会計士の履歴書
荒堀 敬子

株式会社ユーザベース

常勤監査役

荒堀 敬子

あらほり のりこ

若手女性監査役として業務改善に取り組む。取締役や従業員と信頼関係を築くコミュニケーション力が何よりも大切

1980年9月18日生まれ(46歳) 京都府出身 東京都在住

同志社大学 商学部商学科 卒業

荒堀 敬子

01

キャリアサマリー

【中学・高校】

自由な校風の中高一貫校に進学、大学受験がない事を良い事に、文化祭や趣味の舞台鑑賞等に明け暮れる。アーチェリークラブという校内一緩い体育会系だったため、規律や上下関係に疎いまま大学に進学。

【大学時代】

認定NPO法人で営業(寄付金集め)やイベント企画、大学を休学し東京に単身出て、インターネットリサーチ会社でインターンシップを行った。当時、両親から勉強に集中するという名目でバイトは禁止されていたため、インターンシップにあたっては親から勘当され、「留年せずに卒業する事」の念書を書かされた。

【会計士を目指したきっかけ】

インターンシップで、同じ大学生でもマクロを組んだり、統計を設計できる人と、データのバリデーション作業をする底辺の人に分かれている事に愕然とする(当然、自分は後者)。また、会社に連日徹夜&寝袋で寝泊りするほどは頑張れない自分に気づき、何かしらの専門性がないと社会で生き残れない(十分に食べていけない)という切迫感から会計士を目指す。

02

監査法人における経験およびその後のキャリア選択のきっかけ

監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)の国内部門で、会社が提出する数字の適切さを確かめたり、会社のルールが正しく働いているかを確かめたりした。監査法人に入って得られた事は2つ。①論理的な思考プロセス、②複数業界のビジネスを知れた事である。

①について、監査という仕事は、警察がアリバイを固めて犯人を特定するような感じで、証拠を積み上げて数字が適切かどうかを立証する仕事なので一定の論理的思考は身につく。②について、例えば、医薬品業界だと、特許の有効期限や、次の特許を生む研究開発が事業の鍵になるし、住宅業界だと単価の高いモノを売るため、営業力が非常に重要になってくる。一方で、小売業界だと、売れそうなトレンドをつかんで仕入先と早く提携する事・商品開発が大事だったり、外食業界だと、店舗展開・撤退の決断、メニューや接客等の小さな改善で業績が変わったりする等、業種業界によって雰囲気も違えば影響力のある部署も違う等、何が大事なのかについて多様な観点がある事を知れた。

一方で、監査法人だと過去の情報を社外から見ているだけで面白くないと思い事業会社に転職。その後、結婚、旦那についてアメリカに行き、単身帰国・出産、1年ほどは子育てに集中。アジア展開をアドバイスするコンサルティング会社を経て、今の会社の監査役に就任した(監査役は、取締役が投資家から集めたお金を、事業の発展のために使っているかどうかを監督する役割)。

今は監査役として監査法人と話す事もしばしばある。今の役割になって、監査法人と会社との”信頼関係”が本当に大事だな、という事を改めて思った。いくら数字を直さないといけない部分を監査法人が見つけても、会社がそれを直さずに会社の数字を公開しようとする場合には、会社と監査法人とで熱い意見交換が必要になってくる。ロジックには限界があって、同じ事象でも何が正しいかは立場の違いから景色が変わってくる。監査法人が「この数字を信用しても大丈夫ですよ」という意見を出すには、もちろん証拠を積み上げるプロセスも大事だけど、それよりも会社のトップと監査法人のトップの信頼関係による部分が大きいと改めて感じた。

監査法人が会社を信頼できるのか、そして「この社長の言っている事は正しいので信頼しても大丈夫!」と言うか言わないかで、お金をその会社に投資している人だけでなく、会社の未来、従業員の未来までも変えてしまう。大きな意味では良い信頼関係を築く事が監査法人の仕事だし、醍醐味だな、という事が監査法人を卒業してから分かった。

荒堀 敬子さん

03

今現在の仕事の内容、特徴、キャリアパス

現在はマザーズ上場の会社で、上場前から常勤の社外監査役を務めている。会計(お金)周りは、トーマツが監査しているので、業務周りの監査を主に実施している。仕事内容は、取締役会や経営会議に出て、会社の重要な決定事項を把握して異議や懸念点があれば伝える事、あとは社内の事業部を内部監査メンバーと一緒にヒアリングに同席して業務上の問題を把握すること。海外拠点が4つほどあるので、1年に1回は各拠点に行って拠点長の話をきいている。また、各事業部の執行役員と話して事業上の懸念点をきいたり、監査で確認して欲しいと要望をもらって実施したりすることもある。改善すべき事項について取締役と話して認識をあわせて、改善に着手してもらったりしている。

“Audit(監査)”の語源の“Audi”は聴くということにどまらず、知って認識して理解するという意味があるらしい。Audit(監査)というのは、相手の話に耳を傾けて、おかれている状況や本人の認識を理解して、そこに改善すべき事柄があれば一緒に改善案を考えたり、指導して改善するように仕向けたりする仕事だと思う。役割上、執行できないので、実務をせずに聴いて理解する事だけを仕事にしているが、こんな仕事は他に神父くらいしか無いのではないかと思う。

この業務に就いて、2018年夏で丸3年。大事な事は取締役・執行役員はじめ従業員との信頼関係を築くことだと思っている。正しい指摘でダメ出しをして終わることは簡単だし、嫌われないように何も言わないことも簡単だけど、それだと、投資家の期待だけでなく、比較的若い女性を監査役に配置した会社の期待を裏切る事になるので、「自分の景色(意見の背景・理由)について説明をつくせば相手は分かってくれる」という信頼関係が維持されるように心を配っている。

キャリアパスとしては、会社を引いて見る仕事をしているので、培われたその力を生かして、他社の役員や顧問を引き受けたり上場支援会社のコンサル等は出来るかもしれない。今は、まだその余裕がないけれど。あとは、前任の監査役は社内の執行役員になって活躍しているし、他社の監査役仲間は、独立したり事業会社の経理に入ったりしている。色々な選択肢があるかなと思っている。

04

あなた独自の強みと今現在の仕事との関係性

①目標志向

ヒトよりもコト(目標)に集中する事は、監査という目に見えない業務を全うする上で、自分の強みだと思う。目の前の人に厳しい内容を伝える役割にいるので、目の前のヒトの心情や事情に配慮していると、本来達成したかったコトへの優先順位が下がって、結果として、改善が必要な事が放置される事になる。達成すべきコトに集中してしまう性格は、監査役という仕事を行う上では強みに変換できていると思う。

②コミュニケーション

人と話すこと、難しいことを分かりやすく説明することは、たくさんの人が興味関心を持つことが難しい“リスク”や“管理”といった、専門外の人からしたら耳をふさぎたくなるような事について、分かってもらうためにコミュニケーションをとることを厭わない事は、強みが生きている。また、単に一方通行の説明ではなく、「こういう状態だったらいいよね」というアイデアに命を吹き込んで、実行に持っていくためにもコミュニケーション能力は生かせている(と信じたい)。

③達成欲

“リスク”や“管理”というのは、問題があっても、すぐに対処しないといけないものでない事が多い。そのために、「やらないといけないけど、できてない」という、夏休みの宿題を抱えた子ども状態の事案がたくさん出てくる。ただ私は、約束された事を守ることとやり切る事については、(状況が変わらない限り)強いこだわりをもっていて、しっかりフォローアップする。2年以上追いかけて、同じ事を司教の布教活動のように言い続ける事について、さほど負担に思わないという強みは業務に生かせている。

荒堀 敬子さん

05

仕事をしている中で、心が大きく動いた瞬間

マザーズ上場審査が通った時。証券市場に船出するのに必要な社内の体制が整っていない部分があり、審査の過程で体制の再整備が必要だった。一般の投資家を守るという役割で会社にいるので、「年金で暮らしているおじいちゃん、おばあちゃんのお金を安心して株式投資に使えるよう、会社に信用を与えるにはどうしたら良いのか?まだ体制的に早熟なんじゃないのか」という気持ちと、「今いる会社は人も良くて好きだし、今後も成長して欲しいので早く証券市場に船出してほしい」という気持ちがずっと葛藤していて、その緊張感から解放された時に「本当に監査をやりきって良かった」と思えた。普段は、上記ほど大きな変化はないけれども、改善を促した事項が良くなっている時は、やりがいを感じる。

06

公認会計士という仕事に関連して深く悩んだこと、それをどのように乗り越えたか

監査法人時代は、過去の数字だけみていて、未来を作っていけていないのではないか、という悩みをずっと持っていた。

「過去の数字の端数をどれだけ正しく修正したところで、未来と関係ないんじゃないだろうか!?」と。
でも、過去の数字を見ることが会計士の仕事ではなく(仕事の一部ではあるけれど)、会社の数字をコミュニケーションツールとして、投資家と会社の信頼関係を結ぶ事が本質的な仕事であり、その信頼関係あってこそ、会社も投資家も未来に投資できるだと気づいた事で、悩みは解消された。

07

人生の目的と公認会計士という資格

もともと、自分が会計士試験の資格を取ったのは、”社会で食いっぱぐれないように生きていけるようにする。結婚・出産でキャリアが止まっても、離婚・死別しても子どもに食べさせられるようにする”という、超ネガティブ目的で取得した資格だった。ポジティブな人生の目的があって会計士という資格を取得したわけではなく、セーフティネットとしての資格取得だったので、あまり公認会計士が何の仕事をしているのか分かっていなかった(父親が会計士にも関わらず)。

「じゃあ現時点でどうなのか。人生の目的と会計士という資格につながりはないのか?」という問いに答えるとすれば、会計士の資格のおかげで、今の職に就いたので感謝している。ただ、無理やり人生の目的と資格は結び付けなくてもいいと思っている。頑張ってとった資格だから、何かしらそこに意義を見出したい気持ちは分かるけど。決算書類を読むだけなら会計士の資格はいらないし、むしろ銀行や証券会社に行った方が、数多くの会社の決算を分析するのではないかと思う。会計士を推奨する企画という観点でいえば、現時点で人生の目的がないなら、セーフティネットとして公務員よりも自由な働き方が出来る公認会計士をお勧めする。

荒堀 敬子さん

08

これから成し遂げたい事、将来の夢

①性善説下の監査を組み立てること

監査は、「悪さをしていないか」という視点で物事をみるので、性悪説的な観点で組み立てられている仕事。でも、実際の問題は、悪気のない単なる無知だったりすることが多いと思う。性善説な価値観を経営の土台にしている会社では監査はなかなか相いれないし、性善説な人が多いと思うので、従来の“監査”視点は一般的に受け入れられにくいのかなと思う。

一方で、組織が健全に動いているかをチェックする機能は誰にとっても大事なので、どうやって“無知による罪”になりそうな状態をつかまえる事が出来るのか、特に海外拠点で現地に経営をゆだねている場合や、組織が未成熟な場合など、それぞれの文化背景や成長段階の場合に、どういった点を見ていけば問題に早く気付けるのかをちゃんと整理したい。

②“監査”のネガティブイメージの払しょく

監査が社会制度として必要とされている事は頭でわかっていたとしても、「なんか悪いことしているでしょ?!」という視点で、見られるのは誰でも嫌だと思う。そういうところが監査のネガティブイメージの根源かな、と思っている。もちろん悪意をもった人がいる場合には、性悪的観点が大事なのだけれど。

大体、問題が起きそうな部署や人は、雰囲気が悪かったり、情報の流れが滞っていたりと、何かしら状態が悪い。まるで、病気にかかっているヒトの体の一部分のようなもの。監査でそういった問題の芽を摘み取る意味は、会社の健康状態を“不快な部分がある状態”から“快い状態”に持っていく事だと思っている。

これからは「悪いことしてない?」ではなく「どこか具合は悪くない?」という視点で、みんなの役にたてるようになれば、もう少し監査に対するイメージも変わってくると思うので、地道にネガティブイメージをポジティブに持っていきたい。

荒堀 敬子さん

09

キャリアを模索する会計士、会計士受験生へのアドバイス

①自分の感情が動いた経験を30個位だして、“好き”と“嫌い”に直観で仕分けする。
②“快”に仕分けされた事象について、なぜ“好き”に分類したのか、その理由を3段階位、深堀りする。
③深堀りされた“好き”に対して、共通項を探す。
④“好き”な事に対してワガママになってみる。そして、理想の状態を妄想する。
⑤やらないといけないかもしれないが“嫌い”な事をやらなかった場合に起こる最悪の事象を考える。
⑥最悪の事象に、本当に耐えられないのかをシュミレーション、耐えられるレベルまで“嫌い”な事を回避する。

(具体例)
①経理で伝票処理の仕事は嫌いだけど、予算実績を分析したり経営目標の管理をしたりするのは好き。
②好きなのは、事業部側の人と経営目標等について話をすることが楽しいから。
③現場の人と話をして、事業を良くしていくことが楽しい。
④数字を見ながらアドバイスする事だけを仕事にしたい。
⑤業務の大半を占める伝票処理の仕事をやらなかった場合、給与が支払われず6カ月しか生き残れない。
⑥独身なので、月収25万あればなんとかなる。独立しても非常勤で日当5万を稼げば5日働けば足りる。そうした場合、残り15営業日は、数字を見ながらアドバイスするだけで生計を立てるための準備にあてられるのではないか。

上記のステップ②で、その人の個性が出てくると思うので、好きな理由の掘り下げこそが重要!例えば分析が好きといっても、グラフを作るが好きだったり(専門的な事が好き)、業績を俯瞰できるから好きだったり(人は絡まず仕組みが好き)、資料を経営者に説明して頼りにされるのが好きだったり(自分が中心になる事が好き)、いろいろな好きがあって、それこそが人それぞれの強みの源泉だと思うから。

ポイントは、自分の“好き”に、ちゃーんと向き合って、感情に素直になる勇気!人からの期待とかは気にしない事。