
freee株式会社
専務執行役員 金融事業本部長
武地 健太
たけち けんた
失敗を恐れずチャレンジを楽しむ気質が、ベンチャー企業経営成功のカギ
1981年12月24日生まれ(44歳) 京都府出身 東京都在住
京都大学

01
キャリアサマリー
朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)大阪事務所に入所。会計監査・IPO支援・財務DDを担当
ボストンコンサルティンググループ入社。金融、産業財、小売業界等のクライアントに対する、事業戦略策定、全社ターンアラウンド、組織設計などのプロジェクトに従事
freee株式会社執行役員CFOに就任。現在は、専務執行役員パートナーカンパニーCEO
02
監査法人における経験およびその後のキャリア選択のきっかけ
監査法人の選択は正直言って深く考えなかった。当時あった会計士2次試験の最中に祖父が亡くなったこともあり、就職活動の初動が遅くなった。幸いにも地元で縁あってあずさ監査法人の大阪事務所に入社することができた。
これは後から知ったことだが、東京よりはるかに小回りの利く組織だったようだ。4年強の在籍中に監査、財務デューデリジェンス、IPO支援を幅広く経験することができた。また業種も、製造業、商社、百貨店、小売り、ホテル、金融機関、建設業、サービス業に海運会社と、手広く関与させてもらった。
自分は一つのことだけを究めるというより、色々な経験を積むことが向いていたと思う。何をやっても楽しめるし面白かった。その中でも監査はすごく得意で、前期に見つけられなかった誤謬を見つけては、監査ってこんなに面白いのかと思った。税効果の税率差異分析資料だったり、連結の一式だったり、連結のキャッシュフローのワークシートだったり、それまで会社になかった仕組みを自分でゼロから作るのも得意だった。監査差異を修正してもらいながら決算がどんどん正確になっていくのは気持ちが良かった。
デューデリジェンスでは、我々の算定する数字と会社の運命が直結している。会社の売却価額や、銀行が支援を続けるかが、はじき出される数字で決まる。数字を出す人がすごく偉いような感じになる。自分はまだ22、23歳だったが、数字を出したときに、「なるほど、すごい」と会社の人に言われるのが嬉しかった。監査法人の仕事はどれもこれも楽しめていたと思う。
ところがある日、クライアントの経理処理を巡り、上司と意見が対立した。その処理は私個人としては監査人としてこだわるべきポイントだった。恐らくプロフェッショナルであることを大切にしていたのだと思う。多少の間違いは許せても、いざ何かあったときにまで妥協するのは当時の私は許せなかった。今から振り返ると相当生意気だったとは思うが。これが26歳のときの出来事で、キャリアを考えるきっかけになった。
当時は短絡的に、資格に頼るとプロフェッショナルとしてこれ以上成長できないと考えたのだと思う。“思う”というのはそこまで当時言語化はできてなかったが、今振り返ってみると資格に頼りたくないと考えたのだろう。
そこで再び短絡的に思いついたのがコンサルタントだった。コンサルティング会社の面接を幾つか受けていく中で、とあるコンサルティング会社2社から「うちに来てほしい。でもうちに来ないならBCGさん(ボストン・コンサルティング・グループのこと、以下BCG)に行きなよと」と言われた。もともとBCGのことは知っていたのだが、同業者にも認められるのだったらそこはすごいなと思った。それで、たまたまBCGの関西説明会が大阪であると知り、採用面接を受けると内定がもらえた。今もこの時内定をもらえたのは不思議でならないが、猪突猛進にプロフェッショナルになりたい、という想いが評価されたのかもしれない。
これは余談だが、BCGの説明会を受けにいくとき、ちょうど当時のクライアントの監査役さんとビルの前で会った。土曜日だったので「こんなところでスーツ着て何をしているの?」と言われて、「実は今日も仕事なのですよ」と返答。緊張していたが、あれで我に返れたような気がするし、隠れた恩人だと今も思っている。
BCGでは8年弱お世話になった。それは壮絶な職場だった。プロフェッショナルを追求したい、とカッコいいことを言いながら何度心が折れかけたことか分からない。とにかく周囲の思考速度が早い。そして必要なことだけ口に出す。そのため、最初は全く会話もできない有様だった。
また、監査人がコンサルタントに変貌するための落とし穴はほぼ全て踏んだと思う。答えがあるはずという前提で闇雲にタスクにとりかかる、単視眼的にしか物事を見ない(コンサルティング用語で「立体的に」考えられない)、現地現場で現物や状況を自分で見て事実把握しない、など。
転職した時に前職の経験が役に立つか?という質問を若手の会計士さんから受けるが、シンプルに言うと数年程度の経験を役立たせたいなら現職に留まるのが最良だと考えている。転職というのはゼロからのチャレンジだと考えられる人が成功するというのが私の経験だ。

03
今現在の仕事の内容、特徴、キャリアパス
freee株式会社でパートナーカンパニーCEOを担っている。カンパニーなので、マーケティング、セールス、サポート、エンジニアもいるし、企画部門もあって、一つの会社組織のようになっている。それぞれの部門のマネージャーがいて、私はそういう人たちと一緒に事業を経営している。事業経営の中で最も重要で苦労するのがピープルマネジメントだ。特に監査法人やコンサルティング出身だと周囲は皆会計士やコンサルタントで、思考パターンが似通っているケースが多い。事業経営をしていると全く言語や業務内容の異なる多様な職種に向き合わなければならない。
freeeにはCFOとして入社し、最初の仕事が資金調達だった。コンサルティング会社時代はもちろん、監査法人でも監査ばかりしており、資金調達の経験がなくて何をしていいのか分からなかった。会社自体は何回か資金調達をしてきた実績があったが、自分としては、周囲の期待がある中で入社しているので、何をして良いのか分からない状況は相当プレッシャーで、元来鈍感ではあるが辛かった。それで代表の佐々木に「資金調達を経験したことがある人の話を聞かせてほしい」と相談して、メルカリ、スマートニュース、ラクスルなど大型資金調達をしているメガベンチャーを紹介してもらった。皆さん親切なので、教えてくださいと言うと、「いいですよ、いつ来ますか」とご快諾いただいた。資金調達や財務のノウハウを教えていただけたおかげで、33億円というラウンドを成功させることができた。
CFOからパートナー事業の責任者になったのは、コンサルティング会社出身であると同時に、CFOとしてある程度成果を出したからだとは思う。佐々木も安心して、「では次にこれをやってみて」と言えたのだろう。
これについて「CFOとしてキャリア積んだほうがいいのでは?」「もったいない」と言われることもあった。元来、どんな仕事でも楽しめると思っているし、縁がある仕事は何でもやってみる、というスタンスでいる。結果として良かったのかどうか、それはまだ分からないが。
04
あなた独自の強みと今現在の仕事との関係性
会計士という仕事はたった4年程度なので会計士の強みで語ることはおこがましいし、大した強みもないと思う。そんな私でも今の仕事に役に立っていることは2つある。1つが人脈、もう1つは資格だ。
監査法人時代の人達の中には、freeeを応援してくれたり、「武地君だったら何でも言ってちょうだい」と言ってくれたりする人が多い。たった3年、4年しかいなかった若造に、それはすごくありがたいと思っている。そしてもう一つの資格は、ベンチャーという業界の破壊者的な立場にいるが、公認会計士という資格があると身内だと思ってもらるので受け入れてもらいやすい印象はある。
また、「この人はしっかりしたマネジメントができる人なのだろう。ビジネスの話が通じそうだ」と思ってもらえるようだ。資格の持つ信頼感は、事業を進める立場にいる者にとって、影響は大きい。
次に、BCGで得た強みとしては、プロジェクトマネジメント能力だろう。いつまでにこういう状態にしないといけないけど、今はこういう状態だから次はこれをこうしていくというように、ゴールから逆算で考えて設計できる能力だ。事業の責任を負っている者としては、紆余曲折はあっても向かうゴールは絶対にぶらせてはいけない。そういう発想をできる人は本当に少ないと感じる。多くの人は、議論を通じて何をしたいかというゴールを最初にきちんとセットせずに議論を始めるので、話していくうちに、横道にそれてしまう。誰かが興味をひきそうなことをいうとワーッと盛り上がって、無駄な時間を過ごしてしまう。プロジェクトマネジメント能力があれば逆算で物事を考えてアクションを積み上げていけるので、ぶれずにゴールにたどり着ける。コンサルタントをやったから身についた能力で、すごく役に立っている。

05
仕事をしている中で、心が大きく動いた瞬間
事業責任者をやっていて、この事業がいけそうだという確度が自分の中で一定以上に上がって、これはいけるぞと確信が持てたとき、みんなはまだ気づいていないけどこれなら何とかいけると思えた瞬間というのは相当嬉しい。これは他のベンチャー企業でも感じることかもしれないが、うまくいくかどうかも分からない不確実な中で責任を負わなければならないので、苦しいときがある。でも、そんな大変な中で、これをやったら去年よりも今よりも少しでもうまくいくというのが見えた瞬間は相当嬉しい。その段階では確実かどうかなんて分からないのだが、それでも嬉しい。事業は自分の子供と同じだと思っているので。
事業部には100人ぐらいいて、その家族まで含めて考えると300、400人いる。人生全部というわけではないが、少なくともこの数年間の人生は自分が背負っている。仕事がうまくいったほうが幸せになれるし、プライベートも幸せになる。逆に、うまくいかなかったらみんなにストレスをかけることになる。なのでうまくいく可能性が少しでも高まったと思えたら相当嬉しい。従業員やその家族が幸せになると思った瞬間に、仕事をしていて嬉しくなる。
06
公認会計士という仕事に関連して深く悩んだこと、それをどのように乗り越えたか
監査法人1年目は本当に悩んだ。
当たり前のことだが、大企業で売上や仕入を複式簿記を使って入力している会社なんてない。全部売上管理や仕入管理システムから自動記帳されている。それがどうしても理解できなかった。というより信用できなかった。
なので、一生懸命システム間連携をチェックした。幸か不幸か一件も差が出ない。なんで自動で連動するのか全く仕組みがわからなかった。でもとにかくチェックし続けた。当然クライアントからも先輩方からも白い眼で見られた。「あいつ使えないな」と陰で言われていたのも知っている。
ここでシステムの勉強を死ぬほどやって、エンジニアにも負けない知識を身につけた、とか言えればカッコいいのだが、残念ながらそこまでの執念を持ち合わせていなかった。とにかくチェックし続けたので、システム連携していれば会計は問題ない、という肌感覚が身についたのか、1年たったら克服していた。
今の自分だったら、「素直に詳しい人に聞こうよ」とアドバイスするだろう。色んな人の話を聞いてたらフッと腹落ちすること/発見することは本当に多い。
07
人生の目的と公認会計士という資格
私は人生で仕事をすごく大事にしていて、仕事を楽しむことがイコール人生を楽しむことだと思っている。人生を楽しむためには、色々な仕事ができるようになりたい。そして色々な仕事につながるためのベースの部分が、公認会計士という資格だと思っている。資格は信頼感にもつながるし、たとえば会計事務所を開くという選択肢が持てるのも公認会計士だからなので。
うぬぼれではなくて、どこかでCFOをやりたいと言ったら、何社でも紹介してもらえるだろう。それは自分が公認会計士だからで、やっぱりベースはそこにあるのかなと思う。私が人生で自由きままに生きられるベースというのが公認会計士という資格だし、人生の自由を手に入れるいい第一歩になったと思う。

08
これから成し遂げたい事、将来の夢
自分の手持ちの駒を増やすというか、自分ができることを増やしていくということを人生で大切にしている。転職するときにも当然そういう視点を持っている。
もし転職するとして、何かやりたいことを1つだけ挙げるように言われたら、マイノリティーの中でマネジメントをしてみたいと答えるだろう。女性が多い職場とか外国人の方が多い職場とか、自分がマイノリティーの中でマネジメントしてみたい。きっと、想像を絶する大変さだろうが、新しいことを経験できる。他には、今まで集団の中で働いてきたので、1人で仕事をやるのもいいかもしれない。
夢という意味で、できたら5年後ぐらいの近い将来に、家族そろって留学してみたい。留学して、仕事と何の関係もない勉強がしたいという夢は持っている。海外と言っているのは、単純に今と違う環境に身を置きたいから。今はいい時代だと思う。世界平和だし、これだけ世界が狭くなっているおかげで、海外に気軽に行ける。ひょっとしたら20年後は世界大戦が起こって、そんなものできないかもしれない。でも今だったらできるので、やりたいなと思っている。ただ、帰ってきたときに仕事に困るのは絶対に嫌だから自分に実力をつけておきたい。

09
キャリアを模索する会計士、会計士受験生へのアドバイス
今の受験生はもう私より一回り以上若いので、アドバイスは正直できない(笑)。でも敢えて他の人と違うことをいうなら、まじめに勉強して圧倒的に高い順位で合格したほうがいいと思う。今は申請すれば合格順位が分かってしまうし、会計士は試験の成績で最初色眼鏡で見られる割合が高い。どうせ勉強するなら1番で合格したほうがいいと思う。
1,000人中900番で受かった人と、1,000人中1番で受かった人がいたとしたら、両者への対応は全然異なる。世の中は非情である。入った瞬間から人に対する期待値は決まっている。それは事業をやっているとすごく分かるし、事業を預かる者として当然のことだ。レールに乗せる人は、最初から明確に決めている。試験に受かった人をみんな平等に扱うなんてそんなのはうぶすぎて、試験の成績が飛び抜けていいとかであっという間にレールを敷かれる。レールを敷いてもらえた人は、投資してもらえるお金の量も違うし、できる仕事、希望の通りやすさも全然違うし、圧倒的に得だ。勿論下克上もあるが、どうせだったら最初から上にいるほうが絶対に得だと思う。
今キャリアで迷っている人がいるなら、素直に監査法人を辞めたほうがいい。人手不足の世の中だから自分が求める仕事に巡り会える可能性は圧倒的に高い。出戻りも自由になりつつある。おそらく監査法人も自由だと思う、優秀であることが前提ではあるが。だから、自分が優秀できちんとやることをやっているのなら、キャリアに迷った時点で出戻りできる権利を持って辞めないほうがおかしい。今の時代に若者でいることの特権だから、それを使わない手はないだろう。
ただ不都合な真実として、いつかは景気後退の局面に入るので、出戻りたいと思った瞬間に出戻れない可能性もある。しかし、少なくとも人手不足という意味でいうと多少緩和されるという程度で、根本的に人手不足ではなくなる世の中というのは5年、10年は来ないだろうと私は考えている。
やることをやっている自信があるなら、思い切って外に出てみる。その上でやっぱり監査法人のほうがいいと思えば戻ればいい。監査法人の仕事がもっと楽しくなるはずだ。


