会計士の履歴書
伊勢田 篤史

となりの法律事務所

パートナー

伊勢田 篤史

いせだ あつし

相続で苦しめられる人を0に-終活弁護士として、相続紛争のない社会を目指す

1983年生まれ(43歳) 千葉県出身 東京都在住

中央大学法科大学院 卒業 2004年合格

伊勢田 篤史

01

キャリアサマリー

2004

公認会計士試験2次試験合格。

2005

あずさ監査法人第2事業部(国際部)に入所。主に上場企業や海外企業の日本法人の会計監査・内部統制監査等の監査業務担当。

2010

あずさ監査法人退所とともに、中央大学法科大学院(未修コース)入学。

2013

中央大学法科大学院を修了し、司法試験に合格。司法修習を経て、翌年、東京弁護士会に弁護士登録。

2016

日本デジタル終活協会を設立。

2019

都内の法律事務所での勤務を経て、となりの法律事務所にパートナー弁護士として参画。

一般社団法人緊急事業承継監査協会を設立。

02

監査法人における経験およびその後のキャリア選択のきっかけ

大学3年在学中に、公認会計士試験第2次試験に当時最年少で合格し、大学4年在学中にあずさ監査法人へ入所しました。国際部に配属され、上場企業や海外企業の日本法人を対象に、会計監査、内部統制監査、IFRS(国際会計基準)の導入支援などを約4年間担当しました。その後、以前からの夢であった司法試験に挑戦するため、監査法人を退所して中央大学法科大学院へ進学し、修了後に司法試験に合格しました。
 現在は弁護士業務に専念していますが、監査法人で身につけた数字を見る力、企業の事業活動を理解する力、リスクを整理する力は、日々の弁護士業務でも大きな支えです。私は「弁護士・公認会計士」という肩書そのものより、これらの知識や経験を使って何を実現したいかを大切にしています。
 大学受験では法学部を志望し、将来は司法試験を受けるつもりで勉強していました。しかし、志望した法学部には合格できず、大学入学直後は目標を見失っていました。そんなとき、高校時代の友人に誘われて受けた商学部の簿記の授業が、転機になりました。企業活動を数字で表現する簿記の仕組みに強くひかれ、もっと学びたいと思うようになったのです。
 父がビジネス書を好み、私も大前研一氏の書籍を読んでいたことから、もともと経営には関心がありました。簿記は、その経営を数字の面から理解するための言語のように感じられました。
大学の授業では簿記3級を1年かけて学ぶカリキュラムでしたが、早く先に進みたいと考えて独学を始め、半年後には日商簿記2級を取得しました。その頃、アルバイト先で元会計士受験生に出会い、公認会計士という職業を知りました。そこで、大学1年の秋から専門学校に通い始め、大学3年在学中に試験に合格しました。
 当時は法科大学院制度が始まる時期で、大学卒業と同時に進学することも考えました。しかし、実務補習所の指導担当者から「まずは監査実務を積んだ方がよい。」と助言を受け、監査法人への就職を選びました。国際部を希望したのは、比較的短い期間に複数の企業を担当し、多様な経験を積めると聞いていたからです。結果として、会計監査の基礎だけでなく、企業の現場で人と向き合う姿勢も学ぶことができました。
 監査法人で働き始めると、日々の業務に集中する中で、司法試験への思いはいったん薄れていきました。一方、もともと経営に関心があったため、会計士の経験を生かして経営コンサルティングの道へ進むことも考え、転職活動を始めました。
 その最中、上司から、当時の東証一部上場企業の新規監査を担当するインチャージ(監査現場の責任者)を任せたいとの打診を受けました。若手のうちに大きな責任を任せてもらえる貴重な機会であり、迷った末に引き受け、監査法人に残ることを決めました。
 その企業を初めて監査する年は、四半期レビュー制度や内部統制監査制度が始まった時期と重なり、非常に忙しい毎日でした。仕事には大きなやりがいを感じていた一方、組織の一員として働くことと、自分の裁量で新しいことに挑戦したいという思いとの間で、次第に葛藤が生まれました。経営コンサルティングへの関心が薄れる一方で、かつて抱いていた司法試験への思いが再び強くなり、最終的に法科大学院への進学を決断しました。
 監査法人での経験や迷いがあったからこそ、自分が大切にしたい価値観を見つめ直し、一般的なキャリアの枠にとらわれず、自分なりの道を選ぶことができたと考えています。

伊勢田 篤史さん

03

今現在の仕事の内容、特徴、キャリアパス

(1)活動の特徴

監査法人を退所した後、法科大学院への進学、司法試験合格、司法修習を経て弁護士になりました。現在は弁護士業務に専念しており、公認会計士として会計監査などの業務を直接行ってはいません。ただし、会計や監査の知識は、企業法務、M&A、相続・事業承継などの案件で日常的に生かされています。
 弁護士は、紛争が起きた後に解決する仕事というイメージを持たれがちです。もちろん、起きてしまった紛争を適切に解決することは重要です。しかし、私が特に力を入れているのは、問題が起きる前に備え、紛争をできる限り防ぐ「紛争回避型」の活動です。
 誰も望んで家族や取引先と争うわけではありません。だからこそ、事前の準備によって紛争を防ぎ、人が苦しむ場面そのものを減らすことが、弁護士の重要な役割の一つだと考えています。

(2)主な活動内容

ア.弁護士業務
 弁護士としては、中小企業の顧問業務や相続案件を中心に取り扱っています。
 会計士時代の経験が特に生きるのは、M&A(企業の合併・買収)における法務デューデリジェンス(契約関係や法的リスクを調査する業務)や、会社経営と家計・財産の問題が重なる経営者の離婚案件などです。数字と法律の両面から状況を整理できることは、私の強みの一つです。

イ.相続関連業務
 法科大学院時代から、法律だけでなく、家族一人ひとりの思いが複雑に関わる相続に関心を持っていました。現在は「相続で苦しめられる人を0に」というミッションを掲げ、「終活弁護士」として、相続紛争の予防や事業承継の準備に関する相談、講演、情報発信を行っています。
相続は、多くの人が関わり得る身近な法律問題です。そして、遺言書の作成や財産・家族関係の整理など、生前の準備によって防げる紛争も少なくありません。
 また、スマートフォンやパソコン、インターネット上の契約・資産などを生前に整理する「デジタル終活」の普及を目指して、日本デジタル終活協会を設立しました。デジタル終活専用のエンディングノートの企画・制作や、セミナーの企画・開催などに取り組んでいます。
 デジタル終活は、テレビ、ラジオ、雑誌などでも取り上げられる機会が増え、社会的な関心の高まりを感じています。近年では、「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ)、「上田と女がDEEPに吠える夜」(日本テレビ)などの番組に加え、NHK Eテレ「おとなの学びシリーズ NHK 明日から使える あかるい終活」にも出演しました。

ウ.緊急事業承継に関する情報発信等
 一般社団法人緊急事業承継監査協会を設立し、中小企業の経営者が突然亡くなった場合でも、会社の事業を止めずに引き継ぐための「緊急事業承継対策」の普及にも取り組んでいます。
 このテーマでは、書籍『社長が突然死んだら?』を出版し、保険会社、税理士をはじめとする専門家向けの講演も行っています。なお、2026年3月には、第2版を出版しました。

(3)キャリアパス

独立してからは、組織内の昇進や異動という意味での「キャリアパス」よりも、自分が何を実現したいか、どの仕事で価値を提供できるかを重視するようになりました。
 仕事を選ぶ際には、「やりたいこと」だけでなく、「引き受けるべきでないこと」も明確にしています。自分の知識や経験を十分に生かせず、依頼者にとって最善の結果につながらないと判断した仕事は、無理に引き受けません。自分の強みが生きる分野に集中することが、仕事の質を高め、長く前向きに働くことにもつながっていると感じています。

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あなた独自の強みと今現在の仕事との関係性

(1)コミュニケーション力

監査法人では、新人の頃から、自分の親と同世代の経理部門の管理職の方々と一対一で話し、必要な資料や説明をお願いする場面が数多くありました。相手の立場を尊重しながら、確認すべき点を明確に伝える経験を重ねたことが、私のコミュニケーションの基礎になりました。
 監査法人では、共通のビジネスルールや専門用語を前提に話せる企業担当者とのやり取りが中心です。一方、弁護士としては、年齢、職業、経験、価値観が異なる幅広い方々と向き合います。双方の経験を通じて、相手に応じて説明の方法や言葉を変え、本当に伝えたいことを丁寧に聞き取る力を磨くことができました。
 この力は、法律上の権利だけでなく、家族それぞれの感情や関係性が複雑に絡む相続の場面で、特に役立っています。
 私は、依頼者が口にした「希望」だけを受け取り、それに合う法的な方法を機械的に示すのではなく、その希望の背景にある思いや不安まで丁寧に聞くよう心がけています。その上で、その人や家族にとって納得できる選択肢を一緒に考えたいと思っています。

(2)“発想力”・“実行力”

新しい課題を見つけ、解決方法を考え、それを実際の活動に移す「発想力」と「実行力」も、自分の強みだと考えています。
 人前で話すことが好きで、セミナーや情報発信の内容を考えることにも関心があります。思いつきをアイデアのまま終わらせず、企画し、形にし、まず一歩を踏み出すまでの速さは、これまでの活動を支えてきました。
 実際に、「デジタル終活」や「緊急事業承継」という新しいテーマについて、セミナーや教材を作り、発信を続けた結果、テレビやラジオなどで取り上げられ、書籍の出版にもつながりました。なお、「デジタル終活」の領域においては、デジタル遺品の第一人者である古田雄介氏と「デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた」を出版しています。
 まだ広く知られていない社会課題を見つけ、専門的な内容を分かりやすく伝え、社会に問いかけていく。この力は、これからの活動でも大切にしたいと考えています。

伊勢田 篤史さん

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仕事をしている中で、心が大きく動いた瞬間

心が大きく動いたのは、「デジタル終活」という言葉が、少しずつ社会に知られるようになったと実感したときです。
 私はもともと、「相続で苦しめられる人を0に」というミッションのもと、終活や相続対策に取り組んでいました。その中でデジタル終活という考え方に出会い、このテーマを多くの人に知ってもらいたいと強く思いました。
 スマートフォンやパソコン、インターネット上には、家族が存在を知らない契約、財産、写真、連絡先などが数多く残ります。本人が亡くなった後に初めて整理しようとすると、そもそもスマートフォンやパソコンのログインパスワードが分からず、遺族に大きな負担がかかります。しかし、生前に情報を整理し、必要な人が必要なときにたどり着けるよう準備しておけば、その負担は軽くできます。
 そこで、日本デジタル終活協会を設立し、デジタル終活に特化したエンディングノートやセミナーなどを企画・制作しました。地道に講演と情報発信を続けるうちに、メディアでも取り上げられるようになりました。
 活動を始めた頃は、「デジタル終活とは何ですか」と尋ねられることがほとんどでした。ところが、次第に「知っています」「聞いたことがあります」と言っていただく機会が増えました。自分たちの活動が、言葉と考え方を社会に広げる一助になったと感じた瞬間は、大きな喜びでした。

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公認会計士という仕事に関連して深く悩んだこと、それをどのように乗り越えたか

会計監査は、企業が公表する財務情報の信頼性を支え、資本市場を成り立たせる社会的意義の高い仕事です。その価値を理解する一方で、私は次第に、自分の志向との違いも感じるようになりました。
 一つは、より大きな裁量を持ち、自分で課題を見つけて企画し、実行したいという思いです。もちろん、若手の頃に任される範囲が限られるのは、監査の品質を守り、経験を積む上で必要なことです。それでも、私は組織の中で定められた役割を果たすことより、ゼロから新しい活動を作ることに強くひかれていました。
 もう一つは、人や企業が抱える具体的な問題に、より近い距離で関わりたいという思いです。会計監査は、企業全体を数字から捉える仕事です。私はそれよりも、相続や事業承継のように、法律上の問題と人の思いが重なり合う現場で、当事者と直接話しながら解決策を考える仕事に適性を感じるようになりました。これは仕事の優劣ではなく、自分の関心と向き不向きの問題だと思います。
 そのような葛藤を抱えていた時期に、当時の東証一部上場企業の新規監査でインチャージを任されました。四半期レビュー制度や内部統制監査制度が始まったばかりの忙しい時期で、遅い時間まで働く日々が続きました。責任ある仕事に充実感を覚える一方で、「この先、どのような仕事を続けたいのか」と自分に問い続けました。
 その結果、昔からの夢であった弁護士への道に進むことを決めました。
一つの組織や職種の中で能力や適性に悩んだとしても、それだけで自分の可能性全体が決まるわけではありません。仕事内容や環境が変われば、これまで見えなかった強みが生きることもあります。私にとっては、ゼロから企画し、周囲を巻き込みながら実行する力が、それに当たりました。
 もっとも、環境を大きく変えることだけが答えではありません。現在の仕事の中で役割を変える、社外の人と話す、小さな活動を試すといった方法もあります。大切なのは、自分がどのようなときにやりがいを感じるのかを、経験を通じて確かめることだと思います。
 現在は会計士業務から離れていますが、監査法人で身につけた論理的な考え方、数字への感覚、リスクを見つける視点は、弁護士としての活動に欠かせません。キャリアを変えても、それまでの経験が無駄になることはないと実感しています。

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人生の目的と公認会計士という資格

弁護士と公認会計士の二つの資格を持っていると、経営不振の企業を立て直す「事業再生」や、破産手続で財産を管理する「破産管財」など、法律と会計の知識が重なる分野を専門にすると思われることがあります。これらは社会的意義が大きく、高度な専門性が求められる重要な分野です。
 ただ、私は資格の組み合わせから専門分野を決めるのではなく、自分が解決したい社会課題から仕事を考えてきました。弁護士資格を「X軸」、公認会計士資格を「Y軸」とすれば、もう一つ、自分が何を実現したいのかという「Z軸」があります。私にとって最も大切なのは、このZ軸です。
 私のZ軸は、「相続で苦しめられる人を0にする」という目的でした。そこから、デジタル終活や、経営者の突然死に備える緊急事業承継という、まだ十分に取り組まれていなかった分野にたどり着きました。
資格は、人生の目的そのものではなく、目的を実現するための手段です。会計監査で得た知識や経験は、企業や財産を理解し、リスクを整理するための強い土台になります。しかし、その知識をどの分野で、誰のために使うかは、自分で選ぶことができます。
 社会には、まだ十分に解決されていない課題が数多くあります。資格という枠だけで将来を考えるのではなく、さまざまな人と出会い、話し、自分が心から取り組みたい課題を見つけてほしいと思います。
公認会計士として身につけた力を生かしながら、これまでにない道を切り拓く人が一人でも多く生まれることを願っています。

伊勢田 篤史さん

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これから成し遂げたい事、将来の夢

「相続で苦しめられる人を0にする」社会の実現が、私の将来の目標です。
 相続争いが起こり得ることは多くの方が知っていますが、自分の家族については「うちは大丈夫」と考え、準備を先送りしてしまうことが少なくありません。その結果、生前に話し合い、準備しておけば防げたはずの争いに、残された家族が巻き込まれることがあります。
 私は、相続を「他人事」ではなく「自分事」として考えてもらい、実際の準備につなげる仕組みを作りたいと考えています。
 現在は、スマートフォンやインターネットという身近な切り口から考えるデジタル終活や、『社長が突然死んだら?』という具体的な問いから考える緊急事業承継を通じて、事前に備えることの大切さを伝えています。
 今後は、知識を届けるだけでなく、知った人が実際に行動できるよう、書籍、メディア、セミナー、ツールなどを組み合わせた新しい仕組みを作っていきたいと思います。
 今後、相続に向き合う家庭はさらに増えていきます。一人でも多くの方が早い段階で準備を始め、家族が相続によって苦しむことのない社会に近づけるよう、活動を続けていきます。

伊勢田 篤史さん

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キャリアを模索する会計士、会計士受験生へのアドバイス

私は現在、公認会計士としての典型的なキャリアとは異なる道を歩み、弁護士として活動しています。そのため、監査法人や会計事務所でのキャリア形成に関する一般的な助言ではなく、一つの異なるキャリア事例として読んでいただければと思います。
 私自身、会計士として経営コンサルティングへ進むか、もう一度勉強して司法試験に挑むか、長い間迷いました。
 公認会計士の資格は、監査、会計、M&A、コンサルティング、企業経営など、幅広い分野につながります。選択肢が多いことは大きな魅力ですが、その分、どの道が自分に合うのか迷うこともあります。
 迷ったときは、まず、仕事内容、働き方、収入、成長の機会、生活との両立など、自分が大切にしたい条件を書き出し、それぞれの選択肢の利点と課題をできるだけ現実的に比べることが大切です。希望だけで判断せず、その仕事をしている人に話を聞き、可能であれば小さく体験してみると、見え方が変わります。
 それでも決められないときは、無理にすぐ結論を出さず、少し時間を置くことも一つの方法です。私が「経営コンサルティング」か「弁護士」かで迷ったときは、半年ほど気持ちが晴れない時期が続きました。しかし、繁忙期の仕事に向き合う中で、「転職しても働き方は大きく変わらないかもしれない。それよりも、私は法律を学び、人の具体的な問題に関わりたいのだ」と、少しずつ自分の答えが見えてきました。
 キャリア選択に唯一の正解はありません。また、一度選んだ道が、その後のすべてを決めるわけでもありません。私にとって、会計士試験の勉強や監査法人での経験は、弁護士として働く現在も大きな財産です。
 悩んでいる時間にも意味があります。焦って結論を出すのではなく、情報を集め、できる範囲で試しながら、自分が納得できる道を選んでください。