
EY新日本有限責任監査法人
アシュアランスイノベーション本部AIラボ 副部長 パートナー
市原 直通
いちはら なおと
機械学習などの"テクノロジー×監査"でDigital Auditの未来を切り拓く
1980年1月24日生まれ(46歳) 神奈川県出身 東京都在住
東京大学大学院 経済学研究科 卒業 2003年合格

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キャリアサマリー
慶應義塾大学 理工学部 卒業
新日本監査法人 入所
EY New York事務所赴任
帰任
東京大学大学院 経済学研究科入学
大学院卒業、新日本有限責任監査法人で機械学習の監査への活用などの取り組みを始める
中学入学時にPC-98を買ってもらったことがきっかけでプログラミングを始め、高校1年のときには発表したゲームがコンピューター雑誌で取り上げられることもありました。ダンジョンの主となって迷宮を建築しつつ、様々な罠やモンスターを配置して、時折侵入する冒険者を撃退するというゲームを作った際、冒険者をダンジョン内で歩かせるロジックを考える必要があり、どうすればユーザーが作った迷路を解くプログラムが書けるかということを考えたのがきっかけでプログラムの背景にある数学やアルゴリズムに興味を持つようになり、自然と理系の道に進んでいきました。その後大学でコンピューターサイエンスやオペレーションズリサーチ、統計学など学ぶ中で、ある時、財務データに統計手法を適用し分析を行うような授業がありそこで会計に興味を持ちました。
当時学んだ判別分析という手法を使って株価の動きを予測するアプリを作ったものの、市場が上昇しているときにしか儲からないようなものしか作れず、財務諸表の理解を深めるために簿記の勉強を始めたところ、気が付いたときには会計士受験生になっていました。
2003年に会計士二次試験合格後、監査法人に入所し理系のバックグラウンドが生かせる業務に携わりたい、という相談をしたところ、金融機関の監査ではデリバティブなどの金融商品の評価の検証といった業務があると紹介され、以後十年以上、原資産の確率過程にもとづく金融商品の将来キャッシュ・フローの期待値の計算の妥当性の検討などを中心に金融商品の公正価値測定やリスク管理などの領域の監査やアドバイザリーに携わってきました。
2009年にEYニューヨーク事務所のDerivative Valuation Centerに赴任し一年半、米国の同様の案件の評価計算やアドバイザリーに携わる機会があり、そこで同僚に博士号取得者が多かったことがきっかけで帰国後2014年に大学院にも通いました。
大学院では数量ファイナンス、会計学、計量経済学、機械学習など学ぶ中で会計学の領域で財務データや資本市場で入手可能な様々なデータに対し計量経済学の手法を適用することで様々な知見が蓄積されていることを知り、監査法人での実務の中でこういった知見を生かすことができないか、また機械学習を会計データに適用しイノベーションが起こせないか、ということを考え始め、修士課程修了後、監査法人で財務諸表の将来の訂正や不正を予測するモデルの開発を始めました。2018年6月には会計仕訳の異常検知アルゴリズムを開発し特許の取得もしました。
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監査法人に入所することを選択したきっかけ
会計士を目指したのは会計士の働き方やステータスを資格学校のパンフレットなどで知り、憧れたことがきっかけでした。会計士のキャリアパスについて当時は深く考えておらず、会計士二次試験合格後は監査法人に入るのが一般的、という雰囲気に乗って監査法人の入所面接を申し込んでいました。EY新日本(当時の新日本監査法人)を選んだ理由は正直なところ、雰囲気が良く楽しく仕事ができそうだという印象で決めました。
当時、会計士になるという目標に向かって試験勉強をしていたものの、二次試験合格後にどういう仕事をしたいのかというところまでは気が回らず、論文式試験が終わった後も合格しているかどうかがはっきりしない中でそれほど真剣に合格後の選択肢について情報収集したり、各監査法人の違いや自分の将来像について考えたりする気にもなれませんでした。合格したと分かってから始めて真剣に考え始めたものの、日程的に時間があまりなかったため法人説明会の雰囲気で決めてしまいました。部署の所属も国内部、国際部の希望を出すことができましたが、これも深く考えず、周りにいた合格者がたまたま国際部希望を出していたためなんとなく国際部希望にしました。
あまり深く考えずに選択したキャリアパスですが、今振り返るとキャリアの通過点に一貫性が無く、ばらついているのが逆にスキルの幅になっていると感じます。国際部に配属となり、外国人と働く機会が多かったことで英語の習得にもつながりました。途中、自分のこれまでの数学やプログラミングなどの理系スキルと会計監査、さらに英語といったそれぞれのドットがどうリンクするのか自分でも見えていませんでしたが、業務への取り組みを通じて自然と自分の持ち味を生かしたインサイトや価値の提供をしていくうちにドットがつながっていったように感じます。

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監査法人での仕事の内容、特徴、キャリアパス
私はEYの標榜するDigital Auditの推進をめざし、機械学習などのテクノロジーを活用した監査ツールの研究開発チームを運営しています。チームにはデータサイエンティストやソフトウェアエンジニア、またコードの読める会計士などが所属し、会計仕訳の異常検知などの新しいアナリティクス手法をツールというプロダクトの形にして監査チームに提供しています。
監査の効率化、高度化に資するプロダクトを開発するためには、監査現場でのニーズや、不正会計の手口などの知見といった会計士の視点と、どのようなアルゴリズム・手法を適用すればよいかというデータサイエンスの視点、仕訳データなどのサイズの大きなデータの分析オペレーションを数千社にスケールするためのITインフラの整備や分析のプラットフォームサービス(Data Analytics As A Service)化などのエンジニアリングの視点が総合的に必要になるところが業務の特徴です。
大局的な目線に立てば、少子化などによる労働者不足の中で、高い監査品質や付加価値の提供などの社会の期待に応えるためには、監査業務の生産性向上が必須となり、その実現の鍵となる監査業務のデジタルトランスフォーメーションやデータアナリティクスのさらなる活用の重要性については異論の無いところだと思います。一方でその目標に向かってどの程度進捗したのか、何か有用なものが実際に出てきたのか監査現場目線で感じられないと存在価値に疑問符がついてしまうため、アウトプットを出しそれをアピールしていくということも重要かと思っています。
監査法人では様々な経験をさせてもらいました。金融機関の監査の現場では金融工学が実務でどう使われているか勉強するいい機会でした。また、ニューヨークへの赴任を通じて英語のスキルを向上させることができました。自分のスキルアップの機会だけでなく、自分が開発したものを法人で使ってもらう機会をいただき、非常にやりがいを感じています。会計仕訳の異常検知は、日本だけでなく世界のEY全体に展開するプロジェクトにもなっており、面白い経験をさせてもらっています。
スタッフからシニア、マネージャー、パートナーと職階が上がる都度見える世界や目線が変わるのを感じました。シニアになった際は部下をマネージしてチームとしての目的を達成するというロールになり、他人のモチベーションなどを意識するようになりました。マネージャーになった際はビジネスディベロップメントによる法人の成長という視点を意識するようになり、クライアントの求めているものや、日本企業の動き、世界のビジネスの動きなど意識するようになりました。私は昨年パートナーに昇格しましたが、グローバルリーダーとの接点が増え、ちょうどEY JapanとAPACの統合がこの7月にある、ということもありEYグローバルの中で日本のプレゼンスを示す、リーダーシップを発揮するという意識が高まりました。
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あなた独自の強みと今現在の仕事との関係性
現在の私の業務は不正の手口などを踏まえてその検出に資するアルゴリズムや手法を開発し、これをプログラミング(実装)してソフトウェアの形にし、分析のオペレーションを構築してプラットフォームとして提供することで数千社にスケールする、さらに海外にオペレーションの拠点を設立し全世界にスケールする、というデータサイエンス(数学)、プログラミング、会計監査、英語のスキル、ビジネス交渉術がすべて必要なポジションであり、自分のスキルセットが役立っているのを感じます。
もちろん全てを私一人で行っているわけではありませんが、不正会計の手口を踏まえたアルゴリズムの開発は会計と機械学習などのデータアナリティクスの両方の知識が必要であり、各領域のエキスパートをただ集めただけでは化学反応は起きず、どういう問題をどう解くかを設計するカタリスト(触媒)としてチームをまとめています。

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仕事をしている中で、心が大きく動いた瞬間
今ちょうど取り組んでいる会計仕訳の異常検知をサービスとしてグローバルに展開するというプロジェクトはアルゴリズムの考案からここまで様々なマイルストーンがありました。特許取得を知った時や昨年EY内の様々な取り組みの中で特筆すべきものを表彰するBetter Begins With Youという制度のイノベーション部門での優勝 (https://www.ey.com/en_gl/better-begins-with-you/how-an-ai-application-can-help-auditors-detect-fraud)を知った時、世界中の監査チームが使えるように海外にオペレーション拠点を設立しサービスをロールアウトするという方針が固まった瞬間など、感慨深いものがありました。我々の作ったものを世界中の会計士に使ってもらうべく、海外展開に向けてEYのグローバルエグゼクティブ達に日本での実績やメリット、将来の構想などを説明したり、世界のEY事務所のリーダーらと連携をしながらプロジェクトを進めたりといった貴重な経験をさせてもらっています。
アサイン(誰がどこの現場に、どの日に行くかをスケジュール調整すること)のリクエストの自動調整システムの開発も印象に残っています。これまではアサインのリクエストをそれぞれの監査チームが提出し、コンフリクトがあったリクエストについてどの監査チームを優先するか、またリクエストした人材が取れなかった監査チームには誰を代わりにあてがうかという作業を会計士と事務局がチームになって処理していました。この作業は数十名、数十チームの規模であれば人の手でも無理がないのかもしれませんが数百名、数百チームの規模になるとパズルのような難しさがあり業務負荷が非常に高く、また人不足の中で優先劣後の判断が必要になり監査チームに不公平感を抱かせてしまったりという難しさがありました。この問題を最適化という技術を使うことで自動的に調整するアルゴリズムを考案し実際のアサイン担当者と議論を重ねてきました。アサインにあたって現場では米国基準に対応できるなどの監査チームで必要になるスキルや、代替の人材を見つけるためのプールの設定などきめ細やかな配慮の元で決定されており、こういった要素をいかにアルゴリズムに織り込んでいくかというところの試行錯誤を一年以上続け、最後「仕組みは納得感があり、完成形だと思います」というようなコメントをいただいた時にはこみ上げるものがありました。人手による調整を完全に代替するというよりは一次調整として参考に使うというような形ながら、ようやく最近導入が見えてきて、今後も実戦を通じてより現場感覚に合う形へとブラッシュアップしていきたいと思っています。
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公認会計士という仕事に関連して深く悩んだこと、それをどのように乗り越えたか
よく言われることだとは思いますが、公認会計士のキャリアパスの幅が色々あり過ぎて、自分の進路をどうすればいいのか、これまでの意思決定で本当に良かったのか、というようなことを考えることは多かった気がします。入所して2年目、会計士三次試験の前、合格後、シニアになって、マネージャーの前、マネージャーになって、と同期や周りが監査法人をやめる都度自分はどうするのかということを考えていました。何かやりたいことがあり転職を考えることがあっても法人の懐が深く、監査法人でやらせてもらえたので結局ずっとこの監査法人に居続けて今に至っています。
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人生の目的と公認会計士という資格
私の人生の目的は不正会計のない世界の構築です。財務報告に不正や誤謬のリスクがあるから監査法人の存在意義があるのだと思いますが監査で完全にリスクがおさえられるわけではありません。監査の制度や方法論に起因する監査の限界が、社会的な期待に応える足かせになっており、今後さらに社会的な期待が高まると、そういった期待に応えるためには全く違ったアプローチが必要になるのではないかと感じています。そもそも財務報告の作成主体が不正を働くインセンティブがないような制度設計も、テクノロジーが活用できる今の時代であれば可能だと思います。Uberが世界のいくつかの都市でタクシー産業の在り方を変えたように、テクノロジーを利用して不正会計がそもそも起こりえないような仕組みの資本市場を構築できたら面白いなと思っています。そんな時代になったら公認会計士は不要になるのか、というとそんなことはなく財務・会計データがより利用しやすくなり、その分析や活用のエキスパートに対するニーズはより高まるのだと思います。

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これから成し遂げたい事、将来の夢
まず現在取り組んでいる会計仕訳の異常検知のグローバル展開を成し遂げたいです。EYでは世界全体で約5万の監査チームで仕訳データを対象としたデータアナリティクスを導入しておりますが、会計仕訳の異常検知も数万チームが使えるようなスケールのプラットフォームの構築やオペレーション体制の確立を目指しています。またクライアントのERPシステムと接続し日次で仕訳を取り込み、異常検知のアルゴリズムを走らせることで、翌日には異常検知の通知がチームに届くような仕組みを完成させたいです。
我々のこういった取り組みはエンジニアの確保が重要になってきますが、監査法人がエンジニアを募集しているというイメージがないためか、採用に非常に苦労しています。エンジニアが働きたいと思えるような、IT企業に見劣りしないような環境を整え、また知名度を上げていく、ということも大きな課題だと思っています。

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キャリアを模索する会計士、会計士受験生へのアドバイス
キャリアを模索する会計士の方へ
あまり戦略的に考えてキャリアを形成してきたわけではないため参考になるようなアドバイスはできませんが、社会のニーズと自分のやりたいこと、自分のできることがリンクするような業務ができるよう、自分は何をしたいのか、そのためにどうすればいいのかということを日ごろから意識する、というのは重要かもしれません。また一方で目先の作業や環境だけ見て自分のやりたいことかどうかを判断してしまわずに大局的に考えることも大事だと思います。イソップ寓話に同じ作業を「レンガを積んでいる」と捉える人、「壁を作っている」と捉える人、「大聖堂を建築している」と捉える人ではモチベーションが違うという話がありますが、高い視座で今の業務を捉えると吸収できるものが変わり、同じ経験でもキャリアパスへの生かし方も変わってくるかと思います。
会計士受験生の方へ
合格するかどうかわからない中で社会から半ば隔絶した形で受験勉強を続けるのは精神的に大変なことだと思います。最近はAIによって会計士の仕事が代替されてしまうので、将来性がないのではないかというような言説も出ていますが、監査業界の大勢の見方は正反対です。書類のチェックなどの単純作業などは自動化される一方で会計データの分析基盤の整備が進み、データ分析中心の監査の時代が到来することで会計士も会計データアナリストというような役割になっていき「監査人はこれから、今までになくエキサイティングな仕事になる」という声もあります。ぜひ希望をもって受験勉強を頑張ってください。


