会計士の履歴書
世戸口 逸人

はてなベース株式会社

代表取締役

世戸口 逸人

せとぐち はやと

会計とテクノロジーで、士業の常識を変える

1996年6月15日生まれ(30歳) 愛知県出身 東京都在住

慶應義塾大学商学部 2019年合格

世戸口 逸人

01

キャリアサマリー

2019

公認会計士論文式試験合格

2020

PwCあらた有限責任監査法人入所(金融監査部門)

2022

リディッシュ株式会社入社。人事・バックオフィス業務を担当

2023年2月

はてなベース株式会社を設立、代表取締役に就任

2026年9月

公認会計士・税理士登録後にはてなベース税理士法人を設立予定

愛知県出身。東海高等学校から慶應義塾大学商学部へ進学し、大学4年時に公認会計士試験に合格。卒業後はPwCあらた有限責任監査法人第三金融部でファンド監査業務に約2年間従事したのち、リディッシュ株式会社に転じて人事・バックオフィス業務全般を経験。

その中でGASやAPI連携による業務効率化に取り組むうちに、「IT×会計」という自身の強みが明確になり、2023年2月にはてなベース株式会社を設立。現在はバックオフィスBPR事業とクラウド会計人材育成事業で、企業のバックオフィスDX/AX支援と地方の雇用創出に取り組んでいる。

一般社団法人DIGITALBASE理事。

02

監査法人における経験およびその後のキャリア選択のきっかけ

PwCあらた有限責任監査法人では、主にファンド監査に従事し、投信運用会社を中心に監査業務を担当しました。また、一年目からリクルーティング活動に従事し、採用活動にも関わり、所属していた第三金融部の新卒4名の採用に貢献をしました。
一方で、監査業務に携わるうちに、自分が「得意なことを伸ばす」タイプの人間であることに気づきました。Excelでの精緻な調書作成のような細かい作業というよりは、全体の業務フローを俯瞰して「もっとこうすれば効率的なのに」と考えることのほうが楽しかったのです。
クライアント企業の業務プロセスを外から見る立場にいながら、自分がその改善の当事者になれないもどかしさを感じるようになりました。
また、リクルーティング活動を通じては、会話を通じて候補者の適性を見極める経験が、振り返ってみれば後のベンチャーでの採用業務や起業後の人材育成事業に繋がったと感じます。

監査法人に所属する中で、もともと心の奥にあった「自己実現の尺度を増やしたい」という思いが強くなっていきました。
中高一貫の進学校で偏差値を追い続けた日々、第一志望に届かなかった大学受験、その悔しさをぶつけた会計士試験。振り返ると、高校生の時から自分はずっと”学力”という一つの自己実現の尺度の上で戦い続けていたなあと思います。
もっと別の形で社会と関わり、自分の可能性を試してみたい。その答えが、監査法人を離れてベンチャーの世界に飛び込むことであったと、今振り返ってみるとそう感じます。

世戸口 逸人さん

03

今現在の仕事の内容、特徴、キャリアパス

変わった会社名と言われる”はてなベース”ですが、「起業家のわからないこと(はてな)を解決する、知る人ぞ知る秘密基地(ベースキャンプ)」という由来があります。
また、「知る人ぞ知る」という言葉は、一芸に秀でた職人が集まり、広告ではなく人による紹介によってじわじわと知られていくことを願い選びました。
さて、はてなベース株式会社では、大きく2つの事業を展開しています。
1つ目はバックオフィスBPR事業です。kintoneやSalesforceなどのCRM構築と、freee・勘定奉行クラウドなどの会計ソフト導入を組み合わせ、バックオフィス全体の業務プロセスを一気通貫で再設計します。多くの企業がSaaSツールを個別に導入していますが、ツール間のデータが連携されず手作業が残ってしまうケースが非常に多い。この「情報の断絶」を解消し、経営データがリアルタイムに流れる仕組みを構築するのが私たちの仕事です。さらに最近では、請求書発行の自動化、バクラク↔︎勘定奉行の自動連携といったところでAIエージェントを活用した業務自動化の実装支援にも力を入れています。
2つ目はクラウド会計人材育成事業です。フリー株式会社の協賛を受けて制作した48本のeラーニングコンテンツに加え、freee会計のデモ環境を使った実地研修を提供しています。意図的にトラップを仕込んだ擬似実務環境で、受講者に試行錯誤させながらスキルを定着させるのが特徴です。育成した人材は会計事務所やBPO会社にアサインしており、地方在住の方々を中心に、AI時代の新しい雇用創出にも貢献しています。
組織としては、会計士を含む会計チームとデータサイエンス・API連携を担うエンジニアチームが同居しており、CRM構築から会計ソフト導入、連携開発まで横断的にカバーできる点が最大の特徴です。

また、私のキャリアとしては上述の通り、大学4年生の時に論文式試験に合格し、新卒で監査法人、ベンチャー企業を経て起業という経歴をたどっております。いわゆる会計士のキャリアとは大きく外れていると自覚しておりますが、監査法人在職中にプログラミングに触れたこと、リクルーティング活動で自分の強みを発見したことが、その後、スキルを掛け合わせた起業という意思決定へと繋がっていきました。

04

あなた独自の強みと今現在の仕事との関係性

私(というより会社)の強みは、「会計の専門性」と「ITの実装力」を一人の中で統合できることです。
公認会計士(2026年7月時点で登録申請待ち)として会計基準の知識を持ちながら、自らプログラミングを学び、実際にコードを書いて業務を自動化してきました。
この組み合わせは、現在のバックオフィスDX市場において稀な方であると感じてます。
SIerやIT企業は会計業務の本質的な理解が浅く、逆に会計事務所はシステムの実装力に乏しい。その間に立ち、双方の言語を翻訳しながら最適な仕組みを設計できるのが、私たちの競合優位性の源泉です。
この強みは、監査法人時代に「もっと効率化できるのに」と感じた原体験と、ベンチャー時代にGASやPythonを独学で身につけた経験の掛け合わせから生まれました。監査法人では会計の素養を、ベンチャーではITの実装力と事業運営の当事者意識を得た。どちらの経験が欠けても、今の事業は成立していません。
また、クラウド会計研修事業においても、「会計を知っている人間が、テクノロジーの言葉で教える」ことの価値は大きいと感じています。単なるソフトの操作説明ではなく、「なぜこの仕訳が必要なのか」「このデータの流れがどう経営判断に繋がるのか」を伝えられることが、研修品質の差別化要因になっています。

世戸口 逸人さん

05

仕事をしている中で、心が大きく動いた瞬間

最も心が動いたのは、資金繰りの危機を乗り越えた瞬間です。
2024年の夏、取引先の一社との契約が突然終了し、想定外の支出も重なって、キャッシュフローが一気に逼迫しました。「本当に潰れるかもしれない」と初めて思った瞬間でした。社員には言えない不安を抱えながら、日頃から関係を構築していた金融機関に相談し、借入枠の活用で何とか乗り切ることができました。
この経験から得た教訓は明確です。どれだけ良いサービスや技術を持っていても、キャッシュが尽きれば事業は終わる。お金の流れを感覚ではなく数字で把握し、常に一定の余力を確保しておくこと。公認会計士としてクライアント企業の財務を見てきた経験があったからこそ、日頃から金融機関との関係構築や資金管理を怠らなかったのだと思います。
もう一つ、強く心が動いた瞬間がありまして。
個人では到底成し得ないような協業先ができたり大きな金額が動き、その結果として社会に貢献していると実感する仕事ができているときです。最近では会計ベンダーの皆様と協業し、静岡県、兵庫県の自治体と連携することで、全国の経理人材を募って弊社が制作に関わった研修を提供し、BPO会社への雇用創出をするという取り組みをしているのですが、「世戸口逸人」ではなく「はてなベース株式会社」という組織だからこそ実現できたという感覚は、モチベーションを爆上げするきっかけになりました。

06

公認会計士という仕事に関連して深く悩んだこと、それをどのように乗り越えたか

最も深く悩んだのは、「公認会計士の資格に依存してしまうのではないか」という恐怖です。
起業を決意した際、周囲からは「失敗しても会計士に戻れるから安心だね」と言われました。しかし、その言葉に強烈な違和感を覚えました。資格をセーフティネットとして捉えた瞬間に、本気で事業に向き合えなくなるのではないか。「会計士だから」という枕詞で語られる自分ではなく、「はてなベースの創業者」として社会に認められたい。その葛藤は、起業前後で最も自分と向き合った時間でした。
乗り越え方は、あえて資格に逃げない環境を自分で作ることでした。監査法人に戻るという選択肢を心の中から排除し、少ない資金で会社を立ち上げ、背水の陣を敷いた。結果として、全責任が自分にある環境だからこそ全力で走れました。恐怖心よりも好奇心が勝ったという感覚です。
今振り返ると、この悩みの本質は、資格や肩書きといった「外部の評価軸」に自己実現を委ねることへの抵抗だったのだと思います。偏差値、試験合格、監査法人——常に誰かが用意した尺度の上で評価されてきた。自分自身の事業で社会に価値を示す。それが、私にとっての「公認会計士」という資格との健全な距離感です。

07

人生の目的と公認会計士という資格

人生の目的は、「自己実現の尺度を増やすこと」です。
偏差値で測られる学力、資格試験の合否、監査法人のランク。
これまで私は、社会が用意した単一の尺度の上で自分の価値を証明しようとしてきました。しかし、起業を通じて気づいたのは、自己実現の形は無限にあるということです。
社会に新しい価値を届けること、一緒に働く仲間の成長に立ち会うこと、自分が立ち上げた事業が世の中に受け入れられること。これらはすべて、会社を自ら経営することで手に入る自己実現です。
公認会計士という資格は、この人生の目的において「最初の尺度を与えてくれたもの」だと位置づけています。大学受験の挫折を乗り越えて試験に合格したことで、自分は努力で結果を出せる人間だという確信を得ました。その自信がなければ、起業という選択は怖くてできなかったと思います。
同時に、資格は出発点であってゴールではない。公認会計士としての知識と信用は、事業を運営するうえで日々活きています。財務分析、資金管理、内部統制の設計。しかしそれは、あくまで事業を支える土台であり、資格そのものが人生の目的になることはありません。公認会計士という資格があるからこそ、資格の枠を超えて挑戦し続けられる。それが私にとっての資格と人生の関係です。

世戸口 逸人さん

08

これから成し遂げたい事、将来の夢

3〜5年以内に成し遂げたい目標が2つあります。
1つ目は、バックオフィスDXにおける「AIエージェント×SaaS連携」の第一人者になることです。現在、freee・kintone・Salesforce等のSaaSを横断的に連携させるBPR事業を展開していますが、今後はAIエージェントがこれらのツールを自律的に操作し、バックオフィス業務を自動化する世界が訪れます。この領域において、会計の専門性とAIの実装力を兼ね備えた唯一無二のポジションを確立したい。AIには代替できない「連携と横断的判断の専門家」として、揺るぎない立ち位置を築きます。
2つ目は、日本で一番クラウド会計研修を提供している会社になることです。現在提供しているfreee研修以外にラインナップを拡充し、全国の地方に雇用創出の拠点を作りたい。デジタルスキルを持った経理人材を育成し、地方在住でもリモートで第一線の仕事ができる環境を整備する。この事業を通じて、AI時代における「人が担うべき仕事」の新しい形を提示していきたいと考えています。
その先には、見えない景色があると信じています。売上10億円、100億円の経営者が見ている世界を、自分の目で見てみたい。その純粋な好奇心と競争心が、私を前に進める原動力です。

あとこれは個人としての目標でもあるのですが、私のように「ベンチャーマーケットに挑戦する士業」が増えて欲しいと思います。コンサルタントの方がビジネスサイドを見ている景色も経験したからこそわかりますが、ビジネスサイドにいる起業家は資金繰り、組織、マーケット選定など、日々あらゆることに頭を抱え悩んでいます。そしてその苦悩は想像を絶するほど孤独で辛いものです。

私は前職のリディッシュ株式会社で、公認会計士試験合格者の松隈社長のもとでビジネスを学びましたが、コンサルタントとしてキャリアを極めた当時50歳の松隈さんがベンチャー経営をしている姿を見て心を打たれました。自分もこのような、いい意味でキャリアを白紙に戻してでもやりたいことに挑戦するような起業家になりたいと思いました。
コンサルタントとしてのキャリアを極めんとする会計士が、ビジネスサイドでも活躍できるキャリアパスができれば、この資格に挑戦する若者が増えると思います。

その意味で、士業発起業家として大成し、「士業はビジネス感覚が弱い」とスタートアップ界隈で揶揄されている常識を変えるきっかけとなりたいです。

世戸口 逸人さん

09

キャリアを模索する会計士、会計士受験生へのアドバイス

会計士試験受験生の皆様へのアドバイスなんて、お恥ずかしくて偉そうには言えないですが...。
私が会計士を目指した当初のきっかけは、大学受験の結果や自己実現の尺度の少なさに対するコンプレックスを打破したいという、非常に個人的な動機からでした。実際、受験生の皆さんも、最初から何か崇高な目的を持って目指している方は少ないのではないでしょうか。
かつて私がそうであったように、「何者かになりたい」という漠然とした思いであっても、それを否定する必要はありません。むしろ、資格取得を「将来の自己実現の幅を広げるための準備」と捉えることが大切です。自分の中に揺るがない評価尺度を作るための一歩だと考えれば、試験勉強の中で迷いが生じた際にも、それが心の支えになるはずです。
私自身の経験を振り返ると、監査法人に在籍しながらプログラミングを学ぶ、リクルーティング活動を通じて、対人能力や自分の適性を再確認する、ベンチャー企業で社長直下で働き、実戦の中で強みを磨く...などと、何かを常に同時並行で走りながら、自分にとっての強みやキャリアを探していく。
最初は目的がはっきりしていなくても構いません。「なんとなくこちらの方角だろう」と思う方向に、とにかく一歩踏み出してみてください。行動の量をこなすことで質が生まれ、一つ一つの成功体験を積み重ねることで、自己実現の尺度は確実に広がっていきます。
必ずしも「起業」のようなリスクのある決断が必要なわけではありません。今いる環境の中で「これが正しい」と思うことに勇気を持って取り組むことから始めてみてはいかがでしょうか。