会計士の履歴書
乾 隆一

株式会社ブイキューブ

経営企画本部 経営企画本部長

乾 隆一

いぬい りゅういち

東京実務補習所副委員長も勤めた学者肌の会計士 。CFOの仕事で大切なのは人とのつながり

1975年7月15日生まれ(51歳) 東京都出身 東京都在住

慶應義塾大学大学院 商学研究科 修士課程修了 1998年合格

乾 隆一

01

キャリアサマリー

1998

中央監査法人に入所。

2002

公認会計士第3次試験合格後、中央監査法人を退所。乾公認会計士事務所を設立し所長に就任するとともに、TAC株式会社公認会計士講座の専任講師となり、その後10年間、講師業に携わりました。

2007

慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程を修了。監査や会計実務経験を経たのちに、改めて管理会計・財務会計を修学しました。

2013

株式会社ブイキューブに入社。2016年に執行役員に就任。2017年より経営企画本部長に就任(現任)し、経営企画業務や経理業務等を担当している。また、株式会社ブイキューブの社内事業からカーブアウトして設立され、ドローンサービスを行っているベンチャー企業である株式会社ブイキューブロボティクスの取締役に2016年に就任(現任)し、財務経理を管掌しています。

2005年より日本公認会計士協会東京実務補習所及び一般財団法人会計教育研修機構東京実務補習所の運営委員、2009年から2015年までは同副委員長に就き、後進育成に力を注ぎました。なお、現在も実務補習所の講義を担当し、自らテキスト作成も行っています。

02

監査法人における経験およびその後のキャリア選択のきっかけ

1998年10月に公認会計士第2次試験に合格し、中央監査法人の国内部に入所しました。今でこそ合格者は毎年1,000名を超えていますが、私が合格した1998年は合格者が700人弱と少ない時代でした(受験者数は約1万人)。このように合格者が少なかったからか、当時の監査法人では、国内上場企業、非上場企業、学校法人、上場準備など幅広く監査等の業務を行うことができ、将来につながる経験ができました。

人が少なかったからこそできた経験といえば、入所2年目でのインチャージです。J1のときから行っていた上場準備会社があったのですが、そこのインチャージをしていたマネージャーがパートナーに昇格することになり、「インチャージをやらないか」と声を掛けてもらいました。マネージャーの次にメインで行っていたので会社のことはよく分かっていましたが、J2という若さでインチャージを任されたことにはかなり驚きました。その会社は、私がインチャージになった2年後、ちょうど公認会計士第3次試験論文式試験の直前に店頭登録(IPO)し、年次が浅いながらも色々と経験が積めました。

他には、一部上場企業、そのグループ子会社、業界最大手のメーカーなど大小様々な企業や組織に往査に行き、そのうちの数社はインチャージとして係わることもできました。監査法人にいたのは約4年間でしたが、非常に濃厚な時間を過ごすことができたと思っています。

キャリア選択に対する迷いは受験生時代からありました。当初は大学生で会計士試験に合格して、大学院に進学してから監査法人に行こうと計画していたのですが、受かったのは大学卒業1年目の年でした。大学院を受験するか監査法人に行くか悩みました。すでに監査法人から内定をもらっていて「休職は1年間のみ」と言われていたので、迷った挙句、監査法人に入所してまずは実務経験を積むことにしました。

監査法人に入ったものの、大学院で勉強したいという気持ちは消えませんでした。「公認会計士第3次試験に合格したら、海外のMBAあるいは日本の大学院でビジネスセオリーを学んで専門性を養いたい。そのあとは金融機関で専門性の高い業務に係わるのもいいし、独立や学者の道もあるな」と考えていました。そして監査法人の先輩や知人の紹介で、監査法人以外のフィールドで活躍している会計士の方に会い、自分の考えを深めていきました。その結果、最終的には大学院に行きながら独立する道を選択して、監査法人を退所しました。

監査法人退職後、ご縁があってTAC講師をしていました。また独立した当初はバリエーションをしており、2004年頃からはIFRS導入コンサルも行うようになりました。独立しながら慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程にも通っていましたので、午前中は大学院で授業に参加し、午後は自分の事務所かクライアントに行き、平日夜と土日はTAC講師業を行うという、監査法人時代よりも多忙な日々を送ることになりました。といってもやりたい事を存分にやっていたので、毎日が充実していました。そして、満足いくまで大学院で勉強したこと、大学院で教授や院生たちと会計について話したこと、TACで同僚だった会計士試験合格者や公認会計士と議論できたこと。それらの経験を積んだことでより深い知識や知見を持つことができ、その後のキャリアにも生かされています。

乾 隆一さん

03

今現在の仕事の内容、特徴、キャリアパス

現在は、株式会社ブイキューブの経営企画本部本部長として、経理・販売管理・購買管理・経営企画といった数値関連の業務を担当しています。また2016年より、株式会社ブイキューブの社内事業からカーブアウトして設立された、ドローンサービスを行っているベンチャー企業、株式会社ブイキューブロボティクスの取締役も兼任しており、財務経理を管掌しています。

ブイキューブは私が入社した2013年の12月10日にマザーズに上場し、2015年7月22日に東証一部に市場変更しました。この時に行った上場準備作業や市場変更作業、上場後も必要となる監査法人対応では、監査法人にいたときのIPO経験や監査経験が生きています。

また、会社の成長を見ながら業務フローの整備や改善を行っています。会社の規模が拡大すれば現行の業務フローは実態と合わなくなりますし、新しいサービスを始めれば新たな業務フローと旧来の業務フローとで整合性が取れていないところも出てきます。現場の社員が業務フローに違和感があると感じることもありますが、長年やってきたことをどう改善すれば良いのかわからなかったり、新しい業務フローを思いつかなかったりすることが多いです。そのような場合、監査法人や自分で会計事務所を営んできた経験を活かして解決策を検討・実行しています。

現在のような企業内会計士になったのは、大学院を修了しIFRS導入コンサルとTAC講師をしていた頃、IFRSコンサルの領域に大手監査法人も徐々に入り始めたのがきっかけでした。競争力を考えると次のビジネスを考えないといけない状況でした。そこで、会計士の先輩に相談すると「会社の中の論理を知っていると役立つ」と助言を貰いました。その時は36、7歳だったので事業会社に転職するなら今のタイミングしかないと思い、企業内会計士にキャリアシフトしました。実際に転職してみると、先輩のアドバイス通り、会社の中に入らないと知りえないことにも気づくことができました。また会計士としての知識と経験を如何なく発揮することもでき、自分に合った仕事だと感じています。

04

あなた独自の強みと今現在の仕事との関係性

何でも聞ける友人を多く持っていることが自分の強みだと思っています。気軽に聞ける先輩・後輩・友人・家族が周りにいてくれることで、自分の知識と経験だけでは解決できないような課題や問題であっても取り組んで乗り越えていくことができ、その経験が自分をさらに次のステップに高めてくれます。

現在勤務しているブイキューブは、私が入社した2013年10月から今までの約4年半で、マザーズ上場、東証1部上場、構造改革による大幅な特別損失計上という大きな変化が相次いで起こり、ジェットコースターのような動きをしてきました。当然、そのような動きに対応して、いままでやっていたやり方を変えたり、あるいはやったことがない管理手法を導入したり、今までは気づきもしなかったような視点からの分析をしてみたりしています。少し大げさに言えば、数日前まで私にとって常識だったことを覆していく日々です。このように変革・改革・改善が必要な状況では、いままでの自分の経験や見識だけではなかなか対処しきれません。

そこで、具体的な会社の状況までは説明できないものの、他社ではどのような取り組みや管理手法を用いたり分析をしたりしているのかについて友人達から教えてもらい、会社に貢献することができています。

乾 隆一さん

05

仕事をしている中で、心が大きく動いた瞬間

心が大きく動いたというか、ショックを受けたことならあります。

小学校から中学・高校、そして大学や会計受験生時代と色々なバックグランドを持った人々と出会ってきました。ところが監査法人に入ると、当然のことながら先輩も同期も会計士で優秀な人ばかり。社会人経験がある同期も多くいたので、社会人1日目にして「私なんて同期の中でも下から数えた方が早いのだろう」と感じました。正直、かなりショックでした。

また、同じ監査チームには優秀な先輩がひしめきあっていて、さらに超優秀な先輩もいたりするわけで、監査法人に入ってからショック続きでしたね(笑)。

06

公認会計士という仕事に関連して深く悩んだこと、それをどのように乗り越えたか

監査チームで一緒になった方で、私よりも1年先に監査法人に入っていた榎本征範さんという超優秀な先輩がいました。今は新日本有限責任監査法人の品質管理本部でパートナーをされています。榎本さんのすごいところは、私と1年しか年次が違わないはずなのにもっと上の年次の先輩たちと何ら遜色なく仕事をしていて、しかも何でも知っていて考察が深いのです。こちらが3手先まで検討している間に、少なくとも10手先まで進んでいるような桁違いの感じでした。榎本さんと私には圧倒的な差があり、経験という言葉で片づけらなないものだし、真似したところで簡単に身につけられない何かがありました。子どもの頃からの習慣の違いというか、私が今から努力しても追いつくことはできない何か。監査法人ではこういう人がパートナーになっていくのだと思いました。榎本さんを知ってしまった私は、1年目(J1)ながら監査法人での自分の将来を案じるようになりました。

それでも2年目(J2)になれば私も榎本さんレベルになれるかもしれないと、微かな希望を持っていました。ところが、自分がJ2になってJ1から質問されたときに、自分は榎本さんとは違うと気づいてしまいました。J2になっても榎本さんのような深い考察ができるようにならず、ざわざわした不安が胸に広がりました。榎本さんの同期には松浦さんという同じくらいすごい先輩もいて、そんな先輩たちと比べられて監査の知識や経験で監査法人に残っていくことは自分には無理だし、特徴を生かして出世することも難しいということに気づきました。

その不安に突き動かされるように、つてを頼りながら監査法人退職後のキャリアについて監査法人OBの人たちに相談しに行きました。いまから考えても、かなり危機感を感じたのだと思います。しかし自分の場合は心が動かされて、2年目から監査法人以外の会計士の道を知るべく行動を起こしたからこそ、今につながる会計士としての道を進めることができたのだと思っています。

海外にMBA留学して帰国したばかりの先輩、官庁や証券業協会に出向した先輩、独立した先輩、事業会社や金融機関に転職した先輩などいろんな先輩会計士に会いました。中には、監査法人で体を壊して退所したあと、100円ショップや居酒屋をやっている会計士の方もいました。そのような出会いの中で、会計士という資格があるからといって監査している人ばかりではないということを知りました。資格は苗字と同じで自分を特徴づけるものの1つであって、「資格があるからといって監査という特定の仕事に縛られる必要はない」と積極的に感じることができました。これが公認会計士という仕事に関連して、監査について深く悩んで、そして乗り越えたエピソードです。

07

人生の目的と公認会計士という資格

人生の目的と言われると難しいのですが(笑)。ただ、これは池波正太郎氏の歴史小説に書かれていた死生観なのですが、人は生まれたからには死に向かって進んでいると思っています。そして、死の瞬間に悔いのない人生にしたいと思っています。

会計士になってまもなく20年経ちます。人生のほぼ半分を会計士と呼ばれて生きてきました。今後も人生の大半を会計士として過ごすことになるでしょう。そのため、“死の瞬間に悔いがない”ということは、“会計士で良かった”と思うことと同義ではないかと思っています。会計士という道に進んだことで多くの友人達と出会うことができました。そのことでより豊かな人生を歩めていると思っています。人生の目的ではないですが、会計士という資格をとったことで人生をより楽しめていると思っていますし、今後もそのように過ごせるよう、一会計士として研鑽していかなければと思っています。

乾 隆一さん

08

これから成し遂げたい事、将来の夢

これから成し遂げたい事や将来の夢というのは、現時点では特にありません。

ただ、3年前に長女そして去年は男女の双子に恵まれて5人家族となった現在、仕事の時間だけでなく家族との時間も大切にしようと心がけています。子どもが大きくなれば、家族との時間も減っていくと思っています。子どもが手を離れた時に、そこから先の夢や成し遂げたい事を明確に持てるように、今は体力や健康を維持することや、新しいことを経験し続けて自分自身を成長させられれば良いと思っています。

乾 隆一さん

09

キャリアを模索する会計士、会計士受験生へのアドバイス

何を目指すにせよ、興味があるキャリアがあればキャリアを歩んでいる人の話を直接聞きに行くのがベストだと思っています。それもOBよりは現役の人に会って、ナマの業界の声を聞きに行くのが良いと思っています。知り合いがいなければ、紹介してほしいと知人に声をかけて、つながりができるまで諦めないことが大切です。最初に話を聞くときは、1対1でも良いし、セミナーなど集会で話を聞いても良いと思います。

そもそも、どのキャリアを目指していいか分からないのであれば、セミナーさまざまなキャリアの人たちの話を聞く機会を見つけて、何に興味があるのか自分の心に問いかけるのも良いと思います。そして目指すものが定まってきたら、そのキャリアの人と1対1で話を聞いてみる。2回でも3回でも、1年でも2年でも納得いくまでじっくりと話を聞いてみるようにすると良いと思います。

自分も海外にMBAを学びに行くか迷ったとき、監査法人の先輩から、当時ロンドン大学のMBAスクールに通っていた同期の会計士の方を紹介してもらいました。日本に帰国するタイミングを見計らって、1年間で数か月おきに4回ほど話を聞かせてもらいましたが、とても参考になりました(結果、海外MBAには行かずに母校の大学院で会計学を学び直したのですが)。私としては次の約束をしていたつもりだったのですが、その方は、帰ってくるたびに呼び出すなんて変な後輩だと思っていたそうです。当時は話を聞くのに必死でそんな風に思われていたことに気付きもしませんでしたが、最近また話すようになって当時そう思っていたのだと教えてもらいました(笑)。

人の経験談を聞きたいけど自分から提供するものがないので、遠慮して声を掛けられない人もいると思います。また会計士はのんびりとした性格の人が多いので、そのうちチャンスが来ると思って待っている人もいるかもしれません。でも悩んでいるなら、手でも足でも口でもアクションを起こさないといけないと思います。起こせないなら、それはキャリアを模索しようという気持ちがまだ本心じゃないのです。本当に悩んで切羽詰まって、冷や汗かいて、追い詰められたら、逃げ出したくて動きたくなる。でも、できればそうなる前にキャリアは模索しておきたいですね。模索しておけば早く実現できますから。

監査法人からの転職のアクションを起こすタイミングは、いつでも良いと思います。修了考査が終わった頃やインチャージ(主任)を数年経験した後に転職する人が多いですが、これは会計士という資格制度の構造上の話しで、修了考査やインチャージ経験がジョブチェンジを考える一つのタイミングになっているにすぎないと思っています。仮にパートナーになれずに定年退職することになっても、会計が好きで監査が好きなら何年でも監査法人にいれば良いのであって、転職の時期は人それぞれだし、適齢期というものはないと思っています。

パートナーになって数年で、「俺向いてないから」と言って監査法人をやめてしまった先輩がいます。アムステルダムでの駐在から帰ってきて数年でパートナーになったにも関わらず、40歳前後であっさり辞めてしまったのですが、辞めた理由が分かりませんでした。当時は「オランダでは仕事時間が短かったから、日本に帰ってきてからの激務に嫌気がさしてしまって辞めてしまったのでは」と思いましたが、はたしてそれだけで退所まで決断するだろうかという疑問もありました。

でも、周りの人から見ればもったいないと思うようなこの出来事も、その先輩にとってはアクションを起こすタイミングだったのだろうと思います。何か目指したいものが見つかって本気で悩めば、アクションを起こしたくなる。そのときが転職あるいは独立のタイミングになるという良い見本だと思っています。