警察庁
警察大学校 助教授(警部)
原 都志也
はらとしや
公正な社会の実現を目指す
1970年2月12日生まれ(56歳) 愛知県出身 東京都在住
1993年合格
01
キャリアサマリー
大学卒業
公認会計士第二次試験合格 同時に国税専門官採用試験合格
国税庁名古屋国税局に国税専門官として採用 税務署法人課税部門に配属され法人調査等を担当(転勤2回)
公認会計士第三次試験合格
愛知県警察に財務捜査官として巡査部長の階級で採用され、捜査第二課で金融企業犯罪捜査に従事
警部補昇任 警察署刑事課知能係で一般知能犯捜査に従事
警察本部捜査第二課で重要知能犯事件捜査に従事
警部昇任 警察署刑事課長代理(知能・暴力薬物担当)
警察本部捜査第二課課長補佐として、企業犯罪、金融犯罪、偽造犯罪等の捜査に従事
警察署刑事課長として勤務
警察本部捜査第二課課長補佐として勤務 特殊詐欺事件の捜査に従事
現職
大学ではボート部(漕艇部)で4年間漕手として活動しました。就職する時には、一般民間会社で働くことに抵抗感を感じ、手に職を付けたい、何か専門分野を持ちたいと考え、大学3年生の時、経済に関係する資格で独立も可能な公認会計士試験の勉強を始めました。
1992年大学4年生当時はバブル末期の売り手市場の時期で、地方公務員試験に合格しました。そのまま試験勉強を辞めて就職しようか迷いましたが、ここで受験しなければ一生後悔する、若いときはチャレンジすべきだと考えて、大学院に行ったつもりで就職浪人して公認会計士を目指すことにしました。
ちょうどバブルが崩壊した時期で不安を抱えながらの受験勉強を始めました。合格できると思っていた受験一年目には不合格となりましたが、二年目の試験で合格することができました。浪人での受験二年目の時は、これだけ勉強して不合格になるのなら会計士という職業に縁がないか適性がないのだろうと考えて、今年を最後にあきらめようという覚悟で受験しました。そこで、万が一不合格だった時に備えて国税専門官試験を受験したところ、23歳で公認会計士試験と国税専門官試験の両方に合格することができました。
進路については、監査法人に入ろうか迷いましたが、映画「マルサの女」を見て、税務調査は面白そうだなと国税の仕事に興味を持ち国税の道に進むことにしました。1994年4月に国税局に採用され、税務署の法人課税部門に配属されました。両方の試験の合格後、春の採用までの半年間は、私立高等学校で社会科の非常勤講師を務めました。
国税局では、税務署が所管する中小企業等の法人税、消費税等の税務調査を担当し、不正経理による脱税案件を発見する仕事に従事しました。その間、税務大学校で研修を受け、税法や財務会計、法律に関する知識を得ました。三年後、税務調査の実務経験を経て、公認会計士試験第三次試験に合格し、四年目に別の税務署に転勤しました。結婚し、さらに別の税務署に転勤したところで、税務の分野だけでなく新しい分野での仕事にチャレンジしたいという気持ちが高まり、年齢的にも転職するなら30歳になる前の今しかないかという考えもあり、公認会計士としての資格が活かせる仕事に転職することを検討しはじめました。
1999年に新聞の求人広告で、愛知県警察で公認会計士等の資格や職歴を条件に、財務捜査官を募集していることを知りました。警察の仕事は、法律に基づいて不正を摘発する仕事であり、税務調査と似ている部分もあることから税務署での経験が活かせると考えて受験し、合格しました。2000年に採用時研修を受けた後、愛知県警察本部捜査第二課に配属され巡査部長として金融犯罪・企業犯罪等の捜査に従事することになりました。
警察の仕事の現場は、命に関わる事案や緊急性がある事案など想像していたよりもかなり厳しいものでした。そんな時、2001年頃、上場会社(建設会社)における多額業務上横領容疑事件の事件相談を受けることになった時、粉飾決算事件の可能性を発見し、簿記・会計の知識を活用して社会的反響の大きな事件[会社法違反(違法配当)、証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)]を検挙することができました。採用されて間もない時期に、公認会計士でなければ事件化できない事件に直接関わったことで、経済的不正事案の摘発という仕事の魅力がよくわかり、今日にいたるまで警察の仕事を続けるきっかけとなりました。
2004年4月に警部補に昇任し愛知県でもっとも忙しい大規模な警察署での勤務を経験し、様々な業務を経験するとともに第一線警察の厳しさを直接体験しました。2005年からは再び警察本部に異動し、贈収賄事件等の重要事件の捜査を担当しました。ここでも自ら潜在的な不正事件を発見し、捜査の事件解決の糸口を得て、内偵捜査、被疑者の取調べ、逮捕し、送致、起訴、さらに公判で有罪獲得するまでの一連の流れを体験しました。これらの体験により高度な重要知能犯事件捜査や知能犯捜査の奥深さや醍醐味を知りました。
2008年4月、警部に昇任し、警察署刑事課長代理として知能犯事件のほか暴力団や薬物事件を担当し仕事の幅を広げ、2010年4月に警察本部捜査第二課課長補佐として、採用時から念願だった金融企業犯罪等の捜査を行いました。贈収賄事件捜査の経験も活かして、金融機関役職員が関与する背任事件、粉飾決算書を用いた公的融資詐欺事件、上場会社取締役らによる関連会社に対する不正融資(業務上横領)事件、全国規模の偽造収入印紙公使事件、偽造通貨行使等事件などの事件で被疑者を逮捕、送致し、有罪判決を得ることができました。経済事件は逮捕や起訴、さらには有罪を得る等の事件としての立証が難しく、専門的な捜査に従事できる人数も限られる中で、捜査指揮官として苦労はありました。ただ、いわゆる被害者のいる犯罪ではない、潜在する大きな不正を見つけることにこだわり、財務捜査官としての独自の見方や証拠を集めることで、社会的反響の大きい事件を多数担当することができました。経済的な不正事案を多く検挙できたことで、財務捜査官としての仕事が世の中のためになっているという実感を持つことができました。
2015年4月から2年間は、警察署において、強盗事件、傷害事件、窃盗事件等の事件を担当し、刑事課長として管理業務や捜査指揮等の業務を行いました。
2017年4月、再び捜査第二課課長補佐となり、最近重大な社会問題となっている特殊詐欺事件捜査を担当しました。
2018年4月から、愛知県警察から派遣、その後出向という形で、警察大学校財務捜査研修センターに勤務することになりしました。財務捜査研修センターは、警察大学校の研修機関の一つで、全国の都道府県警察で財務捜査に従事する財務捜査官や一般の警察官等に財務捜査研修を実施している機関です。私のような財務捜査官は、警視庁、道府県警から出向、派遣という身分で教授・助教授として授業を担当しています。
ここでは、公認会計士としての知識や税務調査や経済事件等の実務経験を活かして、研修等を企画、運営するとともに、研修講師として講義も実施しています。研修という職員の教育に関する仕事は、将来の警察組織における財務捜査を担う人材を育成する仕事であり、自らの性格にも合っていると感じており、やりがいを感じています。
私がこれまでやってきたのは、公認会計士とは関連があるものの、本来公認会計士としての資格がなくても能力さえ持っていればできる仕事だったともいえます。
ただ、国家公務員と地方公務員という違いや組織の目的の違いはあるものの、公正な社会の実現が、私の人生のテーマとなっています。「ずるい人、悪い人を許せない」「世の中を良くしたい」「正直者が馬鹿をみない世の中にしたい」という気持ちで、正義感から、公認会計士としての専門性を活かして財務捜査による企業犯罪などの経済事件の検挙という不正の摘発に関する仕事をしてきたのです。
02
国税局における経験およびその後のキャリア選択のきっかけ
国税職員として採用された後、税務大学校で採用時研修と専門研修を受けました。
最初に配属された税務署と転勤した後の二つの税務署では、法人課税部門に配属され、中小企業等の法人税、消費税、源泉所得税等の調査担当として税務調査を担当しました。国税の仕事では、各種調査手法(特に銀行調査手法)、税法に関する知識を得ることができた他、中小企業の実態を知ることができました。約5年間で300社以上の中小企業を訪問し、社長、経理担当者、税理士などと面談し、さまざまな業種の経理や経営の実態を見ることができました。
税務調査では、「仮装・隠蔽(かそう・いんぺい)」という重加算税を課すような悪質な脱税事案(不正事案)を発見することが重要な使命でした。税務調査の経験を通じて、「会計」の知識・経験を活かせば不正を発見できること、真実を発見することの面白さを実感しました。
国税の仕事はとてもやりがいのある仕事でしたし上司・先輩・同僚などの仲間にも恵まれていたと思います。また、税務調査は、毎週のようにたくさんの会社を訪問する仕事したので、社会人になったばかりの頃は、いろいろな勉強をさせていただきました。
しかし、中小企業の税務調査では「公認会計士」としての知識・経験が活かせる場面は限定されていました。また、「税務調査」の限界というものも感じていました。税務調査は当然ですが、課税の公平の実現を目的とする「税務行政」として行われるものでした。このため、時には調査の中で、贈収賄事件や暴力団への不正な資金提供の疑いなど犯罪が疑われる情報が見つかることがありましたが、税務調査の目的は課税であるので掘り下げられることなく、やむを得ず真相が明らかにならないまま課税をするという場面もありました。
こうした中で、国税での勤務が6年目になった時に、県警で財務捜査官の募集があり、警察での「専門捜査員」としての仕事なら、より事案の真相に迫り不正の摘発ができるのではと考え応募することにしました。約5年間、税務調査を経験することで不正を摘発する面白さを知ったので、逮捕や捜索差押えなどの捜査を行うことのできる警察での「財務捜査」に魅力を感じたのでした。
運良く採用試験に合格し、ちょうど公認会計士第三次試験にも合格していたこと、国家公務員と地方公務員という違いはあるものの同じ「公務員」の組織で馴染みやすく、転職の不利益が少ないこと、財務捜査官の仕事であれば、公認会計士としての専門知識や税務署での調査等の経験が生かせること、年齢的にも転職するなら今しかないと考えたことなどから、思い切って警察本部財務捜査官(警察官巡査部長)を拝命しました。
財務捜査官として警察本部に入った後は、主に企業犯罪、金融犯罪等の経済事件を担当しました。ただ、採用後の経歴は、採用時に想像していたものとは大きく異なり、昇任に伴い警察官として刑事部門での業務(捜査)をすべて担当するようになりました。暴力団事件や薬物事件、さらには検視業務や強盗・殺人事件、窃盗事件などといったさまざまな事件や相談などを担当しました。財務分析や銀行捜査などの専門分野の仕事だけではなく、よく刑事ドラマに出てくるような被疑者の逮捕、取調べ、関係者の取調べ、尾行・張込、鑑識活動などの事件捜査、当直、留置被疑者の護送業務、さらには事件の捜査方針を決める捜査指揮や業務管理・人事管理といった一般的な管理業務などのさまざまな仕事に従事してきました。

03
今現在の仕事の内容、特徴、キャリアパス
現在の仕事の内容は、財務捜査研修センターで実施する財務捜査に関する研修の企画立案に加えて、研修担当者としての研修実施と財務分析や財務捜査指揮等に関する授業等での講師を担当しておりますが、最初に、それ以前の「財務捜査官」としての仕事内容について説明します。
愛知県警察においては、約18年間、警察官(財務捜査官)として、主に詐欺・横領・背任等の「知能犯罪」と呼ばれる捜査を担当してきました。
携わった主な大きな事件としては、上場企業の役員等が関与した業務上横領事件、特別背任事件、金融機関に対して粉飾した決算書を提出するなどして融資金をだまし取った詐欺事件、金融機関役職員による(特別)背任事件、上場企業代表取締役社長による粉飾決算事件(金融商品取引法違反事件(有価証券報告書虚偽記載、会社法違反事件(違法配当など))、国会議員らによる公設秘書給与詐欺事件、市議会議長らによる贈収賄事件、外国公務員贈賄事件(汚職事件)、選挙違反事件等があります。
私は、採用された当時、「財務捜査官」という特別採用でしたので、税務調査でやっていたのと同じような財務分析や帳簿捜査などの専門分野の仕事だけをすると思っていました。ところが、私の採用された愛知県警での財務捜査官の役割は、比較的専門分野の財務に関する知能犯捜査だけでなく、一般の警察官と一緒に、警察組織の一員としてさまざまな事件捜査をすることでした。
とりわけ、警部になってからは、第一線中間管理職としての仕事が増え、捜査部門の現場責任者として、「財務」とは全く関係のない仕事の割合がほとんどとなってきていました。
キャリアパスについては、私が採用された愛知県警察の場合、おおむね一般警察官と同じようなキャリアパスで、一般の警察官と同じく「昇任試験」という試験に合格して階級を上げて職位を上げることになりました。
これまでの警察における約20年あまりのキャリアの中で、警察署において刑事課係長、刑事課長代理、刑事課長として合計5年半あまり勤務しました。警察署では経済事件などの経済犯罪だけでなく、暴力団、違法薬物に関する事件、さらには殺人事件、強盗事件、さらには窃盗事件や鑑識部門の仕事も担当しました。
警察の仕事は、公共の安全と秩序の維持(国民・県民の安心と安全の確保)という大きな使命があるため、仕事が幅広く、刑事部門や交通部門など専門的な分野も多数あります。私の専門分野である財務捜査は、あらゆる事件に関係しますが、特に必要とされるのは経済事件の中でもほんの一部の捜査でした。
また、専門性を活かすためにはその前提となる刑法や刑事訴訟法などの知識、捜査を中心とする様々な警察活動の実務経験がより重要でした。
警察の仕事は、財産だけでなく、人の生命・身体の安全に関わるものがあり、緊急性のある事案も多いため、財務捜査官にもそうした事態に対処できる能力、捜査指揮官としての能力が求められます。
私自身は、上司などまわりの方々の勧めもあって、専門性が活かせる捜査二課という専門部署での勤務を中心としながらも、一般警察官と同じようなキャリアパスを経験してきました。
ただ、私のようなキャリアは全国の財務捜査官の中ではまれなケースであり、多くの財務捜査官は、警察官の立場、階級を持ちながら、一般の警察官とは異なり、捜査二課などの部署で転勤等せずに専門性を活かした勤務をされている方がほとんどです。
警察組織は、一人一人の希望や適性に応じた人事がなされており、キャリアパスも一人一人大きく異なります。
そして、これらの経験を経て、一昨年4月からは、東京都府中市にある警察大学校財務捜査研修センターにおいて、これまでの捜査経験や公認会計士としての知識などを活かして、財務捜査に関する各種研修を担当し、全国の警察組織全体の財務捜査力向上のため頑張っています。
04
あなた独自の強みと今現在の仕事との関係性
私独自の強みといえるかわかりませんが、私のキャリアの特徴は、公認会計士試験に合格していながら、監査法人には一度も勤務せず、国税や警察という「公務員」の組織(官庁の中でも調査・捜査部門)で、悪質な事案を多数扱ってきたことにあると思います。国税と警察は、いわゆる法執行機関であり、法律を武器に、法令違反行為を取り締まる組織であり、その組織の一員として暴力団などの「反社会的勢力」も含めた脱税者や犯罪者に対峙してきました。そうした意味では、さまざまな事件、事案を通じて社会の裏側を見る中で、不正を見抜く力や不正に対決する強い思いがあります。
次に、国税、警察という公務員組織で勤務してきましたので、公共性に関する感覚、組織感覚、マネジメントスキルは強みになっていると思います。(逆に「弱点」かもしれません。)
警察の幹部としては、時間が限られた中で臨機応変に「適切な判断」をすることを求められ、時には命に関わる事案も取り扱いましたので、「決断力」や「バランス感覚」を身につけることができたと考えています。
私個人の性格の特徴は、①物事を冷静に分析できること、②正義感が強いこと、③粘り強いこと、④協調性があることです。こうした性格の特徴は、今現在の警察での財務捜査などの仕事に役立っていると思います。
捜査の最終段階である刑事裁判は「証拠」に基づいて判断されます。したがって、私の強みである「①物事を冷静に分析できること」は、各種事件捜査において、「事実関係」である「証拠」、特に財務に関する証拠に基づいて客観的に分析することができるという意味で役に立っていると思います。
「②正義感が強いこと」は、警察の仕事が犯罪者と対峙して捕まえることですから大事な素養だと思います。「③粘り強いこと」は、事件の検挙までには高いハードルがあることも多いので、「あきらめずにコツコツと目標に進むこと」というのは捜査では武器になっています。
「④協調性があること」は、警察では個性を持ってスタンドプレーをするよりも「組織力」を発揮してそれぞれが役割を果たすことで成果を上げることが求められますので、強みになっているかと思われます。
さらに、現在の研修の仕事については、自分自身の強みが活かされていると感じています。実は、私自身は子供の頃、「学校の先生になりたい」という気持ちがあり、大学では中学・高等学校の教員免許も取得しました。その意味では、「教育」の分野は自分の関心が強い分野であり、現在の『人に教える』という研修の仕事は、非常に手応えを感じています。

05
仕事をしている中で、心が大きく動いた瞬間
仕事をしている中で、心が大きく動いた瞬間は、自らの公認会計士としての知識・国税での実務経験などの「財務捜査官」としての専門性を活かして不正を発見し、新聞の一面トップに掲載されるような社会的反響の大きい事件を検挙でき、「世の中のためになった」と実感できる結果が出た時です。
その中でも特に印象に残っている事件は、上場会社(建設会社)による粉飾決算事件[商法違反(違法配当)、証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)]です。
この事件捜査の入り口は、マンション建設を得意とする上場して間もない建設会社の従業員が会社から多額の資金を横領しているという相談が警察署にあったことでした。
相談段階での工事部責任者(『工事部長』)からの話によると、経理担当課長による数億円規模の横領事件という趣旨でした。
工事部長の話からは、
① 上場会社における経理担当課長単独の不正行為としてはあまりにも多額であったこと
② 横領された資金の種類も通常資金とは別管理となっていたこと
③ 経理担当課長に権限が集中していたこと
などの不審点が感じられ、公認会計士として私は、これは単純な横領事件ではなく、上場会社による会計不正が存在している事案だと直感しました。
そこで、工事部長に詳細を確認すると、①協力会社などに依頼して「裏金」を捻出していたこと、②「裏金」の捻出を経理担当課長に任せていたことなどの不正経理が判明するとともに、さらに、③建設会社の業績向上のために「工事進行基準」を悪用して前倒しで工事原価を計上する「粉飾決算」を行っていたことがわかりました。
この事件は、公認会計士として早期に「粉飾決算」容疑に着目し、内偵捜査を開始したことが功を奏した事件であり、隠れた企業犯罪を暴くことができて「警察に入ってよかった」と思えた事件の一つです。
この事件の後も、警察では、市議会議長らによる贈収賄事件、国会議員による公設秘書給与詐欺事件、上場企業の役員による関係会社に対する多額不正融資事件、外国公務員贈賄事件、地元著名企業による融資詐欺事件などの社会的反響の大きな事件で財務捜査などに携わり、解明・検挙できました。
いずれも社会的反響の大きい会計不正が背景にある事件で、「財務捜査官」としての知識・経験がなければ警察での立件が困難か重大な支障が生じたと考えられる事件でしたので、他では得がたい経験をさせていただき、「警察に入ってよかった」と感じた事件でした。
06
公認会計士という仕事に関連して深く悩んだこと、それをどのように乗り越えたか
警察の財務捜査の仕事は社会正義のためという崇高な使命があり、仕事の内容もとてもエキサイティングなものであることは間違いありません。しかし、何度か仕事上、自分自身の「公認会計士」という資格に関連して、このままでよいのかと悩んだことがありました。
それはせっかく「公認会計士」という資格があって「専門捜査員」である財務捜査官として特別採用されたのに一般警察官と同じような業務を任され、日常業務では、公認会計士としての専門性を活かした活躍の機会がないことに「焦り」を感じたことでした。
というのは、警察組織はとても大きな組織で、「犯罪捜査」だけでもとても幅が広い仕事であるうえ、犯罪捜査以外にもたくさんの業務があります。したがって、「財務捜査」は警察業務の中では特殊な業務に過ぎず、まずは一般の警察官と同じことを求められ、一般の警察官と同じようなキャリアパスを歩むことを求められたからでした。
そうした中で、悩みながらも現在まで仕事を続けてこられた理由は次の3つのことがあったからです。
一つ目は、警察での捜査はとてもやりがいがある面白い仕事だったからです。
まず、捜査では、被疑者も被害者もどちらも「人」を相手にするため、「人の人生」に深く入り込むので、刑事ドラマのような場面も多く、また、一つ一つの事件の奥が深いことから、これを経験することで自分自身の成長につながったからです。そして、じっくりと「人」に向き合える犯罪捜査の仕事は私自身の肌に合い、面白いと感じることができたからです。
また、捜査は犯罪を摘発する「社会正義の実現」にかかわるものであったことも大きく、悪い人をやっつけるという警察の仕事は、「社会のためになっている」という実感が持ちやすかったことが大きいと思います。このため、仕事の大半は「財務捜査」でなかったとしても、捜査全般は公認会計士の使命と通じるところがあり、「公正な社会の実現」とつながっており、そこにやりがいがあったからです。
二つ目は、警察の様々な部署で上司、同僚など周りの人に恵まれ、よい人との出会いで自分自身を成長させてもらえたからです。また、警察では定期異動があり、部署がかわるたびに、さまざまな人との「出会い」があり、「人間の幅」を広げることができたからです。さらに言えば、警察は研修の機会も多く、さまざまな分野の人と交流する機会をいただき「捜査幹部」としてのやりがいを感じることができたからです。
三つ目は、前述したように数は少ないものの何度か「財務捜査官」としてやりがいを感じることができた大型経済事件や社会的反響の大きい事件に携わることができたからです。粉飾決算の事件はもちろん、上場企業における公認会計士の監査そのものが問題となる事件も担当することができました。特にある事件では、公認会計士や会計監査制度の根幹に関わる事件を検挙できましたし、外国公務員贈賄罪の事件の糸口を発見することができました。これらの事件は私のような財務捜査官が独自の着眼点で事件解決の糸口を発見し、その専門性を発揮した財務捜査をしなければ検挙できなかった事件でした。こうした事件を検挙したことで、組織の中で自分自身の存在意義を確認することができました。
つまり、犯罪捜査というのは、お金では計れない価値がある仕事であり「治安を守る」という「社会正義の実現」に直結する仕事で、何年かに一度であっても公認会計士としての自分にしかできないような価値がある仕事ができたことが今も仕事を続けている理由になっています。
07
人生の目的と公認会計士という資格
私にとっての人生の目的は、仕事を通じて社会に貢献することです。言い換えれば、「世の中のためになる仕事がしたい」ということであり、その中で大義とするところは、「公正な社会を実現させること」です。
健全な経済の発展のためには、「不公平なことをする人」「ずるいことをしてお金を儲ける人」などの不正を許してはいけません。特に、「会計」「会社」などの専門的知識を悪用して、犯罪を行う人たちを許すことはできません。
公認会計士の業務は独立した立場で公正性が求められ、会社等の公正な事業活動を担保することがその使命の一つです。私自身が公認会計士という資格を取った理由も前に述べた「公正な社会の実現」というところにあり、金儲けのためではありませんでした。
私は学生時代には、「公認会計士」に合格して会計監査の仕事をすることや独立開業することに憧れて勉強を始めたのですが、資格を取得して高給を求めるというよりも、むしろ、社会に役立ち、自らのスキルを磨けるという面に魅力を感じていたほか、当時、自分自身は組織で働くことに向いていないという思いがあったからでした。
学生時代には「警察」にお世話になるようなこともなく、まったく自分には縁がないものと考えておりましたし、人の人生を左右するような刑事事件の裁判に絡むような仕事は責任が重いのでとても無理だと考えており、まさか自分が「警察官」という職業につくとは思ってもみませんでした。
そんな私が、今、不思議な縁で警察という大きな組織で働いています。
考えてみると、今働いている県警で1999年に「財務捜査官」という採用試験が行われなければ警察に入ることはなく、「公認会計士」という資格がなければ、私が一般の警察官採用試験を受けることはありませんでした。そういう意味では、「公認会計士」という資格取得が新たな仕事のチャンスを与えてくれ、私の人生を大きく変えたものであると言えます。
結果的に、今の「財務捜査官」という仕事は、「公正な社会の実現」という自分自身の人生の目的達成に直結しており、やりがいのある仕事だと感じています。
公認会計士の試験は、試験科目もたくさんあり、単に簿記などの計算ができるかどうかだけではなく、「会計・監査」という専門知識を身につけているかどうか、経済、経営や法律といった総合的な目で企業のことを見ることができるかどうかという試験だと思います。
公認会計士には「国民経済の健全な育成」という重大な使命があり、公認会計士としての業務は、そのとても公共性の高い、やりがいのある仕事です。また、公認会計士という資格そのものに公正性への信頼があると言えます。
その意味では、財務捜査官に限らず、公務員のような公的な部門でも、もっと公認会計士の方が活躍の場を広げていただけるとよいと思っています。
公認会計士の資格は、人生の可能性を大きく広げるもので、さまざまな分野で活用できるものと言え、人生を大きく変えるものになるはずです。

08
これから成し遂げたい事、将来の夢
これから成し遂げたい事は、これまでの経験を活かして、引き続き、会社等の不正が起こらないような「公正な社会を実現」するための活動をすることです。
現在考えている具体的な活動は4つあります。
一つ目が、警察組織の「財務捜査力」を向上させ、警察組織全体として「財務捜査」が必要な経済的不正事件を一件でも多く検挙することです。財務捜査が必要とされる経済的不正事件等は手口が巧妙化しています。社会の構造変化に伴い、贈収賄事件を含めた企業犯罪や財政を巡る不正事件は今も多数発生していますが、検挙に至らないだけで、多数の事件がより潜在化していると考えられます。こうした中、「財務捜査」を元にした経済的不正事案を摘発することが重要となっています。
一方で、捜査全般においても「財務捜査」の重要性が高まっています。これまでの経験を踏まえて、研修等を通じて捜査員一人一人の財務捜査力を向上させることで、警察組織全体の捜査力を高める指導・育成に力を注いでいきたいと考えています。組織全体の人的基盤の整備により「財務捜査」の方法だけでなく、その精神を浸透させたいのです。
さらに、警察組織内での自分の役割を考え、今後は現場で自分自身が専門性を活かして捜査するというよりも「財務」「公認会計士」という観点から「公会計」の考え方も含めて人事・企画を含めた組織管理的な業務にも参画したいと考えています。
二つ目以降は、警察を定年退職した以降にできたらと考えている事になります。
二つ目は、不正防止や不正調査等の方法を研究する活動をすることです。これまで経験した税務調査での不正事例や警察での経済的不正事件等の捜査経験等を活かして、不正調査や不正防止の仕事もしたいと考えています。昨年公認不正検査士(CFE)の資格も取得しましたので、企業の不正対応や不正防止に関する業務に携わっていきたいと考えています。
三つ目は、これまでの「会計不正」に関する事件捜査の経験を活かして監査や会社の役員の仕事を行いたいと考えています。いまだやったことのない監査法人で監査の仕事は機会があれば一度はやってみたいと思っています。また、社外取締役や社外監査役等としての勤務も経験してみたいです。生の上場企業の現場がどうなっているか知り、実際の企業において直接的に会計不正を含めた業務をしたいと考えています。あわせて公会計など地方公共団体や各種団体の公的部門の会計や監査についても興味があり、担当してみたいと思っています。
四つ目は、会計に関する教育・研修活動です。現在は「財務捜査」に関する研修の仕事を行っており、大きなやりがいを感じています。現在担当している警察組織での職場研修だけでなく、公認会計士向けの研修や大学や企業等でも「財務」「企業不正」に関係する教育・研修を行いたいです。論文や書籍の執筆も行いたいと考えています。
私の人生の目的である「公正な社会の実現」のために、まずは、現在の警察組織において「財務捜査」が発展するための研修や後任者の育成という形で貢献したいと考えています。そのうえで、警察組織を変えていけるような業務につけたらと考えています。
また、警察外部に目を向けて、大学や企業対象の研修等で経済的不正の防止に役立つ講義・研修を担当させてもらうなどして、大会社の監査役・顧問、コンサルタントなどとしてコンプライアンスに強い企業を作ること、政策実現のための活動を行っていきたいです。
財務・会計・監査の力を使えば、警察の捜査力はまだ大きく向上できますし、企業はもちろん官庁等の不正を減少させることができるはずです。これまでの国税・警察での経験を活かして、『不正を追及』するとともに、『不正が起きにくい社会』作りの活動をしていきたいと考えています。

09
キャリアを模索する会計士、会計士受験生へのアドバイス
私が公認会計士試験に合格した約25年前は、日本が世界有数の経済大国でバブル経済に浮かれていた時代で、スマートフォンやインターネットすらない時代でした。しかし、現在は、低成長が続き景気は低迷する一方、SNSや仮想通貨があたりまえになり、小学生がスマートフォンを使い、AIの技術が活用される時代になり、新型コロナウイルスの流行で働き方、生活様式も大きく変化しつつあります。
時代の変化が一層激しくなり、会計士という職業将来性も不透明なものとなっており、資格を取ったもののキャリアを模索する方も多くなっていると思います。
約25年前は公認会計士試験に合格すると監査法人に入る方がほとんどで、「監査」の仕事以外にあまり選択の余地はありませんでした。しかし、最近は、組織内会計士を含め資格取得後にさまざまなキャリアを積む方が増えています。
私は、これからも会計士を目指すことは、「人生を豊かにするもの」ではないかと考えます。公認会計士の資格は、「会計の専門家」という自分の強みを持つことで自分自身の人生の可能性を広げるものだと思うからです。
私自身のことを少しお話ししますと、私自身は財務捜査研修センターに勤務するようになった一昨年まで「会計士」ということはまったく意識しないようにして警察官として仕事を行ってきました。しかし、現在の職場で助教授として研修を担当するようになって会計士を名乗り仕事をしてみることにしました。
会計士ということを外部に名乗ることで、自らのアイデンティティとして会計士としての自覚を持つことができるようになり、組織内会計士などのネットワークにも参加して視野を広くもつことができるようになりました。
もちろん会計士という肩書きそのものが大事なわけではありません。しかし、監査など専門的な分野でなくても、「会計士」としての専門知識や有資格者としての信頼感を活かせるだろうと感じています。
会計・監査という専門知識・経験の上で、さまざまなフィールドにチャレンジすればよいのではないでしょうか。どのようなキャリアを積むかはその人個人の資質ややりたいことによるでしょう。
私が思うのは、会計士としての資格があることで、監査以外にもさまざまなキャリアを積むことができる可能性が広がるという意味で、人生が豊かになるということです。
キャリアを模索する会計士、会計士受験生の方には財務捜査官という仕事も選択肢の一つです。もし、正義感が強く、社会の公正実現のための仕事がしたいのであれば、法の執行者である警察組織の一員として悪と戦う財務捜査官の仕事はおすすめできる仕事です。公務員の仕事は「国民(県民)のため」という、お金では得られない「やりがい」を感じられる仕事です。特に警察の仕事は「悪い人を捕まえて、安全・安心を守る」というシンプルで公共性の高い仕事ですから、やりがいが実感できる仕事だと思います。
財務捜査官になるための具体的なアクションとしては、まずは公認会計士試験に合格した上で、監査法人などで一定の実務経験を積み、財務捜査官採用試験に合格することです。また、「財務捜査官」は警察官として採用されますので、健康で一定の体力が採用条件となりますので、一般的な基礎体力づくりが必要です。
さらに、事件捜査の現場では、人には言えないような厳しい場面に遭遇することもありますので何事にもへこたれない強い精神力を有することも大切です。
また、事件捜査では「人」が対象となり、「人」と接することが多い仕事なので、コミュニケーション能力が求められることになります。
一人でも多くの会計士や会計士試験を勉強している受験生が、将来、「財務捜査官」に応募していただき、財務捜査官試験に合格後は一緒に同じ財務捜査官として仕事ができればと思います。また、財務捜査官にならなくても、無事に公認会計士試験に合格した後は、皆様が社会正義の実現に向けて活躍していただくことを楽しみにしております。
※なお、愛知県警で20年ぶりに募集をしている財務捜査官は私のように財務捜査以外の仕事に従事することは基本的にないとのことです。


