
株式会社インベーダーズ
創業者
星野 宇潮
ほしの うしお
作業は渡す、判断は渡さない。AI時代の会計士のかたち
1990年代生まれ 大阪府出身 東京都在住
立教大学経済学部 2018年合格

01
キャリアサマリー
立教大学在学中に公認会計士試験に合格(21歳)
有限責任監査法人トーマツ 入所(金融部門)
税理士登録。独立し、IPO支援に特化したコンサルティングファームを創業
株式会社インベーダーズを創業
監査調書を自動生成するAIを開発、一部の会計士へ提供開始
公認会計士試験に合格したのは2018年、立教大学に在学中のことでした。21歳でした。同年、有限責任監査法人トーマツへ入所。金融部門で約4年、監査の現場に立ちました。2022年に税理士資格を取得して独立し、IPO支援に特化したコンサルティングファームを創業。中小・中堅企業の株式公開を一貫して支え、多数の上場に携わっています。
会社という組織と資本市場に向き合うなかで、次世代の組織のかたちであるDAOに関心を持ち、ロビーイング団体を立ち上げて合同会社型DAOに関する立法にも携わりました。その可能性を事業にするために、株式会社インベーダーズを創業しました。いまは企業・自治体・教育機関のオンラインコミュニティづくりを構想から運用まで支える「コミュニティ伴走支援」を主力に展開しています。バーチャルイベントの企画・運営では、在京キー局や大手鉄道会社との協働を重ねてきました。規模は延べ数万人にのぼります。
そしていま、会計の現場に戻ってきています。コミュニティ運営のなかで自作したAIエージェントを自分の会計事務所に転用したところ、これまでやってきた仕事の相当部分が機械で置き換わることが分かってしまった。そこから、監査という制度にAIを実装するとどうなるかを、当事者として検証しています。
一貫して掲げているのは「未来の居場所づくり」です。バーチャルとリアルをつなぎ、人と組織が集う場と、その基盤となる新しい経済圏をつくることに取り組んでいます。
02
監査法人における経験およびその後のキャリア選択のきっかけ
トーマツでは金融部門に配属され、約4年を過ごしました。数字が合う・合わないの前に、「なぜこの手続をやるのか」を考えさせられる環境だったと思います。監査は正しさを保証する仕事だと思って入りましたが、実際に学んだのはそこではありませんでした。
監査が社会に差し出しているのは、財務諸表の正しさそのものではありません。誤っていたときに責任を負う相手を、あらかじめ社会が特定できる状態にすることです。監査は全件調査ではなく、重要性と試査に基づく手続ですから、「正しいという保証」はどこにもない。それでも投資家がその数字を使って意思決定できるのは、意見を表明した監査人という、名指しできる引き受け手がいるからです。
この理解は、あとになって効いてきました。当時はまだ、うまく言葉にできていませんでしたが。
辞めた理由は、否定的なものではありません。上場という一回きりの節目に、外から関わり続けることに物足りなさを感じたからです。監査でもIPO支援でも、私たちは決定的な場面に立ち会いますが、その会社の中で毎日を過ごすわけではない。数字を見て意見を述べる側に居続けるより、一度は自分で数字をつくる側に回ってみたいと思いました。
独立してIPO支援のファームを立ち上げ、東京プロマーケット周りの内部統制構築や、監査役業務の外部受託なども手がけました。ここでも同じ感覚が残りました。支援する側は、事業そのものの責任を負っていない。 そこで、一度自分で起業してみようと決めました。

03
今現在の仕事の内容、特徴、キャリアパス
いまは3つを並行しています。
ひとつめは、コミュニティの伴走支援。 株式会社インベーダーズの主力事業です。企業・自治体・大学の「人が集まる場」を、構想から運用まで引き受けます。取引先はテレビ局、鉄道会社、大学など。数千人規模のコミュニティを日々運営しています。創業時はメタバース空間やアバターの制作を請け負う会社でしたが、需要が一巡したときに「自分が本当にやりたいのはサードプレイス=居場所づくりだ」と気づいて舵を切りました。いまは「SNSはもう誰も見ていない、社内・社外のコミュニティが必要だ」という文脈でご相談をいただきます。
ふたつめは、会計事務所。 自分の事務所で、IPO支援を中心に続けています。
みっつめが、AIエージェントの開発です。 コミュニティのなかにAIエージェントを自作して人間に混ぜ、会話させる実験をしていました。それを会計事務所の業務に転用してみたところ、率直に言って、これまでやってきた仕事のかなりの部分は要らないと分かってしまった。 監査調書を自動で組み上げる仕組みを自分で作りました。調書作成にかけていた全科目ぶんの6〜8時間が、いまは30分から1時間です(開発者本人による実測で、第三者検証ではありません)。
キャリアパスとしては、順番に積み上げたというより行ったり来たりです。監査 → IPO支援 → 起業 → そしてまた会計へ。会社は基本的に他の人に任せ、自分は次の新規事業へ移り、事業売却も経験しました。3人の創業メンバーが、それぞれ別の会社でCEOを務めているという、珍しい体制の会社にいます。
一貫しているのは、制度の側にも事業の側にも、両方に足を置き続けていることだと思います。
04
あなた独自の強みと今現在の仕事との関係性
制度の言葉と、技術の言葉の両方を話せることだと思っています。
会計士でAIを使う人は増えました。エンジニアで会計を勉強する人もいます。ただ、「監査基準報告書がなぜこう書かれているか」と「このモデルは端末内で動くのか、サーバーに送られるのか」を、同じ会話のなかで行き来できる人は、まだあまり多くありません。
これは器用さの話ではなく、順番を間違えないための能力だと思っています。
正直に言うと、私は最初にこの順番を間違えました。会計士の集まりで技術の話から入りすぎて、前提の話を飛ばしていた。触れていない領域にいきなり道具を持ち込むと、たいてい拒絶されます。 だから「AIで効率化できます」ではなく、「監査という制度がなぜこう作られているか」から話さなければならない。この失敗から学んだことが、いまの仕事の進め方の芯になっています。
もうひとつは、ルールがないところで動いた経験です。スタートアップを運営していると、新しい分野には法律がそもそもない、という場面に何度も出会います。作られるのを待つのではなく自分で作ろうと考え、森・濱田松本法律事務所と組んで一般社団法人 RULEMAKERS DAO を立ち上げ、約3年活動してきました。合同会社型DAOに関する制度変更や、外国人のノマドワーカーに関する要件緩和の提言などに携わっています。
AIと監査の関係は、いままさにルールが固まる前の空白期間にあります。空白は自由を意味しますが、同時に、後から遡って評価される危険も意味する。この感覚を持っていることが、いちばんの強みかもしれません。

05
仕事をしている中で、心が大きく動いた瞬間
自分が何年もかけて身につけたものの意味が、一晩で変わってしまった日のことです。
監査調書を自動生成する仕組みを、自分で組み上げました。動くようになって、初めて出力を開いた夜のことです。
私は監査法人時代、調書を綺麗に作ることに、それなりの誇りを持っていました。桁を揃える。突合表の体裁を整える。増減分析を、読む人が迷わない順番に並べる。誰に褒められるわけでもない技能ですが、これができる人とできない人がいて、自分はできる側だと思っていました。数年かけて身につけたものです。
画面に出てきたものは、それより整っていました。
手を止めたのは、悔しさでもなく、達成感でもなく、「あれ、じゃあ自分は何が価値だったんだろう」という問いでした。
しかも、それを壊したのは自分です。誰かに追い抜かれたのなら、まだ納得のしようがあります。自分で作った道具に、自分の技能を引き取られた。 その夜は、正直あまり眠れませんでした。
数日かけて考えて、たどり着いたのは単純なことでした。私が価値だと思っていたのは「作れること」だったけれど、社会が会計士に求めていたのは、そこではなかった。
境目は、書類の綺麗さではありませんでした。引き受け手が誰なのかを、あらかじめ特定できる状態にすることです。作る技能は渡せる。引き受ける立場は渡せない。 私が数年かけて磨いていたのは、渡せる側のほうでした。
これは喪失の話ではなく、棚卸しの話だと思っています。自分の仕事のうち、どこが渡せてどこが渡せないのかを、あの夜に初めて自分の手で確かめた。以来、それが仕事の選び方の基準になっています。
06
公認会計士という仕事に関連して深く悩んだこと、それをどのように乗り越えたか
会計士の資格を持ちながら、会計士の仕事から離れていた時期があったことです。
起業してメタバースの会社を立ち上げ、コミュニティの会社をつくり、事業を売却して。数字の上では悪くない道でした。ただ、会計士のイベントに呼ばれることはほとんどなく、登壇するのはいつも起業家の集まりでした。自分は資格を捨てたわけではないのに、会計士としては何者でもなくなっていく感覚が、ずっとありました。
もうひとつ、業界に対する後ろめたさもありました。監査の現場では、いまも人間がやらなくていい作業が大量に残っています。増減分析は、本来人間がやる仕事ではありません。それを分かっていながら、自分は外にいて何もしていない。見て見ぬふりをしているのは、業界だけでなく自分もだと思っていました。
乗り越えたというより、技術が追いついてきたという言い方が正確です。
コミュニティのためにAIエージェントを作っていた技術を、会計事務所の業務に当ててみた。すると、ずっと「誰かがやるべきだ」と思っていたことが、自分の手で作れる範囲に入っていた。遠回りしていた10年が、そこで一本につながりました。 メタバースもDAOもコミュニティも、会計とは無関係な寄り道だと思っていたのに、AIエージェントという道具を介して、全部が会計に戻ってきた。
いまは、本当に帰ってきた感じがしています。
会計士の資格から離れて悩んでいる方に伝えたいのは、離れていた時間が無駄になるとは限らない、ということです。ただし戻ってくるときには、外で身につけたものを持ち帰る必要がある。手ぶらで戻っても、居場所はありません。
07
人生の目的と公認会計士という資格
私の目的は、一貫して「未来の居場所づくり」です。人が集まって、そこにいていいと思える場所をつくること。バーチャルでもリアルでも、それは同じだと思っています。
一見すると、会計士の資格とは何の関係もありません。でも、いまはこう考えています。
居場所が成立するには、信頼が要る。そして信頼には、引き受け手が要る。
監査という制度が社会に提供しているのは、正確さそのものではなく、その出力に名前を貼って引き受けている人間がいる、という事実です。医師の診断も、建築士の構造計算も、弁護士の意見書も、同じ形をしています。専門職の署名が社会的な意味を持つのは、誤っていたときに責任を負う相手が特定できるからです。
コミュニティも実は同じで、誰も責任を持たない場は、必ず荒れます。DAOのルールづくりに関わったときも、結局いちばんの論点は「誰が引き受けるのか」でした。
私は、引き受け手をつくる制度の中で育ちました。 それが会計士という資格から得たいちばん大きなものだと思っています。そしてAIが人間の作業を引き取っていく時代に、この「引き受ける」という一点だけは、機械に渡せません。
資格は看板ではなく、引き受けるという行為の練習をさせてもらった場所だった。いまはそう思っています。

08
これから成し遂げたい事、将来の夢
AIが入っても信頼が壊れない仕事のかたちを、実例として残すことです。
いま、AIによって専門職の作業が消えていく、という話があらゆる場所でされています。ただ、その多くは「何ができるようになったか」の話で止まっていて、「では、誰が責任を負うのか」という問いが置き去りにされていると感じます。
信頼を結果で支えられなくなるなら、経路で支えるしかありません。何を作ったかではなく、どこを機械に任せ、どこを自分が確かめ、その確認をどう残したか。 記録の対象を、成果物から作業の経路へ移す。これは監査だけの話ではなく、契約書レビューでも社内稟議でも、そのまま使える考え方だと思っています。
これを机上の提言としてではなく、日本でもっとも規制と責任の重い産業のひとつである会計監査で、実際に実装してやってみせたい。 うまくいった話だけでなく、届いていない数字も含めて、公開しながら進めています。会計監査でできたのなら、他の専門職でもできるはずです。
もうひとつ。会計士がもっと外に出ていける道をつくりたい。 私自身が遠回りをしたので、資格を持ちながら別の領域に行くことが「脱落」ではなく「往復」になるような前例を、ひとつでも増やしたいと思っています。
そして最後は、やはり居場所です。技術が人を置き去りにしない場所をつくること。それが変わらない目標です。

09
キャリアを模索する会計士、会計士受験生へのアドバイス:「AIの時代に生き残る会計士」を目指すならまずはこのアクションをしよう
AIの本を読むことでも、セミナーに出ることでもありません。自分がいま実際にやっている作業を、ひとつ選んで、機械にやらせてみてください。
増減分析でも、突合表でも、勘定科目の集計でも構いません。うまくいかなくていい。大事なのは、「これは機械にできる/これは自分にしかできない」の境界線を、自分の手で引く経験です。この線は、記事を読んでも本を読んでも引けません。自分の仕事でやってみた人にしか分かりません。
そして一度その線を引くと、次の問いが自然に立ちます。「では、自分が引き受けているのは何なのか」。
これが、AI時代のキャリアの出発点になると思っています。作業が減ることを恐れる必要はありません。恐れるべきは、自分が何を引き受けているのかを説明できないまま、作業だけが減っていくことです。
受験生の方へ
私は在学中に合格しましたが、資格そのものが道を決めてくれたことは一度もありません。 監査法人にも行きましたし、そこを出て起業もしましたし、そしてまた会計に戻ってきました。この行ったり来たりが許されるのは、資格があるからです。
会計士の資格は、進む道を狭めるものではなく、どこへ行っても戻ってこられるという保証だと思ってください。だから、合格してから何をするかは、いま決めきらなくてかまいません。
ひとつだけ。「会計士だから」で説明できることは、いずれ誰かに置き換えられます。 「自分だから」で説明できるものを、資格と別に一つ持ってください。それは技術でも、業界の知識でも、人が集まってくる力でも構いません。私にとってそれは、コミュニティと、たまたま身につけた技術でした。


