手塚正彦(てづかまさひこ) | ページ 3 | 会計士の履歴書 | 活躍する会計士たちの仕事やキャリアを紹介

一般財団法人会計教育研修機構

理事長

手塚 正彦 てづか まさひこ

逆境を知る会計士
支配人タイプ
支配人タイプ

1961年8月18日生まれ(63歳)
神奈川県出身 ・ 東京都在住
東京大学経済学部経営学科

7人生の目的と公認会計士という資格

前述の通り、明確な目的を持たずに公認会計士になったので、僕自身はあまり人生の目的と会計士資格の関係を意識したことはありません。ただ、人生を成功に導くために、公認会計士の資格がすごく役に立つなとは思います。目的って1人だけで達成できないことが多いから、誰かに助けてもらわないといけない。助けてもらうためには信頼が大事。そのとき、会計士はやっぱり信頼されます。初対面でも、信頼され、相手が敬意を持って話してくれる。これはすごく貴重です。そんな風に、この人は公認会計士だからで信頼できるなっていう思いを、仕事を通して相手にきちんと実感してもらうと、目的を達成しやすいんじゃないかと思いますね。事業会社に行って、この資格の魅力を実感している人も多いんじゃないかな。スタートアップ企業のCFOの名刺にはよく、「公認会計士CFO」って書いてありますね。CFOだけより、「公認会計士CFO」の方が、信頼が加わって、金融機関なども安心するのでは。公認会計士協会の会長として携わった仕事に公認会計士のブランディングというものがありました。協会の以前のタグラインは、「Engage in the Public Interest 社会に貢献する公認会計士」でした。コンサルティング会社にも協力してもらって作った、とても良いタグラインなのですが、これを知っている会員が半分もいなかったんですね。監査人には「社会に貢献する」という部分がすごく当てはまるんだけど、監査法人にいない60パーセント超の公認会計士たちにとっては、ピンとこないという意見もありました。「じゃあ、公認会計士全員に共通する、公認会計士の価値はなんだろう」と考え、そこでキーワードになったのが「信頼」だったんです。資格が持つ「信頼」を、きちんと自分で具現化していくというのは、公認会計士のどんな仕事にも共通しますよね。信頼は社会関係資本のひとつと言われており、信頼関係がないと社会の様々な取引はうまくいかないんです。そのベースとなる知識としての、アカウンティング、オーディティング、ファイナンス、ガバナンス、そして職業倫理。公認会計士はそれらすべてを持っている、そういう資格でしょう。しかも監査法人だけじゃなくて、世の中のあらゆる職種でとても広い領域で活躍していますよね。こういう資格は他にはない。 そんな公認会計士が創る「信頼」を、世の中の隅々に行き渡らせましょうという思いから、タグラインを「信頼の力を未来へ Building trust, empowering our future」にリニューアルしました。もうこれを修了考査の問題に出す!知らなきゃ公認会計士登録させない!というくらい(冗談です(笑))、みんなしっかり覚えてほしいです!

8これから成し遂げたい事、将来の夢

第一には、公認会計士と監査法人の信頼向上に貢献すること。公認会計士法改正に携わった手前、これはやっぱりやらなきゃいけないなと思っています。特に自主規制だった「上場会社等監査人登録制度」を公認会計士法に定めたことで、より厳格な制度となりました。昔から公認会計士協会は、外に対しての発信が少ないと言われてきました。これは事実だと思います。そのため、本当の意味での理解者が少なく、公認会計士法改正の議論の場で自主規制の意義も一生懸命説明したけれど、たとえば金融審議会の委員の中で賛同者は少なかった。そこで苦渋の決断で法定化に同意しました。ですから、監査法人や公認会計士に対する社会からの信頼を確固たるものにするために何か貢献したいと思っています。
次に、公認会計士である社外取締役のロールモデルとなること。会計士以外の士業と比べると、公認会計士がいちばん社外取締役に向いていると思います。企業経営経験者と比べることは難しいですが、会計、情報開示、監査、ガバナンス、内部統制などに関する知識や、独立した専門家として企業全体を見てきた経験は貴重です。監査を十分経験していることが前提ですが、会社という組織の全体を見たことがある人はなかなかいない。例えば製造業には製造部門があって、営業部門があるでしょう。研究開発部門があり、コーポレート部門がありますよね。このコーポレート部門の中にも、人事もあれば、総務もある。経理、財務もある。監査人はほとんどの部門の人と付き合いますよね。財務諸表に集約された数字を起点にして、会社全体がどのように動いているのか理解しないといけない。経営理念、経営戦略、中期経営計画から、単年度の経営計画とか予算も理解しないといけない。予算が、店舗レベルや事業ユニットレベルの行動にどのような影響を与えるかも理解しないといけない。そこに、会社法とか金融商品取引法とか、コーポレートガバナンスとか、内部統制とかの理解が絡んでくるけれど、(公認会計士でなければ)これら全般を勉強した経験はないのでは。会社全体を見ることができて、しかも、会社を経営するための基本的な知識を会計士試験と実務補習所、監査実務を通じて身につけている。そういうプロフェッショナルは他にいないでしょう。「会社経営の基本知識は会計士試験と実務補習所で7割身につけた」と言った会計士がいました。「勘定奉行」で有名なオービックビジネスコンサルタントの和田社長です。残りの3割はなんですかと聞いたら、それは、ビジネスのマーケットは様々で、そこは自分で入ってみないとわからないから、自分でビジネスをやって学ぶしかないということでした。
会社の取締役会などの会議では、議案の審議だけでなく、会社の将来に向けての経営方針についてなど、いろいろことを話し合います。僕が社外取締役をしている銀行でも、オフサイトと呼んでいる非公式会議があり、自由に議論します。たとえば、今日はサステナビリティに関する将来の与信管理と融資の方針、とか。これから大変じゃないですか。鉄鋼業界とか電力業界は、2030年までに将来生き残れるか決まるぐらいの危機感でしょう。そこに対して融資をするわけだから、どうやってそういった業種のトランジション・リスクを評価するのか、与信枠をどのように決めるのかという話をする。その時にどうしても開示の問題が出てきます。銀行って融資先の二酸化炭素排出量が、Scope3という二酸化炭素排出量の計算対象領域に入り、開示対象になります。二酸化炭素を大量に排出している会社に融資をしていると、銀行が投資家から見放されてしまう。そういうことまで意識しながら、融資先に対してどれだけリスクを取るかという話になります。このような開示制度について理解している人は少ない。監査法人で経験を積んだ会計士にアドバンテージがあります。また、会社内の社員がどういう環境で、どんな風に働いているかとか、内部管理のチェックポイントがどうかとか、細かいことから大きいことまでバランスよく知っていて、実際に自分の経験を通じて会社を理解できる人はあまりいないのではないかと思います。監査法人でマネージャーくらいになったら、年に1回、規模が小さい会社ならもしかしたら何度でも、社長に会えますよね。会社の現場スタッフから社長まですべての階層の人と会って、それぞれがどういう思いでどんな仕事をしているかを理解することができる。加えて、監査業務に関する質問にはすべて答えてくれる。こういう仕事は他にないですよ。7年くらいでマネージャーになって、中堅規模の会社の主任をやって社長と話をして、その辺から自分の次のキャリアを考えるというのもいいのかなと思います。

9キャリアを模索する会計士、会計士受験生へのアドバイス

公認会計士受験生の皆さんは、公認会計士の資格を活用して、プロフェッショナルになりたいと思っているんですよね。一般事業会社に行ったとしても、プロフェッショナルとして貢献したい、認められたい、高い給料をもらいたい。また、プロフェッショナルとして社会に貢献したい。プロになるためには、クライアントを良くするっていう気持ちを絶対に忘れてはいけません。自分が儲けることではなく、この会社をいかに良くするかっていうことを第一に考えないと、間違いなく、賢明な顧客には評価してもらえないです。売れないコンサルタントの典型的なプレゼンの特徴、わかりますか。自分のサービスがいかに良いか、自分がいかに優れていてどんなことができるか、という話しに終始します。賢明な顧客は、「私たちのためにどうしてくれるのか、そこをちゃんと説明してくれ」と考えます。頭がいいのは分かるけど、「それじゃあ売れないよな」ということです。当然、「うまいね!」と思わせる優れたコンサルタントもたくさん見てきました。顧客の話を傾聴し、それを踏まえて、「あなたの会社はこういう課題があるのですね、そしてあなたはこうしてほしいとおっしゃる。けれども、別のこの課題を解決しないと、うまくいかないんじゃないですか」というように、顧客が気づいていないことまで気づかせる。反対に、売れない人は8割自分が喋る。喋る量が顧客より多い。これでは評価されないし、顧客から情報が取れないから気づきもない。このことは、覚えておいて欲しいです。

頼りにされるプロになるには

僕が中央青山で理事をやっている時に、多くのPwCのパートナーが日本に手伝いに来てくれたんですが、その中の1人の若いパートナーが、「The Trusted Advisor」という本をくれたんです。これはプロフェッショナルファームに対してコンサルティングをしている人が書いた本なんですが、その中にTrusted Advisorに向かう段階というのが書いてありました。最初はある特定の分野の専門家、次にその関連領域まで守備範囲を広げた専門家、さらに、顧客のニーズを的確に理解して有益なアドバイスができる専門家といった段階を踏んでいって最後に到達するのが、本のタイトルでもあるTrusted Advisorです。これは、顧客との関係が深まって、信頼を生み出す要素が満たされた状態を指します。こうなると顧客は「このファームじゃないとダメだ、この人じゃないとダメだ」という“Loyal customer”になります。顧客に取り立てて特定のニーズがないときでも、この人と意見交換をしてこれから将来の課題を探ろうという関係になってきて、それが継続できるとTrust、まさに「信頼」になる、そういうことが書かれている本です。僕は、このモデルは常に頭に置いています。成長にはこういう段階があるはずで、今、自分はその中のどの段階なのかを意識して、じゃあ次の段階に行くにはどうしたらいいかっていうのを、なんとなくでもいいから常に考えることをお勧めします。そうすると、自分に足りないのは何かという気づきもある。例えば、新人で監査法人に入ったスタッフであれば、まずは上司や先輩に言われたことをちゃんとやる。最初は当然、先輩のような仕事はできない=その段階にいないのだから、やれと言われたことをちゃんとできるようになるという段階です。より上の段階にいる先輩は顧客から相談を受けていて、 新人の僕はどうしたらああいう風になれるんだろうと考える。常に段階を意識して仕事に取り組んでいる人とそうでない人とでは、1年後大きな違いが生まれているでしょう。紹介したモデルに限らないけれど、ステップアップするために自分に何が足りないのかを考えて、時間を作って一生懸命勉強する、ネットワークを広げる。そういう意識をすると、いずれ、「この人いいよね」と仕事もたくさんもらえるし、頼りにされるプロになれるのではないでしょうか。

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