会計士の履歴書
赤澤 栄信

デジタルアーツ株式会社

管理部 取締役 兼 管理部長

赤澤 栄信

あかざわ ひでのぶ

ラグビー部の副将・主将経験で“リーダーシップ”の基礎を学び、事業会社の中枢で如何なく発揮するリーダータイプの会計士

1975年9月12日生まれ(51歳) 大阪府出身 千葉県在住

神戸大学 経営学部 卒業

赤澤 栄信

01

キャリアサマリー

1999

日本生命保険相互会社営業人事部に入社。会計士試験受験のため退職。

2004

新日本有限責任監査法人大阪事務所に入所し10年間勤務。法定監査業務やIPO支援業務に従事。マネージャー。

2014

デジタルアーツ株式会社取締役管理部長に就任。経理・税務・財務、法務、広報等のマネジメントを担当するかたわら、IR業務を担当。親会社の取締役として経営に参画しながら、国内外の子会社の役員も兼務する。グローバルに管理業務を担う。

02

監査法人における経験およびその後のキャリア選択のきっかけ

会計士二次試験に合格した後は、新日本監査法人の大阪事務所に入所した。地区事務所ということで、大・中・小様々な規模のクライアントが混在していて良い経験になった。大阪事務所には当時500~600名の会計士が在籍しており、東京事務所と比べると10分の1程度の規模しかなかった。東京なら部門に分かれて専門的に業務を行うのが一般的なのかもしれないが、大阪ではオールラウンドにあれもこれも担当しなければならなかった。

ただ、何でも幅広くやれて早く経験を積むことができる大阪事務所の環境は、自分にとってはむしろ歓迎すべきものだった。実際、監査をこなしながら、3社のIPOとデューデリジェンスやショートレビューも経験できた。大阪事務所に入って良かったと思う一方で、会計士試験に合格した当時、独立性の問題でクライアントに提供できるサービスに制約がかかり始めた頃だったので、もう少し早く監査法人に入っていたらもっとやれたのにという思いもあった。

私が多くの経験を積むことにこだわっていた理由は、CFOを目指していたからだ。監査法人で将来の業務に活かせる経験をたくさんして、早く転職したいと考えていた。CFOになるために、新卒で入った事業会社を退社して会計士試験に挑戦して、監査法人に入った。紆余曲折があったので、転職を焦る気持ちがあったのかもしれない。いずれにせよ将来的には上場企業のCFOになることが目標で、監査法人は生涯を通して働く場所ではないとつねづね考えていた。

転職の機会を狙っていたがチャンスは訪れず、気付けば監査法人に9年半在籍してマネージャーになっていた。監査法人ではそれなりに高い評価を受けていたが、「長く身を置きすぎて転職の機会を逃してしまった。監査法人からCFOに行くキャリアパスの実現は難しいのではないか」という不安もあった。

それでも夢は諦められなかった。CFOになるためには監査法人の経験だけでは足りないのだろうか。自分に足りないものは何なのか。色々な転職エージェントの人に会い、必要なものは何なのか聞かせていただいたりもした。CFOに半歩でも近づけるなら、努力は惜しまなかった。その成果が現れたのか、CFOのポストに空きが出たからと声をかけていただき、念願だったCFOに転職することができた。やっと夢を実現することができた自分の幸運を喜ぶとともに、力を貸して助言してくださった方々に感謝の思いがこみ上げてきた。

赤澤 栄信さん

03

今現在の仕事の内容、特徴、キャリアパス

デジタルアーツ株式会社の取締役管理部長を任されている。デジタルアーツは、インターネット社会に必要なセキュリティサービスを提供している会社で、2013年に東証一部に上場している。2014年に自分が入社したときは、すでに東証一部上場企業になった後だった。

CFOの仕事内容は、会計機能はもちろんのこと、法務、広報、情報システム、マネジメントの統括など幅広い。会計機能でいうと、社内で会計・税務・財務分野に関して難易度の高い処理が発生したときにその質問に対応することが主な仕事で、監査法人で培った専門性を如何なく発揮できる。転職したときすでに上場していたので上場準備には携わらなかったが、ちょうど海外展開を進めているときだったので、海外子会社含めたグローバルでの管理体制の構築・会計知識の面で役に立てると感じた。

また、当社は上場企業ということで、おかげさまで優良な株主様に株式を持っていただいている。安定的に株主でいてもらうことはもちろん、新しく株主になってもらえるようにIR活動をすることもCFOの重要な業務だと考えている。株主様や投資家の方たちと実際にお会いして会社を知っていただけるように、IR活動に尽力している。

CFOの仕事というと経理や財務など管理的な仕事を想像するかもしれないが、CEOやCOOがやる仕事以外は、すべてCFOの仕事だと考えている。社長がやりたいと思った事があれば、会計的な観点を軸とした資料等を示しながら説明したり実現に向けてサポートしたりする。会社の中で起きたことは全部拾うという意識が、CFOには必要だと思っている。

04

あなた独自の強みと今現在の仕事との関係性

世の中に会計士が増えているが、自己完結型の会計士が多いような気がしてならない。

私の場合は、監査法人に入る前に日本生命の人事部にいたのだが、人が成果を左右する会社だったこともあり、とても人を大切にする会社だった。また日本生命で、組織の中でやりたいことを実現するにはどうしたらよいのかということも学んだ。学生時代は中学から大学までラグビー一筋で、中学時代は副主将、高校・大学・社会人は主将を歴任していたことから、チームを強くするためにはチームメンバーとコミュニケーションを取り、人を上手く活かさなければならないということも学んだ。

会計士という強みもあるが、学生時代や日本生命時代に培ったコミュニケーション能力は、特に自分の強みになっている。日本生命で覚えた“根回し”は、今の仕事でも大いに役に立っている。 “根回し”と聞くとマイナスなイメージで捉える人が多いが、監査法人でも事業会社でも規模が大きくなればなるほど、関係する人達に事前に伝えておくのは大切なことだ。こういった配慮ができずに自己完結で仕事をしているようでは、組織の中で自分の意見を通すこともできないし成果を上げることもできない。今の仕事で周りの人を上手く巻き込みながら成果を出すことができているのは、この強みがあるおかげだと思っている。

赤澤 栄信さん

05

仕事をしている中で、心が大きく動いた瞬間

日本生命にいたときは常に一体感を感じながら仕事ができて、心が動く瞬間が多かった。日本生命に入ってくる人は背景が似たような人が多く、社風も官僚的といってはなんだが、企業文化がとても強い。良い意味でも悪い意味でも一体感がある。そういうところは、長年続けていたラグビー部と似ていたのかもしれない。日本生命は大好きな会社だったので、周りはともかく自分自身ですら辞めるとは思っていなかった。辞めた理由も、日本生命が好きすぎて、会社をもっと良くしたいのに今の自分ではできないと思ったからだった。

日本生命と比べると監査法人は真逆の集団だ。監査をするプロフェッショナル集団にいる精鋭という点や、会計士の資格があるという点は共通しているが、それ以外は実にいろんな人が集まる。日替わりチームで仕事をする集合体で一枚岩という感じではない。

そんな中でも、チームで協力しながら監査をやり遂げたときに、達成感を通じて一体感を感じられることがある。監査法人にいたときに心が大きく動く瞬間だった。常にというわけではなかったが、必死になって取り組んで結果を出したときに、一つにまとまったと感じることがあった。

06

公認会計士という仕事に関連して深く悩んだこと、それをどのように乗り越えたか

公認会計士はCFOになるためのキャリアパスという意味もあったが、会計のプロとしての憧れもあった。

しかし監査法人で働いて分かったのだが、会計に詳しいのは会計士だけではなかった。上場企業の経理ともなれば、頭のいい人が大勢いる。しかも、彼らは自分の仕事に関係する会計基準をより深く勉強して能力を高めている。彼らの専門領域で会計中心に議論しても圧倒することはできないので、会計だけで会計士のバリューを出すことは難しいと感じていた。ひと昔前なら、監査法人しか知らない情報やノウハウがあってそこでバリューが出せたが、今はインターネットなど情報が氾濫しているのでなおさらだ。

会計士とクライアントの情報に差がない時代に、会計士としてバリューを生むにはどうすればよいのか悩む日々が続いた。監査は会計士の独占業務だが、資格があるだけで一朝一夕に上手くやれるわけはなく、何よりも真実をつかむことが監査の最大のキモになる。「この人に本当のことを打ち明けたらメリットがある」と思って本当のことを話してくれないと、監査は成功しない。

特に、仕事など責任を問われる場面で話をすると、人はどうしても自分に有利になるように話を誘導するので、真実ではないことも混ざっている。そこのところを「この人に本当のことを話しても悪いようにはしないから、偽りなく話そう」と思ってもらう必要がある。そのためには、一個一個の相談に真摯に取り組んで、相手の信頼を勝ち取っていくことが何より大切だ。一つでも間違えるとクライアントの信用を失うので、間違えないように努力を重ねているうちに、クライアントから「赤澤さんには話してもいい」と思ってもらえるようになる。本当のところを話してもらい相談してもらえるようになったときが、会計士としてのバリューを出せるようになったと感じられる瞬間だ。

07

人生の目的と公認会計士という資格

実は、小学生時代はテレビゲームばかりやっていた。かなりやり込んでいたので、あまり話したこともない学友から、「クリアできないゲームがあるのだがゲームのやり方を教えてくれ」と頼まれるほどの腕前だった。幼少期は引っ越しが多かったので、ゲームを通じて友達ができる良さはあったが、このままじゃだめだと思った。

それで中学に入ったら何かしなければと考えていたところに、たまたま顧問だった先生から声をかけていただいたこともあって、中学からラグビーを始めた。中学では副主将、高校・大学・社会人では主将を務めたことで、自信が持てるようになった。リーダーシップを発揮して、組織として目的を達成する喜びを知ったからこそ持てた自信だった。チームでリーダーシップを発揮しているうちに、今度はラグビーではなくて、CFOになって社会に影響を与えたいと思うようになっていった。当時は、最高執行責任者(COO)に就任したカルロス・ゴーンが日産を再建させたことがニュースになっていて、CFOを目指したのは彼の影響が大きかった。1人入ってもどうにもならない状況だったのに、1人でやってあのV字回復ができるなんて、ただ事じゃないと思った。CFOは、顧客も従業員も幸せにすることができる仕事なのだということも、このとき知った。

CFOという目的は比較的早い段階で決まったのだが、どうすればなれるのかキャリアパスが分からず、道のりは険しかった。そういう意味では、公認会計士という資格は、CFOになるためには不可欠な要素だった。そして、学生時代はラグビー部での主将経験が自分に自信を与えてくれていたように、現在は公認会計士の資格が自信の源になっている。また会計士という資格を持つ者として、信頼される立場の人間として、曲がったことをしてはいけないと社会的責任を自覚するための拠り所にもなっている。公認会計士というバックボーンがあるからCFOになれたのであり、事業会社に入っても組織をドライブすることができるのだと実感している。

赤澤 栄信さん

08

これから成し遂げたい事、将来の夢

ドラッカーの本で好きな言葉がある。「組織の中に成果は存在しない。全ての成果は組織の外にある」という言葉だ(『ドラッカー名著集1 経営者の条件』ダイヤモンド社)。夢というなら、世の中に影響を与えたくてCFOになりたいと思った学生時代から、今も気持ちは変わらない。CFOとして社会に良い影響を与えられる仕事をすることは、今でも夢で、将来もCFOという仕事を続けていきたいと思っている。

もしこの会社のCFOになっていなくて、どういう業種のCFOになりたいかと聞かれたら、CFOとしての役割が大きく果たせる業種が良いとお答えする。これが良いという特定の業種はないが、CFOとしての役割が大きく果たせる成長企業や、技術やビジネスモデルは十分に競争力があるのにも関わらず一過性の業績不振に陥っている再生中の企業等にチャレンジしたいと考えている。

いずれにせよ、現在も将来もCFOであり続けるために、ファイナンスや会計以外の知識も身に付けながら役目を果たしていきたい。

赤澤 栄信さん

09

キャリアを模索する会計士、会計士受験生へのアドバイス

成功と幸せの違いは何か。

実は、成功はお金や地位の問題で、幸せは心の問題なのだが、この2つを混同している人が多い。お金や地位を得ることができたら幸せになれると思い込んでいる人が多いのである。キャリアを模索するなら、自分がどういったことに幸せを感じる人間なのか知らなければならない。もし、自分のことが分からなければ、本を読んだり映画を見たりしてみると良い。心が動くきっかけとなり、敏感に自分を知ることができる方法だ。繰り返しになるが、目先の年収やポジションに目が行きがちだが、それだけで幸せになれるとは限らない。直観に従って動くことが重要だ。

仮に、何が自分の幸せなのか気付いたとしても、雑音はある。周りに説得されているうちに、自分が進もうとしている道は幸せではないのかもしれないと迷いが生じることもあるだろう。私の場合、CFOになるために会計士を目指すという理由で日本生命を辞めたのだが、そんな理由で辞める人はいなかった。「やめたら地獄に落ちる」とまで言われた。給料が良かったし日本生命に勤めていれば将来安泰だという風潮だったので、上司や仲間からの引き留めは強かった。監査法人をやめる時も引き留めがあった。でも自分の心を知っているのは自分しかいない。いったん気付いたら、雑音に惑わされてはいけない。

自分の心がどうしたいのか何が幸せなのかは、初めからは分からないかもしれない。そういうときは、目の前のことを本気でやってみることだ。自分の場合は、日本生命で死ぬほど頑張ったから、本当にCFOになりたいのだと気付くことができた。本気でやらないと、今の仕事のどこに違和感を持っているのか、本当に自分がやりたいことが何なのかは分からない。

そして、CFOになることが幸せだと気付いたとして、どういうCFOになりたいのか考えたほうがいい。今は日本の中にお金がダブついていて、ひと昔前は見向きもされなかったベンチャーも投資対象になる時代になってきている。そういったベンチャーが、資金集めのためにCFOを募集している案件がたくさんあるが、有象無象ばかりだ。若い会計士がそういったCFO案件に安易に飛びついて、会社とともに潰れてしまうという話も聞く。

CFOを目指すなら、お金や地位で転職先を選ぶのではなく、どういうCFOになりたいのかイメージに色がつくまでよく考えてから実行に移すと良いだろう。会計士として一本筋が通ったキャリアパスを築きたいのなら、まずは今の仕事に本気でぶつかってみて、そこで感じた自分の直観に従って進むべきではないだろうか。