会計士の履歴書
K.I.

PwC税理士法人

移転価格部(TP) シニアマネージャー

K.I.

航空宇宙産業の発展に情熱を燃やす税務プロフェッショナル

1977年5月1日生まれ(49歳) 東京都出身 神奈川県在住

東京工業大学大学院 総合理工学研究科 人間環境システム専攻

K.I.

01

キャリアサマリー

2003

大学院修了後に総合商社(航空宇宙部)に入社

2007

公認会計士を志し、退職

2009

情報通信会社(経理部)に入社

2011

公認会計士試験(論文式)に合格を機に、税理士法人プライスウォーターハウスクーパース(現PwC税理士法人)に入所

2013

航空宇宙専門商社(業務部)に入社

2015

大手監査法人に入所 同年、PwC税理士法人(移転価格部)に復帰し、現在に至る 2020年から2021年にかけてPwC中国出向経験

【公認会計士を志した経緯】

父の仕事の関係で幼少期に南米で生活しており、父によく空港に連れて行ってもらううちに、航空機の魅力に惹かれていった。帰国後、学生時代に米国次期戦闘機選定のニュースを見て戦闘機の設計エンジニアを志し、大学で機械工学(特に航空宇宙材料)の勉強に励んだ。その情熱のまま大学院に進学し宇宙工学を専攻したが、理系大学出身の優秀な同輩との能力の差を実感し、エンジニアの夢には限界を感じた。しかし、それでも大好きな航空宇宙に関わる仕事がしたく、大学院修了後は総合商社の航空宇宙部で社会人としてのスタートを切った。総合商社では、自衛隊や防衛庁に向けた飛行機や部品の輸入などに携わり、業務を通じてビジネスにおける会計や税務の重要さを実感した。そして、会計・税務のプロフェッショナルとしての経験と知識を活かして航空宇宙産業でビジネスを展開することを目標に、公認会計士を志すため、2007年の30歳になる年に退職した。

02

会計士試験受験後のキャリア選択

短答式試験合格後は、情報通信会社の経理部に入社し、主に単体決算業務に従事した。寝る間を惜しんで受験勉強を重ねた末、2011年に論文式試験に合格したことを機に、税理士法人プライスウォーターハウスクーパース(現PwC税理士法人)に入所した。監査法人への入所も考えたが、そもそも監査がやりたくて公認会計士を志したのではなく、ビジネス全体を俯瞰し、マクロの視点や中長期的な視点からクライアントの本質的な課題を聞き出してアドバイスをする移転価格業務の経験を積むことが、その後の航空宇宙産業ビジネスの現場において糧になると考え、税理士法人で経験を積むことを決意した。
PwC税理士法人では、税務申告業務や移転価格コンサルティング業務と並行して監査業務も経験し、多くを学んだ。そこで、ビジネスには様々なファクターがあり、税務以外にも重要なファクターがあると感じるようになった。そもそもクライアントのビジネス上の戦略と税理士法人が考える税務の戦略が合わないと、事業拡大の機会を失ってしまうことにもつながる。そこから、税務以外の知見を高め、ビジネスを俯瞰できる力を身に付けるためにも転職を検討するようになった。
新規ビジネスの計画や立案を行うことを目的として公認会計士を志し、大学院卒業後に最初に就職した総合商社を退職してから5年以上が経過していたが、公認会計士の資格取得と監査、経理、税務のプロフェッショナルとしての一定期間の経験を積むこと、航空宇宙業界のビジネスの現場で経験を積むことのバランス、そして自分が思い描いていたキャリア像との大きなギャップに思い悩んだ結果、航空宇宙専門商社へ転職して経理や財務を含む管理部門での業務を経験することにした。
転職先では、自分が思っていた以上に公認会計士/税理士としての経験が強みとして評価される事実に直面した。残りのキャリアの中でよりギャップを小さくする方向性を模索していた折に、PwC税理士法人退職後もずっと気にかけ、定期的に連絡をくれていた上司と街中で偶然再会した。この再会を機に、「ベストじゃなくても自分に合っているベターな仕事」として移転価格業務の魅力をもう一度見つめ直すことができ、2015年、PwC税理士法人への復帰を決意した。

K.I.さん

03

今現在の仕事の内容、特徴、キャリアパス

現職(PwC税理士法人)移転価格コンサルティンググループでは、何十社もの国内のアウトバウンド企業(日系企業)に対して、移転価格コンサルティング業務を提供している。具体的には、コンプライアンス(移転価格文書化)対応、移転価格ポリシーの策定支援、事前確認(APA)対応、税務調査対応などの業務を行っている。
元々、移転価格は製造業をベースに構築された税務だが、小売業やサービス業など、さまざまな業種がある現在において、制度の型にはめることが難しい分野が増えてきている。また、日本の親会社と海外の子会社について見ても、子会社の利益が増加している要因が、クロスボーダー取引によるものではなく、子会社の努力に起因する場合もある。それでも、日本の税務調査官からは、「なぜ一般に役割・機能の小さい海外子会社でこれほど利益が上がっているのか。本来、日本で計上すべき利益が移転しているのではないか」という視点で調査が行われることもある。そこで、税務の枠組みの中でどう分析し、どうサポートしていくかが私たちの仕事だ。日本でリスクを取るのか、海外でリスクを取るのか、状況を見ながら落としどころを決めていくところに面白さを感じている。
さまざまな会社で働いた経験を通して感じたことだが、ビジネスにおいて取引価格は一定の利益率を確保した上で顧客との間で合意され、子会社を挟む場合はそこに手数料が生じる程度で、税務とは関係なく移転価格が決まってしまうことが非常に多い。そのような状況で、事後的に移転価格の観点からリスクがあると判明しても、既に取引価格は決まっており、税務調査官からも狙われてしまう事態を目の当たりにしてきた。この経験から、クライアントが新しい取引を始める最初の段階から、ビジネスの現場における値決めに移転価格をいかに組み込むかが重要であり、そのサポートのためには税務担当者だけでなく、現場の方々を巻き込んでいくことが必要だと考えている。
さらに、移転価格税制はグループ会社間のクロスボーダー取引を対象とした税制であるため、クライアントのビジネス全体を俯瞰しつつ、移転価格リスクの所在を把握し、日本と相手国の両サイドからの税務リスクのバランスを調整しながらアドバイスをすることを心掛けている。
振り返れば早8年。私にとって移転価格業務は、さまざまな方に支えられ、やりがいを感じられる「ベストな仕事」となりつつある。

04

あなた独自の強みと今現在の仕事との関係性

複数の事業会社に在籍し、営業部門や経理部門、人事部門を経験した。また、税務担当者から他部署の業務の話を聞いてきた経験を通じて、会社全体を俯瞰し、本質的なリスクや課題を見極めることができ、そのリスクや課題へのアプローチを柔軟にアドバイスできるところが、私の大きな強みであると考えている。
事業会社内でビジネスを牽引する事業部の方々と、税務を含めたバックオフィスの方々の間には、着目している視点が異なる。全体を俯瞰することの大切さは、私自身が事業会社に所属していた時に実感したことだ。現在担当している移転価格税制は、詳細な分析が必須であるものの、ミクロの視点にこだわりすぎると部分最適となってしまい、本質的なクライアントの課題を見逃してしまうことが多い。このため、全体を俯瞰してクライアントの本質的なリスクや課題を把握し、リスクを最小化するために多面的に分析・検討していくことが求められ、ここに私自身のこれまでの経験が非常に活きていると思っている。
クライアントのビジネスの理解やニーズの把握、税務部門の立場など、社内的な事情を把握することを含め、クライアントの立場からのコンサルティング業務に関与できているという実感がある。また、クライアントが心を開き、親しみをもって接してくれているという実感も得ている。

K.I.さん

05

仕事をしている中で、心が大きく動いた瞬間

これまで、私のその後のキャリアに大きな影響を与えた人との出会いが3度あった。
1人目は、新卒で入社した総合商社での上司である。今の時代では嫌煙されるかもしれないが、週5日飲みに誘ってくるようなタイプの人で、営業担当としての日常的な振る舞いや、会社を代表して(看板を背負って)仕事をすることなど、社会人としてのイロハを1から叩き込んでくれたのも、この上司であった。そのような精神論を説いてくれる人は他にはなかなかおらず、また、この上司のクライアントとの距離の詰め方にも見習うべきところが多くあり、この上司がいたおかげで、泥臭く仕事をすることの大切さや、クライアントに対してどういった姿勢でいなければならないのかを学ばせていただいたことは非常に大きかった。
2人目は、情報通信会社(経理部)の先輩社員である。経理初心者であった私に、経理実務のすべてを日常の業務を通じて手取り足取り指導してくれた。私はこれまでの人生において、途中苦労はするものの、何とか最終的には帳尻を合わせて結果を出してきた。何となくカタチにできてしまうので、周りからの評価も決して悪くはないが、本質的な理解が追いついていないことも事実であった。この先輩社員に、私の「卒なく帳尻を合わせる」という仕事に対する姿勢を見抜かれ、公認会計士試験合格を機に転職する際には「Iさんは、これからも表面的には全く問題なく、どこの組織でも仕事をこなしていけるし、成果も挙げられると思う。しかし、100%の努力をしていないでしょ?100%の努力をせずに成果を挙げられることは能力だから、その点は自信を持っていいと思うけれど、さらに2ステップも3ステップも上を目指すのであれば、もっともっと苦労をしなさい!」という厳しいエールをもらった。この言葉は、公認会計士/税理士としてキャリアを積む上で今も支えになっている。
3人目は、前述のPwC税理士法人復帰のきっかけとなった現職の上司である。移転価格の仕事内容について指導してくださっているだけでなく、2人目の先輩社員同様に、私の性格的な特徴や仕事に対する姿勢、能力をしっかり認識し、いつも的確なアドバイスをくださる。復帰から8年経つ今も、PwCで頑張っていられるのは、この上司のおかげであり、感謝の気持ちしかない。これからは仕事を通して、私が恩返しをしていく番だと感じている。

06

公認会計士という仕事に関連して深く悩んだこと、それをどのように乗り越えたか

公認会計士という資格を利用して、自分自身のキャリアの実現を目的として資格を取得したにもかかわらず、結果としてこの資格がキャリアの幅を狭めてしまったと感じ、悩んでいた時期があった。つまり、公認会計士として、監査、経理、税務のプロフェッショナルとしての経験や知見を活かして、航空宇宙業界の事業会社に所属し、1プレイヤーとしてビジネスに従事し、新規ビジネスの計画や立案を行うという当初の目的とは裏腹に、公認会計士の資格取得と監査、経理、税務のプロフェッショナルとしての経験を積むまでに一定の時間を要したため、航空宇宙業界での知見や経験を積む機会が減少してしまったのである。そして、公認会計士になってみると、公認会計士/税理士としての知識・経験が強みとして評価され、転職アドバイザーや事業会社の担当者からも、経理、税務のプロフェッショナルとしてのキャリアを勧められるようになった。そのようなキャリアは、自分自身が当初思い描いていた理想のキャリア像とは大きくギャップのあるものであった。
結婚をし、家族という守るものもでき、自分自身のライフステージが大きく変化したタイミングで、「会計士という資格を取ったのは、なんでだったのかな」ということをもう一度振り返りながら、私一人ではなく、家族としてのキャリアを考えるようになった。紆余曲折あったが、現職の税務アドバイザーという業務において、何十社ものクライアントと仕事をさせてもらい、1社の事業会社の社員として所属していた頃では経験できないようなさまざまな業種業態のビジネスに触れる機会を得ることができた。航空宇宙業界では思いつけないような発想や新たなアイデアを考える良い機会に恵まれ、将来は、これらの経験を活かし、外部のアドバイザーとして航空宇宙業界の発展に貢献したいという発想の転換と、新たな目標を掲げることができた。

07

人生の目的と公認会計士という資格

人生の目的と聞かれると壮大すぎて、自分自身の言葉で回答するのは非常に難しいが、私は7歳の時に父(享年36歳)を交通事故で亡くしているため、36歳という年齢が自分にとっても1つの区切りであると、漠然と考えてきた。父の影響もあり、幼少期の航空機との出会いや、学生時代の航空宇宙工学の勉強・研究、エンジニアの道をあきらめて総合商社での社会人をスタートさせたこと、そして公認会計士を志し無職となったことなど、家族や周りの人々の理解と支援がなければ、ここまで人生を送ることはできなかったと思っている。現在は37歳からの「第2の人生」に入り10年が経過したが、これからはプライベートのみならず、キャリアにおいても恩返しをしていくフェーズであると考えている。日々悔いのないよう、公認会計士としての資格を活かし、外部のアドバイザーという形でさまざまなクライアントへ支援することを通じて、クライアントの発展に貢献していきたいと考えており、願わくは、我が国の航空宇宙産業の発展に貢献できたら非常に嬉しい。

K.I.さん

08

これから成し遂げたい事、将来の夢

日本の航空宇宙産業の発展に寄与することが、私のキャリアのゴールの1つである。我が国の航空宇宙産業は、個々の企業レベルでは世界トップクラスの技術力を持っている会社が多いものの、航空機の製造という観点からは、世界的なリーディングプレイヤーにはなれていないのが実情である。一方で、今年に入り改めて、国産ジェット機の開発・製造をスタートさせるというニュースを耳にした。国産ジェット機の開発・製造の実現は我が国としての悲願であり目標であるが、スタート地点に過ぎないと思っている。開発・製造に関わる企業は、慈善活動で実施しているわけではなく、最終的にはジェット機の製造・販売をビジネスとして軌道に乗せていく必要がある。私は技術分野からの貢献はできないが、移転価格を含めた税務の観点から国産ジェット機の製造・販売ビジネスやサプライチェーンの確立、軌道化に向けたアドバイスをすることが、私の最後の目標になると考えている。
そしてもう1つは、現在の移転価格コンサルティング業務を通じて、クライアントの体制構築に貢献することである。クライアントのビジネスの現場において、税務の検討が後回しとなるケースがある一方で、移転価格の問題から検討中の事業拡大を見送ろうとするケースもある。移転価格を含め税務に関しては、しっかりと準備・検討を実施し、適切な手当てをしておけば、リスクはミニマイズでき、ビジネスの障壁とはならないと考えている。このため、新規ビジネスの企画立案の段階から、クライアントの税務部門や私たちのような税務アドバイザーを巻き込む体制の構築、そしてビジネスの現場の方々への啓蒙活動が必要であると実感している。現在はクライアントの税務部門の方々とのやり取りがメインであるが、今後はもっとビジネスの現場の方々との接点を増やし、クライアントの体制構築に貢献できる仕事をしていきたいと考えている。

K.I.さん

09

キャリアを模索する会計士、会計士受験生へのアドバイス

ご存じのとおり、公認会計士は会計分野のプロフェッショナルであるため、クライアントや世間の方々から、会計・税務分野での活躍が期待されている。公認会計士という資格を取得することにより、キャリアの幅を拡げ、選択肢が増えるような説明や紹介をよく耳にする。この点については事実であるとは思うが、公認会計士の資格取得はゴールではなく、スタート地点である。公認会計士の資格取得までには、時間もお金も相当程度要する。ご自身のキャリアの目標や夢が、公認会計士の取得によって実現できるのかは、しっかりと事前に調査しておくことを強くお奨めする。特に、社会人として既にキャリアをスタートしている方は、これまでのキャリアをどのように活かすのか、そして活かせるのか、キャリアをストップしてまでやることが本当に自分にとってプラスなのかを考えておかないと、期待ギャップが生じる可能性が高く、せっかく公認会計士の資格を取得したにもかかわらず、後悔することもあるかもしれない。公認会計士を目指すと決断することは、大きな人生の岐路の1つである。ぜひ、公認会計士の資格が本当に必要なのか、自分の夢への近道なのかということに、再度思いを巡らせてほしい。