内部統制の必要性を説明するなどなど、、、本当に幅広く、そして好奇心がくすぐられるのが監査業務であった。
入社4年目ぐらいから小さな上場会社の主査業務を担当し監査業務の全体像を徐々に把握していくなかで、「監査」というものを「監査報告書を出すための1年かけたプロジェクト」と捉えるようになってから断然監査業務が楽しくなってきたように思う。ただ、その主査業務で数年たってくると、忙しい割にはルーチンワークのように思え、「監査」という軸を使って別のことをしてみたい、という思いが出てきた。プライベートでも転機があったため入社から9年目、アドバイザリー部門であるエンタープライズリスクサービス部門にERS)転籍した。

ERS異動当初は、いわゆるJ-SOXバブルがまさに始まろうとしていた時で非常に繁忙な時期であった。大手企業のJ-SOX対応のPJTリーダーとともに、監査法人全体のJ-SOX対応のガイドライン作成PJTの主要メンバーとなった。この時期、徹底的に基準書や周辺書籍を読み込むことで内部統制を学び、実際に実務に落とし込み、それをメンバーに説明するということを実施したことで、監査だけでは身につかなかった「自分で作り出す力」「人前でわかりやすく話す力」というものが身についたように思う。また、監査部門とは異なり、パワーポイントで提案書を書くことになった。提案書は、自分たちの能力や知見を「商品」という形で見せ、それに値段をつけるという作業となる。これもなかなか監査では鍛えることのなかった力だった。

監査にはないスキルや知見を身に付け、先輩、同僚、後輩ともにチームで仕事をすることが楽しく、充実した毎日ではあった。その一方で、「今後これをずっと繰り返していくのか」「今後、監査法人のパートナーになって何ができるだろうか」といったこと考えるようになる。その結果、「組織の力ではなく、自分の知見で、フットワーク軽くお客様に提供できる力はついたのではないか」と思いが至り、退職を決意した。

私の場合、なぜか9年ごとに次のステージに進みたくなる癖があるように思う。次は6年後に何か方向転換をしているに違いない。

辻 さちえさん

03

今現在の仕事の内容、特徴、キャリアパス

退職後、株式会社エスプラスという会社を立ち上げ、内部監査部門やコンプライアンス部門を中心に内部監査支援、J-SOX対応、コンプライアンス意識調査等内部統制関連の業務をクライアントに提供している。基本的には独立している仲間の公認会計士のネットワークから、受注した業務の性質によってチーム編成して業務を実施している。独立をしたことで、様々な監査法人出身の公認会計士の方と出会う機会も増え、また様々な分野の専門家の方と直接お会いできる機会もあり、本当にネットワークが大きく広がったように思う。
公認会計士の資格と共に、公認不正検査士という資格も保有しており、またその団体である日本公認不正検査士協会の理事もしていることから、企業不正関連のセミナーに多くのお声を頂き、年間約40本のセミナーで話す機会を頂いている。セミナーは私にとってはインプットの機会でもあり、新しいお客様との出会いという意味では広告宣伝ともと捉えており、同じテーマであってもその時々の状況を加える等、工夫をして少しでも良い情報を届けようと思っている。

また、2017年から、株式会社シーボン(東証1部)の社外監査役となっている。監査法人に長年勤務し、その後自分の会社を設立した私にとっては、上場会社の「一員」となり会社の経営そのものに当事者として関わっていくはじめての経験となっている。現在は就任2年目になるが、会社の持続的な成長のため、社員の幸せのため社外の監査役としてできることは何か、試行錯誤をしているところである。基本的には月2回の会議(監査役会と取締役会)への出席とその事前準備に加えて、執行役員を含めた社内役員の方へのインタビュー、部長との情報共有会、社外取締役との情報共有会やCGコード対応の意見交換会、役員勉強会の講師の実施など、比較的多くの時間を使い、積極的に業務を実施している。ちなみに、日本公認不正検査士協会の理事も、社外監査役の就任も、もともとはセミナーでお話させて頂いたことが縁でその職への打診を受けることになった。積極的に人前でお話し、ネットワークを広げることで様々なチャンスにつながっている。

加えて、2017年から公認会計士協会東京会の女性活躍促進PJTの広報チームリーダーとなり、女性公認会計士の魅力を発信する役割を担うことになった。女子中高生へのキャリアの授業、インタビューの実施、受験雑誌への掲載、広報誌へ掲載等など資格の魅力や働き方の工夫等を発信し始めた所である。

私のキャリアは前述のように多岐にわたる役割をしていることが大きな特徴にように思うが、すべて公認会計士として実務として経験をした「監査」「内部統制」の専門知識を基盤としたものでありあくまでも自分の専門エリアでの活動である。このことから、無理なく矛盾なく役割を果たすことができるように思う。

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あなた独自の強みと今現在の仕事との関係性

比較的長い期間監査法人に在籍し、会計監査、アドバイザリー共に10年近く経験をしていることで、様々な規模、業種、業務について経験・知見があることだと思う。それゆえ、スタートアップから大企業までその企業の方の状況に合わせて、業務のご提案をできる点につながっているように思う。

後は、女性であること。これが結構な強みになっていると思う。残念ながら仕事を続けている女性公認会計士の割合は、全体の14%とかなり少数である。このため例えば座談会やインタビューなどのお仕事で「女性公認会計士のお話を聞きたい」といったことでお仕事となる機会が結構多い。セミナーのお仕事を多く頂けるのもそのように露出をする機会が多いためと思われる。このように頂いたチャンスは有難くお引き受けし、そこで、先方の期待を超えるお仕事を確実に行い、真のプロフェッショナルとしての能力を認めて頂けるように努めている。

辻 さちえさん

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仕事をしている中で、心が大きく動いた瞬間

今から15年ほど前、期末監査の真っただ中に会計不正を発見したこと。不正は誰も幸せにしないということを心に刻んだ瞬間。その時の経験と思いがあるからこそ、内部統制や不正防止ということは「建前でない」とはっきり言いきることができる。不正を起こそうという思いに至らない組織とはどのような組織か、時代と共に組織の在り方や雇用の在り方、働き方が変わってくる中、常に考えながら仕事をしている。

もう一つは、東日本大震災後、東北の復興工事の購買プロセス設計の仕事をした際、津波で大きな被害を受けた宮城県の女川、石巻、岩手県の田老の現場で仕事をしたこと。大震災の被害を目の当たりにしてなんともいえぬ無力感も覚えながらも、公認会計士という資格を活かした復興支援でできることをしっかりとやり抜こうという強い思いで行った仕事であった。

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公認会計士という仕事に関連して深く悩んだこと、それをどのように乗り越えたか

耳が痛いことを「伝えるべきか」「伝えるとしたら何をどのような順番で伝えるか」という点は常に悩ましい。
まず、「伝えるべきかどうか」についていうと、企業、そこに働く人々はいろいろな事情、背景があって「現状」がある。ただ、それが外からみると改善すべき、又はやめるべきと考えられるとき、その時分の考えは本当に正しいのかと考えてしまう。これについては、日々悩み回答を出していくことだと考え、試行錯誤しながら、クライアントの皆さんに鍛えて頂きながら経験を積むことで乗り越えてきた(又は乗り越え続けている)と思う。また、一人よがりにならないよう、信頼できる会計士仲間とディスカッションをして頭を整理することも大切だと思っている。特に独立した後は、私の考え、主張にたいして組織的に検証をしてくれる人はいないことになる。このため、特に会計士仲間とのネットワークが重要だと感じている。
次に「どこまでその順番に伝えるか」については、自主的に色々勉強をした。行動経済学、心理学、コミュニケーション関係の書籍をずいぶん読んだように思う。古典からHOW-TO本までヒントとなるものがたくさんあった。これらの知識とそれから多くの場数を経験することで乗り越えてきたのではないか。そして、できるだけポジティブに伝えること、前向きな提案にすること、それを心がけている。

それから、もう15年以上前になるが、シニアスタッフからマネージャーになるころ、心身ともに疲れてしまって体調を崩した時期。仕事への向き合い方が間違っているのではないかと思い悩んだ時期がある。ちょうど外科的な手術をすることになり、それと合わせて1か月休職をとり、ゆっくり体を休めて回復させた。この時期の経験があることで「心身ともにつらい」という状況をよく理解ができるようになり、自分自身の、そして一緒に働くチームメンバーの健康にも気を配るようになった。

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人生の目的と公認会計士という資格

人生の目的といった大きなことを考えるのは苦手で、今与えられた役割を精一杯やり切ることで道ができてきたというタイプではある。が、あえて言うなら、「背筋を伸ばして凛として生きる」こと。
仕事人としても、母としても、そして女性としても、強く、ポジティブに、かつしなやかな生き方をしていきたい。そのような生き方をするために、公認会計士という資格は、拠り所でもあり大切なツールでもある。

辻 さちえさん

08

これから成し遂げたい事、将来の夢

だれも幸せにならない「不正・不祥事」が生じない組織づくりのサポートをしていきたい。そして、夢というもっと大きなことであれば、だれもが不正に手を染める気なんか起きないような、自律した個人とそのような個人に支えられた組織を実際にお客様と作っていきたい。
最近はとても早いスピードで、組織の在り方や働き方が変化しており、それを支えるテクノロジーもまた急激に変化している。フラットで自律的な組織での「内部統制」は伝統的なボスマネジメント的な組織の「内部統制」とは異なるはずである。そのような変化をとらえ、考え続け夢に近づけるようにしていきたい。

辻 さちえさん

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キャリアを模索する会計士、会計士受験生へのアドバイス

「会計士受験生にメッセージを」というリクエストにはいつも言っていることであるが、勉強を始めたのなら、合格して終わりにすること。雑念や雑音、周りからの遊びの誘惑があるかもしれないけれど公認会計士は合格しなければ経験も積むことができない。試験は努力がそのまま報われるもの。まずは目の前にあるテキストを確実に勉強し、たくさん問題を解く(アウトプット)ことを重視すると理解度の定着にいい。アウトプットは仕事においても大切な能力となる。

そして、キャリアを模索されている方、1年間は「これ以上頑張れない」というぐらい仕事に集中した1年間を作ってみてはどうか。今目の前にある仕事に全力投球してみる1年間で、自分のやりたいこと、自分に合う働き方、仕事に対する思い色々見えてくることもあるのではないかと思う。
もし、やめてしまおうかと考えている方、公認会計士という資格は、自分の意思で様々な働き方が選択できる。現に様々な働き方をしている素敵な仲間がたくさんいる。勇気をもって、もう少し外に出て、ネットワークを広げ、情報収集をしてみてほしい。そして公認会計士という資格を強みにした仕事を続けてほしい。続けてこそ見えてくる世界があると思う。