会計士の履歴書
川口 達也

株式会社Loco Partners

経営管理部 General Manager

川口 達也

かわぐち たつや

事業会社×酒屋×NPOの3足のわらじで働く。監査法人に行かなくてもパラレルワークは出来る

1988年生まれ(38歳) 東京都出身 東京都在住

早稲田大学 商学部 卒業

川口 達也

01

キャリアサマリー

2012

株式会社ディー・エヌ・エー 入社

2017

株式会社Loco Partners 入社

2018

実家の小売酒屋・有限会社川勇商店を株式会社Clearに売却

世田谷区の小売酒屋「有限会社川勇商店」の長男として生まれ、幼少期は地域コミュニティの中で育つ。その後、私立駒場東邦中高等学校に進学。高校生の時に、進路を考える際に、実家を継ぐべきか父親に尋ねたところ、「小売りに未来はないから資格を取れ」と言われ、当時思い浮かんだ国家三大資格の中から、商売に関連しそうな「公認会計士」に興味を持ち、目指すことにする。浪人時代を経て、早稲田大学商学部に入学すると同時に、東京CPA会計学院でダブルスクールを始める。在学中は、資格勉強以外にもゼミ・サークルに取り組む中で、監査ではなく、事業会社での業務に興味を持ち、2010年12月に短答式試験合格後に、一般就活をする。

2012年に株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、会社史上初めて新卒で経理部に配属、同年、論文式試験に合格する。株式会社ディー・エヌ・エーでは会計システム刷新プロジェクト、単体・連結決算業務、IFRSによる開示業務などに従事。社外活動としてはプロボノ(専門スキルを活かした社会貢献)として認定NPO法人3keysの認定取得を支援した。2017年に旅行予約サービス「Relux」を運営する株式会社Loco Partnersに転職し、経理の実務経験をベースに法務・総務・労務領域への業務にも従事。この転職を契機に、複業として、実家の小売酒屋の再建に着手をする。

2018年7月に日本酒メディア「SAKETIMES」を運営する株式会社Clearに実家の有限会社川勇商店の株式を酒類の通信販売において事業上の制約がない旧酒販免許と共に譲渡し、高付加価値の日本酒市場の創造を目的とした「SAKE100」のリリースに貢献。社外活動としては、日本公認会計士協会の組織内会計士協議会の広報委員、認定NPO法人3keysの監事を務めている。

02

監査法人における経験およびその後のキャリア選択のきっかけ

私は、大多数の方と違い、監査法人に一度も就職したことがないので、ここではなぜその意思決定をしたかの理由を書きます。

公認会計士の資格をフルに活用するのであれば、論文式試験合格後に監査法人に入るのが一般的で、その場合は大学在籍中か、大学卒業後に就職せずに勉強に集中して資格を取り、監査法人へ就職するパターンがほとんどだと思います。

それが主流の中で、王道の監査法人への就職という道を選択しなかった理由は、所属していた財務会計のゼミの恩師・大塚宗春先生から課題図書として出された「変わる会計、変わる社会」という本にあります。大学2年の後半に、ゼミに入るにあたり読んだその本の中に「監査人のジレンマ」というものが書いてあり、ちょうど1次試験を受けていた時期に衝撃が走ったのを覚えています。

その内容を要約すると 「監査人はクライアントの決算書の正しさを検証する一方で、監査報酬をクライアントからもらう」 ということが構造上のジレンマであることが指摘されていました。これを読んだ時に、座学で学問上の「べき論」は学んでいるものの、確かにこの本の言う通り、「実際のビジネスの現場で、当事者間で利害関係があるのに、本当にこの構造の下で財務諸表の正しさを検証できるのか」ということに純粋に疑問を持ちました。

簡略化すると「クライアントからお金をもらっているのに、その財務諸表を正しく監査できるのか」ということです。ここに関しては、その構造を所与としてローテーション制にすることや、公的な機関などから監査報酬を出す方法に変えるなど他の解決策もあると言われていますが、いまだに構造は変わっていません。

とはいえ、当時は公認会計士の勉強をする中で「会計」の面白さには魅了されていたので、これで飯を食っていこうという決意は揺るぎませんでした。ただ、監査側でジレンマを感じうる可能性のある構造の中で働くくらいなら、クライアント側に入って中で数字を作る方が気持ちよく働けるだろうし、実家も商売をやっているので泥臭い実務は嫌いではないという意識はありました。

大学3年の夏くらいから会計士の勉強の傍らで事業会社の就職活動をし、たまたま合同説明会で出会って、あれよあれよと選考が進み2011年の2月に内定を一番最初に頂いたのが株式会社ディー・エヌ・エーでした。

川口 達也さん

03

今現在の仕事の内容、特徴、キャリアパス

本業は一流ホテル・旅館の予約サービス「Relux」を運営する株式会社Loco Partnersにて経理・法務・総務・労務領域を管掌しています。

私の仕事に対するスタンスとしては、基本的に「仕事は人がやるか、システムがやるか」だと思っていて、シンプルに「人がやるべきことは人がやって、システムがやるべきことはシステムがやる」仕組みを作りたいと思っています。

特に今の世の中はバックオフィスのサービスで使い勝手の良いクラウド型のサービスが多いので貪欲にそれを取り込んでいます。なので、現職では会計はfreee、労務はSmartHRとGozal、採用管理はジョブカンを利用し、最近では法務領域でリーガルテックのサービスも増えてきているので、その導入を検討しています。

また、RPA(ロボットによる業務自動化)にも興味はあり、テクノロジーの発展をキャッチアップして、技術やシステムで代替すべきところは代替させ、人はそれ以外の創造的な仕事や未来を描く仕事に時間を使えるようにしていきたいと思っています。

また、本業の傍らで複業は主に2つやっています。

1つ目は実家の小売酒屋の再建です。現職に転職してからは月に1-2回程度実家に帰り、経理の内製化に取り組み、それが落ち着いたころに実家のM&Aの話を頂き、2018年7月に無事クロージングしました。今はその実績を使い日本酒の人脈を広げつつ、実家自体は株式会社を新規設立し、新酒販免許を取得して、商売はできる状態ではあるので、それを活かしてどう事業を作っていこうか考えています。

2つ目は認定NPO法人3keysの監事をやっています。4年ほど前から、月に1回プロボノとして、NPO法人の認定取得の支援を行っており、2017年に取得できたのをきっかけに、2018年に監事に就任しました。

会計士になりたての頃は、ここまで何足のわらじを履く人間ではなかったのですが、やりたいことをやって、導かれるがままに進んでいったら、気づいたらこのような状態になっていました。
自分の個人的なテーマとしては、公認会計士の資格を活かしたパラレルワークのキャリアを作っていきたいと思っています。

人生100年時代なので、時代に合わせて、自分の働き方も変えていかなければならない時代ですし、会社の寿命は人間よりも統計的には短いので、手に職をつけて、どこでも生きていける状態にしておきたいと思っています。

04

あなた独自の強みと今現在の仕事との関係性

2にも書きましたが、1つは監査法人に入らなかったことの裏返しですが、ベンチャー企業をよく知っていることですね。基本的にベンチャー企業は常に成長し続けるにつれ、事業に携わるヒトもシステムも脱皮し続けます。それもものすごいスピードで。またフェーズによっては、業務に沿ったルールやマニュアルがないことも多々ありますので、定常業務をこなしながらマニュアルやルール整備をしたり、1つ課題を解決すると別のところで違う課題が複数出てきたりというカオスな環境です。

端的に言うと、ベンチャー企業は曖昧で課題前提の環境です。前職も現職も業界有数のスピード感で課題解決に取り組む企業だったので、そんな環境の中で生き抜く術を公認会計士でありながら身につけられたことが強みなのかなと思います。

また生き抜いた結果、特に前職に関してですが、同僚や新卒同期達が会社を卒業して起業・転職し、様々な業界に散らばっているので、分からないことはFacebookなどで教えてもらったり、お互い様で答えたりします。そういった普通の会計士は持っていないネットワークを築けたことも大きな強みです。

2つめは専門性についてですが、経理実務とシステムの両面についてある程度理解しているということが強みであると思っています。
経理部の仕事は季節労働者といわれるくらい、月次決算を中心として月初に集中しますし、締め日との戦いです。さらに現代のITが進んだ世の中で、特にBtoCのサービスを運営しているところは、ITの力なくして締め日までに数値を締めることはできません。

月次決算を進めるにあたってトラブルが起きないに越したことはないですが、複数のシステムが密結合していたり、各部にデータ入力の作業分担をしているとマニュアルミスが起こる場合があります。それを事前に防止するのもそうですし、システムエラーで処理が進まないときに、フロントシステムのマスタ構造やデータベースの中身を理解してトラブルシューティングできるかどうかで、だいぶ経理の実務家としてのスキルに差が生じます。

監査法人から事業会社に転職してきた方は、出来上がったアウトプットの検証を生業としてきた方がほとんどです。いざ経理部に配属され月次決算に組み込まれてインプットを作る側になると、システムの理解をそもそもしないとアウトプットすらできないので、そこの理解に苦労される方が多い印象です。この点についても事業会社で育った私の強みではあるかなと思います。

川口 達也さん

05

仕事をしている中で、心が大きく動いた瞬間

会社の成長と自分の成長を重ね合わせて成長実感を仲間と共に味わえる時が最高ですね。これが事業会社に勤める醍醐味なんじゃないかなと思います。もともと今の会社に転職したのも運営している「Relux」の世界観が大好きで、そもそも私自身が「Relux」がローンチして間もなく、会員登録も承認制だった時代の2005番目の会員だったことからご縁がありました。

転職活動時にそのサービスが70万人規模に成長して、以前登録した時とほぼ同じ世界観のまま、転職先として目の前に現れて、自分のやりたい仕事のポジションがぽっかりと空いていたので、そこに飛び込みました。飛び込んでみたところ、入社1週間たたずにM&Aされ、KDDIの傘下に入り、流れゆくままにPMIチームに組み込まれ、無我夢中で仕事をこなしました。

この時は入社後ゆっくり2~3年でIPOを目指すのがメインシナリオだと思って入ったので、社長から話を聞いた時にサブシナリオとして想定はしていたものの、急なタイミングだなと思いましたが、色々整理してみると、確かに「Relux」をよりグロースさせるには一番有効な打ち手だと思いました。

また、入社してすぐに自分の会社がM&Aされるという経験もなかなかできないですし、こんなカオスを自分は求めていたのだとワクワクしたのは覚えています。そんな中で、サービス自体は順調に成長し、今では会員数が150万人を超え、会社のメンバーも100人を優に超えました。

道中で色々な課題もありましたが、あの手この手で解決する中で自分自身の経験にもなっていますし、確実に前よりは成長していると感じます。そして、現職の会社自体がみんな前向きでお祝い事が好きなので、働いていて気持ちの良い仲間と1つの目標に向かって協力し、切磋琢磨し合えている状況はすごく幸せだと思います。

それとは別視点ですが、複業で取り組んだ実家のM&Aがそこまで金額的なインパクトはないものの、老舗小売酒屋を売るというキャッチーなものだったので、そのプレスリリースが各ネットメディアに転載されたり、市場を作ったことで高品質な日本酒を届けられるインフラ作りに貢献出来たりと、世の中に明らかにインパクトを与えられたと思った時にも達成感を感じましたね。

06

公認会計士という仕事に関連して深く悩んだこと、それをどのように乗り越えたか

深く悩んだことは特にないですが、新卒1年目で会計システム導入のプロジェクトにアサインされたときに実務と学問のギャップに戸惑いましたね。今でこそ当然のように言葉を使っていますが、「要件定義」「RFP」「Fit&Gap」など、いわゆるITシステムコンサルの世界に、座学で会計士試験の試験科目しか勉強していなかった状態で投入されたので、最初は周りに対して「何言ってんだ、この人たち」と思いましたが、必死にパワポの資料作成やエクセルでのデータ整理の量をこなすうちに自然と身につけました。

今思うと、あの環境でエクセルやパワポの作法やシステムの基礎を身につけることができたのは財産であったと思います。また、当時は試験勉強と実務を並行して行っていたので、平日は経理実務の泥臭い業務をこなし、休日は綺麗に割り切れる簿記の問題を解くというギャップから、試験問題を解くのはなんて楽なんだと思いました。

他には前職でIFRSの連結決算をやっているときは他社事例がそもそもなかったり、IFRSの基準自体が動くので、その動きをキャッチアップしつつ、原則主義である意味ふわったした基準の中で監査法人との折衝の中で会計処理を決めていくことは、頭を使った気もします。ここに関しては同じチームに元監査法人の経験豊富な会計士の方がいらっしゃったので、彼らと相談しつつ、監査法人との協議もしつつ、模索をしながら乗り越えました。

現職の実家の事業承継に関して言うと、会計・法務・許認可・法人税・所得税・相続税など事業承継自体が総合格闘技みたいなものでした。会計士試験を通して各分野にアンテナを張ることはできていたものの、中小企業で各専門分野の実務に精通できるはずもなかったので、それをどう解決するかに頭を悩ませましたが、今まで築き上げた人脈を活かして、日本酒好きの士業の方を口説き落としてチームを組成することで対応しました。笑

07

人生の目的と公認会計士という資格

人生の目的としては、月並みですが楽しく幸せに生きられれば良いかなと思っています。その目的のためにお金を稼ぐことは現実問題重要ですし、また、仕事を通じて自己実現していくことも必要だと思っています。

ようやく30年生きてきて、20代で公認会計士を取得し、大学でも会計学を学び、事業会社でも実務経験を積む中で、別に拒否反応を示すわけでもなく、成長実感を常に感じることができたので、どうやら「会計」をベースの生業にして生きていくことは自分に合っているのだろうと思いました。

また、こうした経験を通じて、私は会計の本質は「3次元の企業活動を2次元の財務諸表に捨象し、表現できること」という定説に行きつき、これができるのは会計だけであり、会計学という学問の奥深さを感じました。ですので、会計学に向き合い続けるのも1つの目的なのかと思います。

公認会計士という資格についての関連ですが、まず私は「監査」をやったことがないのでその能力が発揮される使い方をしておりませんが、それ以外の部分で恩恵をあずかっています。私自身、公認会計士の資格は「水戸黄門の印籠」みたいなもので、つまり、その資格がもつ社会的信頼性や資格取得難易度から、それを保持しているだけで一目置かれるというところに意味があると思っています。

また、これは実家の事業承継で他の専門家の方の力を借りるときに感じましたが、会計士の世界ではまだ30歳と若造ですが、ライセンスを持っているだけで、その士業の縦の繋がりのネットワークに入れることも魅力です。事業会社で働く中で、それ以外の軸でコミュニティがあり、かつ世代関係なくつながれるのは大きなメリットだと思います。

あとは手前味噌ですがキャリアのセーフティネットの役目を公認会計士の資格は果たしていると思います。ライセンスさえ維持していれば、会社に属する以外に、独立という選択肢も取れるので、最悪どこかの企業に拾ってもらえなくても独立して生計立てればいい、と思えることですね。これがあるからリスクを取って挑戦できる人生を歩めていると思いますし、挑戦していると周りの方から機会を頂きやすいので、その基盤に公認会計士の資格はなっています。

川口 達也さん

08

これから成し遂げたい事、将来の夢

まず、第一には「Relux」を国内NO.1のサービスにしたいですね。順調に成長はしていますが、競合他社さんのサービスに比べたらまだまだなので、2020年の東京オリンピックの追い風に乗りながら、グロースさせていきたいと思います。このHPを見ている会計士の皆様もどうぞお使いいただけると嬉しいです。

中長期的な夢ですが、これは方々に言いまくっておりますが、酒屋の息子に生まれて、会計士の資格も取ったので、それを組み合わせて「飲める公認会計士事務所」を将来的には作りたいと思っています。イメージ的にはベンチャー・酒蔵・旅館・ホテル・NPOといったセグメントの分野を支援しつつ、その傍らで日本酒をメインに店頭で売りつつも、月に何回か顧問先や知人を招いて、酒屋の店内で角打ちをしてつながりを深めていくというような姿が今のところは理想です。

また、会計事務所の支援としては、記帳代行については、クラウド会計に今後は置き換わると思っているので、出てきたアウトプットに対して示唆を見出して、経営者の方と議論したり、事業運営での課題の相談役として、自分で解決できなかったら人脈を活かして人を繋いだりすることができるようになりたいです。

川口 達也さん

09

キャリアを模索する会計士、会計士受験生へのアドバイス

公認会計士の資格を取ることで可能性は広がりますし、セーフティネットもできます。今私がこうした挑戦ができるのも、公認会計士資格という「資産」を自分の財務諸表にオンバランスしたおかげです。この会計士資格という国内で約3万人しか保有していない希少価値の高い資産はCPEをこなし、会費というランニングコストを払い続ければ未来永劫死ぬまでバランスし続けることが出来ます。

この資産を取得するために投下した時間は、私の場合は5年でした。その5年で一生使える資産が手に入ります。これはかなりお買い得です。費用対効果で割に合うと思ったそこのあなたは死ぬ気で勉強してください。その先に大いなる可能性が拡がる未来が待っています。

ただ、資格を手にしただけでは宝の持ち腐れです。その資産だけを活かして、メインの活用方法たる監査のフィールドで思う存分活用しても構いませんが、私のように「事業会社での経験・人脈」「実家のアセット」などの他の資産と組み合わせて使うのもアリです。資格はある意味見えるものなので「認識しやすい」資産といえると思います。

ただ経験や人脈、実家のリソースなどは目に見えないものが多いので「認識しにくい」資産です。せっかくもっていたとしても、自分で「資産」と認識しなければ、組み合わせもできません。会計士という資産をすでに己の財務諸表にバランスした方でキャリアを模索している方は、自分の人生や生い立ち、周りの人間関係を振り返って、自分と対話をし、己を対象としたDue Diligenceをやってみてはいかがでしょうか?
そこで他の人にはない資産が発見されれば、手元にある会計士という資産と組み合わせてみることで、違う世界が見えてくるかもしれませんね。