
株式会社キュア・アップ
コーポレート部 コーポレート部 マネージャー
久納 裕治
ひさのう ゆうじ
“治療アプリ”を開発するMedtecベンチャーで経営管理とIPO準備を担当
1984年生まれ(42歳) 佐賀県出身 東京都在住
早稲田大学 商学部 卒業

01
キャリアサマリー
大学進学時に佐賀から上京。早稲田大学在学中に公認会計士に興味を持ち、2年進級時に試験勉強を開始、翌年2次試験に合格。当初は非常勤として新日本監査法人金融部でキャリアをスタート。学生の間からフルタイムと同様のペースで働き、顧客企業の米国上場、合併対応等のプロジェクト、VCやその他各社への監査チームマネジメントを実施。その中で、よりビジネスにフォーカスした顧客への貢献を志向して2010年よりフロンティア・マネジメント株式会社に転職。
転職後は製造業を対象に業界環境、競合状況、対象企業のリサーチ・分析、財務シミュレーションの構築、実行可能性を考慮した施策の立案を含む事業計画・中期経営計画の策定を多く実施。多くの案件において計画策定後は、実行支援の形で企業単位での課題発見、対策立案のフォロー、策定した施策の実行推進に従事。中堅製造業の案件では経営企画室長として、全社プロジェクトのプロマネ業務、業績管理体制の構築等の経営企画整備を内部者として担った。
2018年4月、誘いを受けたMed Tech Ventureのキュア・アップに転職。現在はCFOを目指して財務経理機能の整備充実、経営管理機能の構築、取締役会の運営、労務関連の体制整備等、財務・労務・総務・経営企画と広範な分野を所管し、充実した日々を送っている。
02
監査法人における経験およびその後のキャリア選択のきっかけ
監査法人の選択に関しては、実はあまり深く考えたものではなかったというのが正直なところです。大学3年で受かったのはラッキーでしたが、卒業までの1年半の非常勤を許してくれたのは新日本監査法人だけだったからです。ただ、やるならなるべく専門的な難しいことをやろうと思い、金融部を希望しました。希望通り配属された後は、顧客企業の海外上場プロジェクトという監査法人全体でも大きなプロジェクトにアサインされ、業務記述書やフローチャートをひたすらレビューする日々になりました。またその後のM&Aプロジェクト等、監査法人の在籍時は比較的修羅場の時期が続いたと感じています。5年の在籍でしたが、VC(ベンチャーキャピタル)等の主査も務め、チームマネジメントや監査の全体像の把握も出来、監査業務の深み、難しさを感じられたのは非常に良い経験でした。
ただ監査業務を行う中で、会計のプロフェッショナルとしてのサービスではなく、会計も使ってよりビジネスを理解したい、ビジネス面で貢献する業務に携わりたいと考えるようになりました。そして、事業再生コンサルティング分野で当時非常に勢いのあったフロンティア・マネジメント株式会社(以下、FMIという)に転職しました。
私が転職した2010年はまだリーマンショックの余波も残っており、社会全体としてよい会社も苦しんでいた時期です。FMIは非常に特徴のある会社で、弁護士、会計士、投資銀行出身者、コンサル出身者が机を並べて1つのプロジェクトに携わり、意見をぶつけ合う形でプロジェクトが進みます。その中で、事業・企業という概念に対して多くのプロフェッショナルな見方があることを理解できました。その後はFMIの成長に伴い事業分野も拡大し、再生だけでなく、成長戦略策定や策定した事業計画について常駐で実行支援を行う等、刺激的な日々を過ごすことができました。もちろんすべてが成功に終わった訳ではありませんが、色々なチャレンジの場を与えてもらえて楽しめたことで、転職が一般的なコンサルティング業界では珍しく、結果として8年間も在籍しました。
その後、Med Tech Ventureに転職し、現在の会社が3社目になります。いずれの転職も単に違う会社に行くのではなく、キャリアチェンジであったこと、前職で培ったスキルを活かせる分野はありつつも、新たな挑戦の比重が大きいことは特徴かもしれません。私のキャリア選択は、何かイベントがありその結果考え方が変わったのをきっかけにして、その方向に転職した、というものではありません。いずれの転職においても、現職に関して中期で設定していた目標を達成できたと感じたことが先ず前提としてあり、現職に必死に取り組む中で興味のある分野が出てくるので、その中から一番挑戦しがいがあると感じた分野に移るという形です。
監査法人においては、監査業務全体を自ら指揮した経験を通じて会計と監査の深みを感じることが目標でした。また、コンサルティング分野では、各種経営数値を意味のある形で分析し、目指すべき方向性を抽出出来ること、それを経営者との本気の議論を通じてリアルな事業計画に落とせるようになることが目標でした。一般的にはリスクの高い転職に見えるかもしれませんが、会計士として、コンサルタントとして、それぞれ土台を作った上で新たなチャレンジをしていると考えていますし、現職に従事する中でも興味が熟成され、結果として納得度の高い転職をしていると感じています。

03
今現在の仕事の内容、特徴、キャリアパス
先ず私が現在働く会社の紹介をすると、株式会社キュア・アップというMed Tech Ventureです。医師2人が立ち上げたスタートアップで、目指すビジョンは“アプリで治療する未来を創造する”というものです。行っている事業は『治療アプリ®』の開発(治療アプリはキュア・アップの登録商標)と、その知見を医療行為に該当しない形で法人向けに再構築したモバイルヘルスプログラム『ascure』事業になります。
アプリで治療するというのは耳慣れない概念だと思います。患者さんが自らの精神的・身体的な情報をアプリ操作してIoTデバイス等を通じて入力し、弊社の開発したアルゴリズムを通じて、アプリが医師に代わって情報提供、アドバイスし、行動や習慣の変化を促すことで治療効果を発揮するというものです。保険財政の逼迫が叫ばれる一方、現場の医師は非常に忙しく、患者さん一人一人の診察にかける時間は限られている現状があります。次に病院に行くまでの通院と通院の間、医師の治療やアドバイスを受けられない空白期間を埋めるものとして、しかも医学的なエビデンスを具備し、保険適用される信頼性の高いソフトウェア医療機器として開発・販売をするというのが目指す姿になります。
現在、『ニコチン依存症(禁煙)治療アプリ』が2017年10月に日本で初めてのアプリの治験として開始され、薬事承認・保険償還を目指しています。今後も脂肪肝や生活習慣病等の幅広い疾病領域で、順次事業展開を行っていく予定です。
現在の私の役職は、社長直下のコーポレート部門のマネージャーです。部長職はないので実質的には経理・財務・労務・経営企画等の分野を所管しながら、役員等と議論しながら推進する役割を担っています。また、今後本格化するIPO準備業務のプロジェクトマネージャーも担当しています。スタートアップで事業のスピードも早いので、様々なことを早期に決めて対応していかなければならない一方で、人員もまだまだ十分でないことから幅広い業務に目配せをして進めていかなければならないことが特徴です。現在は社内外での信頼を得て、早期にCFOとなることを目指しています。
04
あなた独自の強みと今現在の仕事との関係性
私の強みは“様々な業務を通じて得た経験を有機的に結合した形で落とし込めること”だと考えています。会計士、コンサルタントは世の中にたくさんいますし、コンサルタントとして働いている会計士も多いです。ただ、両者をそれぞれ高いレベルで遂行できる方はそう多くはいません。コンサルティング会社にいる会計士は、プロジェクトの中でどうしても数値周りを重点的に担当することになりがちです。財務諸表を読む、財務シミュレーションを作るといった、会計士に親和性のある能力をお持ちの方はたくさんいらっしゃいます。他方で、ビジネス面の分析や、施策の実行へ向けた浸透へのアクション等の、コンサルタントとして現場で奮闘して身につく能力を身に付け、高いレベルで融合出来ている方はあまり多くはいらっしゃらないのです。その人のキャラもありますが、どちらかと言うとコンサルティング会社でも会計士は職人的な立場になる方が多いような印象です。私もFMIに参画した当初は財務モデルの構築などが中心で、事業の分析に関しては非常に恥ずかしいレベルでした。この点を振り返ると、会計士の素養があまり活きない分野も成長のための経験をさせていただき、会社と上司にも恵まれたと感じています。
上記の強みは現職のキュア・アップでの日々にも直接的に役立っています。スタートアップなので、革新的なプロダクトを世に出すための機能を強化することが先決で、経理財務や総務などのコーポレート面での業務は、どうしても走りながら追いつかせるという形になります。そこでは、「経理なので…」「会計的には…」等と言いながら立ち止まることは適切でなく、守らなければならない領域を見極めつつ、粗くてもいいので進めていくことが求められます。また、他部署が拾えない機能を拾う最後の砦でもあり、未経験の分野でも何とか論点を潰していく必要があります。もちろん、まだまだ修行中の身ですが、様々な観点から会社組織、事業運営を見た経験が骨格となり、ちょうどいいバランス感覚が持てていると感じます。

05
仕事をしている中で、心が大きく動いた瞬間
私が会計士試験の勉強をする中で一番面白いなと感じたのは、会社組織と事業を、会計、法務、税務、経営学、経済学的など、それぞれの視点から見た時の違い、またそれが社会に拡大した時の影響など、観点が変わったときに見える景色の違いでした。社会は各分野のプロが考え抜いた制度を通じて様々な観点から方向づけられ、しかも相互に影響しあっているということを感じた時に、世界の奥深さを感じたのです。同時に、会計士は特定分野のプロフェッショナル職でありながら、直接的な会計・監査に限らず多様な観点を資格試験の段階から学ばなければならず、奥深い業務なのだろうとも感じました。
仕事を振り返ると、金融、事業再生、それぞれの局面で、それぞれの立場の方が、どんな観点で何に重きを置いて評価・判断をするのかを目の当たりにしてきました。それは経済・社会が、様々な要素が相互に関連・影響しあいながら、全体として成り立っていく複雑系であることを私に想起させました。その結果として、様々なバックグラウンドを有する個人がどのような情報に基づいてどう意思決定をするか、個人の集合体である組織がどう意思決定をするかという過程に触れ、理解できた時に、掴みどころのない社会の仕組みを理解できることこそ働くことの醍醐味であると感じるようになりました。そして、会社をはじめとする組織がどう動いていくのか、各機能がどう相互に作用するのか、全体としてより良くしていくにはどうするべきかを仕事で追求していこうと考えるようになったのです。
06
公認会計士という仕事に関連して深く悩んだこと、それをどのように乗り越えたか
会計士という仕事に関して悩んだのは、監査法人入所後3、4年目ごろに監査の全体像が朧気ながら掴めてきた時です。監査を山登りに例えると、最初は頂上も見えない中でも必死で足を動かしますが(会計士補の期間)、しばらくしてふと周りを見回したときに、登りだした山が相当に高い山だと理解できるようになります(会計士補の期間が終わったころ)。この山は非常に高く険しい山で、登り続けるには相当の覚悟が必要です。会計・監査に熱意を持ち、本気で突き詰めようとしている会計士と戦えるほど自分は情熱を持っているか(将来持てるか)、本当にこれが一番チャレンジしたい山なのか、という疑念が湧いてきました。
その頃の私は、悩むと同時に主に事業再生とM&Aアドバイザリーの分野に興味を持っており、どちらの分野についても実務家の方が読むような本も含めて時間を投資し学んでいました。ただ、学べば学ぶほど感じたのは、やはり会計実務の経験は直接ではなくても相当活用できる場面が多そうだということです。そして会計・監査を突き詰めるのではなく、テコとして、ビジネス・社会を理解するために使うことが、自分にとっての会計の活かし方なのではと考えるようになりました。
2009年頃は今と比べると、監査法人外で会計士が働くのは一般的ではありませんでした。会計士という名前は残りつつも、実質的に会計士を辞める決断をしたという、後ろ向きなとらえ方がされる時代でした。ですが、監査法人をやめてコンサルティングの現場に飛び込んでみると、その判断は間違っていなかったなと改めて感じました。事業損益、財務三表のシミュレーションのみならず、事業を理解するための第一歩として財務諸表を理解できることは、非常に強みになりました(もちろん学ぶべき事項はそれ以上に数多くありましたが)。また、外に出て違う考えに触れてみると、パートナーの過去の指導に含まれていた深意が理解できる等、新たな発見もありました。
07
人生の目的と公認会計士という資格
私の人生において、会計士という資格がどういう意味を持っていたか改めて振り返ってみると、大きく2つの意味合いがあると考えます。
一つは形式面での社会的信用です。偉大な先人の皆様のおかげで、やはり公認会計士には社会的信用が具備され、初めてお会いした方達にも一定の信頼を持って接していただけます。特に20代、30代という若さでも、年配の役職者の方とお話しさせて頂ける機会を持ちやすく、しかも一定の敬意を持ってもらえることが多いというのは、様々な場数の蓄積において非常に助けとなりました。転職市場などでも同様です。財務的な素養が求められる職種はもちろんのこと、若手の間であれば会計士資格をもっていることは、数値に根差した思考が可能、努力が出来る、倫理観がある等を示す客観的な材料となり、キャリアチェンジの幅を広げてくれました。
もう一つは実質面、財務・会計的な思考力、そしてそれをテコとして身に付けた事項です。経済環境の変化を受けて変わっていく会計基準を、常に指導的機能を発揮できるレベルでキャッチアップしていくのは、監査法人のインフラ等を活用しないと非常に難しいです。しかし、まずは試験勉強、そして会計監査の実務で身に付く(身に付けるべき)思考力は、会計基準が変わったとしても有用な普遍的なものです。それを突き詰める方向でプロフェッショナルとして生きるというのも魅力的な道ですが、私のように活かして視野を広げる方向で用いるにも有効です。例えば、業種、業態によるコスト構造の違いを理解しておくことで、他業種でコスト構造を把握するときどこにポイントがあるかの“あたり”を早期につけられます。また、その理解を事業シミュレーションのレベルに落とし込み、施策効果を数値に基づく形で議論すると、実務を担う方と実現性も含めてすり合わせが可能になり、建設的な事業計画検討が行えるようにもなります。
社会を多面的に理解することが興味の一つである私にとって、会計士資格を取ったことで、若いうちから経営層をはじめとする経験を積んだ方と接することが出来たのは非常に貴重な経験でした。しかも会計という判断軸をもっていたことで様々な意見を客観的に捉え、考える幅を増やすことができたと考えています。

08
これから成し遂げたい事、将来の夢
私が究極的に仕事を通じて社会に貢献したいことは、“意思決定の合理性”の向上です。意思決定は、情報の信頼性、十分性、意思決定のフレームワーク等、様々な事項に影響を受け、常に最善を選ぶのは不可能です。ただ、個人が人生の納得度を高めるためには、人生で積み上げた意思決定が、少なくともその時点で自分なりに合理的だったと感じられることが必要不可欠だと私は考えています。そういった私の思いに合致するサービスを提供している会社で、組織としての意思決定をより合理的にするための役割を担うというのが、私のキャリアにおける理想像です。もちろん、最大公約数として意見をまとめるということでなく、自分の意見を発信し建設的な議論を行うことも含みます。使い古された表現になりつつありますが、端的にいえば“プロ経営者”ということになると思います。様々な会社を転々とするという意味ではなく、どんな場面でも臆さず、会社全体を俯瞰した観点での判断、企業価値に貢献する形で判断を貫くという意味でのプロフェッショナルな経営者です。
近々では社内・社外の方々からの信頼を得てCFOとなることが目標です。そして将来に渡って私も会社に負けないスピードで成長し、成長を牽引する経営者の一員として貢献をしていきたいと考えています。私が所管するコーポレート部門は、まだまだ各機能の整備に着手した段階ではありますが、上記の観点から理想を追求して、“革新的な製品を手掛けるベンチャーのコーポレート部門”ではなく、“革新的な製品を手掛けるベンチャーで革新を自ら推進するコーポレート部門”を作り上げていきたいと考えています。

09
キャリアを模索する会計士、会計士受験生へのアドバイス
私がこの『会計士の履歴書』という企画をお受けすることを決めたのは、単純に色々な会計士の姿を世に示すということでなく、会計士のキャリア選択を支援するための企画と聞いたためです。前述のとおり私は意思決定に興味をもっており、また自らがキャリア設計に関して悩んだということもあり、キャリアに関する意思決定についてどうあるべきかを人一倍考えたと自負しています。転職が一般的になってきているとは言え、ジョブホッパーでなく、転職を意味のあるトラックレコードにするため、キャリア選択はやはり非常に重要です。そこで私の現在までの経験をベースに、キャリアを模索する会計士、会計士受験生の皆さんに、後悔しないキャリアを歩むために必要なアクションを3つお伝えしたいと思います。
1つめは、現在のキャリアをやり切ることです。どのような業種・職種でも1年といった短期間で本当に理解できたと言えることはなかなかないでしょう。やり切ったと考えるラインはもちろん人それぞれなのですが、何が出来るようになったら今現在のキャリア機会を活用し切ったと言えるのか、何をスキル・経験として獲得したと言えるのか、それを考えながら日々の業務に向き合うのが良いと思います。
2つめは、自らのスキルセットを棚卸しして目標と比較をすることです。1つめにも関連しますが、常に現在のキャリア目標と現状を比較して、何が足りないのか、どんな機会を探索したらよいかについて自問自答するべきです。目標も、自らに向き合い、逃げられないもの、チャレンジングなものに設定する必要があります。公認会計士になった、主査をやった等は、特に相手が会計士に詳しければ形式要件以上の意味は持ちません。また、現在のキャリアに関する目標が少しずつ充足されだすと、自ずと次の目標を考えるようになります。その時に現在の組織でまだやるべき事があるのか、違う形でチャレンジするのかを意識するのです。焦る必要はありません、何故ならまだキャリアをやり切った状態ではなく、やり切る過程にいるからです。現業にも尽力しながら、次のアクションを考え、必要であればリサーチするなり、勉強するなりすればよいでしょう。
3つめは、自分の市場価値を把握することです。キャリアは自分でデザインするものであり、エージェントに教えてもらうものでは全くありませんが、客観的な意見(そして往々にして厳しい意見)や市場環境は自分だけでは分かりません。信頼できるエージェントを見つけ、定期的に連絡を取りましょう。自らの状況、思考の変化等を伝えることで自らの頭も非常に整理されますし、具体的な求人のイメージと、そこへ向けて今できること等も把握ができます。この点は2つめの最後に記載した事項とも関連します。逆説的ではありますが、主体的にキャリアを選ぼうとするならば、客観的に自分がどう見えるかを常に意識する必要があります。
将来、この企画を読んだという方とお仕事できるのを夢見ています。最後までお読み頂きありがとうございました。


