手塚正彦(てづかまさひこ) | ページ 2 | 会計士の履歴書 | 活躍する会計士たちの仕事やキャリアを紹介

一般財団法人会計教育研修機構

理事長

手塚 正彦 てづか まさひこ

逆境を知る会計士
支配人タイプ
支配人タイプ

1961年8月18日生まれ(63歳)
神奈川県出身 ・ 東京都在住
東京大学経済学部経営学科

4あなた独自の強みと今現在の仕事との関係性

監査法人での経験を通して培った、物事の本質を見極めようとする姿勢・力が今の仕事にも生きています。我々は基準や規則に従って仕事をしなければいけないわけですが、メインクライントだった新日鉄は、形だけ法令・規則や基準を守るのではなく、「本質は何か、基準の背景は何か」を常に考える会社でした。こちらも物事の本質を見極めたうえで発言をしないと、「本当にわかってるの?」と思われてしまう。会計処理ひとつとっても、その会計処理の対象になっている会社の活動とか、実態はなんなのか、どういう風に解決したいのか、その本質的な検討をしないといけないということを若いうちから訓練されましたね。また、結果を出すことにこだわる姿勢も監査で培われました。監査ではとにかく監査意見を出さなければいけませんから。結果よりもプロセスに重点をおく風潮がありますよね。プロセスがうまくいかなければ結果を出すことは難しいのでプロセスが大事なことは事実ですが、ビジネスの世界では結果が出ないと意味がないですよね。あとは、最後は自分で判断し、決断するということも常に意識していました。僕はリーダーシップを取る地位や役割を任されることが多かったけれど、自分でやりたいと言ったことはあまりないんです。本質を見極める姿勢や結果にこだわる、自分で判断するといった姿勢を、周りの人が評価してくれた結果だと思っています。

5仕事をしている中で、心が大きく動いた瞬間

新日鉄の部長が、僕の自宅(正確に言うと自宅近くの日本料理屋)に来て、製鉄所のライン停止に関する重要な会計処理について相談に乗ってくれと言ってきたことがありました。新日鉄は伝統的に重要な会計処理や監査に関する相談は、私の上司の自宅に部長や役員が訪問して行っていました。「手塚さんに相談したい」と僕のところに来てくれた。自分を1人前だと認めてくれたんだと思って、とても嬉しかったです。まさに、心が大きく動いた瞬間でしたね。当時まだ減損会計基準がなく、固定資産の評価減ってどうするんだ、耐用年数を短くするのか、とか、海外の会計基準も参考にしながら選択肢をいくつか挙げて、その中で何がいちばんよいのかを議論しました。新日鉄では、副社長との会食の時に「あの時手塚さんに、この会計処理は認められないと言ってもらってよかった」とも言われました。当時、資産のオフバランスが流行していましたが、会計処理や監査上の判断の指針がなくて。会社の人と証券会社の人が大勢いる会議で、監査人は僕1人、みたいな状況で、頭のいい証券会社の人がさまざまな理屈を並べてオフバランス取引と会計処理を次々提案してくるんですよ。理屈だけ聞いていると、ダメとは言えないような提案なんだけれど、でも本質をよく考えてみると、オフバランス処理はやっぱり実態と合わないな、と思って、「ダメです」と言ったんです。監査人は「ダメ」と言ったことが感謝されないといけないんだなと思いました。
業績不振の監査クライアントのCFOが、利益を水増しする不正な会計処理を認めてほしいとお願いしてきて、ダメですよと言ったこともあります。その会社は結果的に民事再生法適用になりました。社長を慰労する最後の会食の時に、「手塚さんね、こんな会計処理しましょうってうちの(CFO)が言ったそうだけど、 経営者が不正をするっていうのは、全部保身のためです。」っておっしゃった。この社長は業績不振を立て直すために商社から送り込まれた方で、不運でした。不正が会社のためになることはありません、それは経営者の保身ですと、こう言われたのは今でもよく覚えていますね。

6公認会計士という仕事に関連して深く悩んだこと、それをどのように乗り越えたか

悩みはほとんどないのですが…アメリカでエンロン事件が起こり、監査人の独立性の規制が厳しくなり、2000年代半ばごろから監査人はアドバイスをするな、という話になったでしょう。昔はアドバイスしてなんぼだったと思うんです。クライアントを良い会社にしなさいって教育されているから、会計処理をこうすべきじゃないかとか、会社の内部管理体制をこうして直しましょうよって一緒に考えてやっていました。それをしちゃいけないような風潮が強くなった時は、やりにくくなったなぁと悩みましたね。会社とのコミュニケーションも、「一緒に飲みに行きましょう」もなかなか言えない。割り勘にすればいいんだけど過度に警戒してしまって。でも、そこはやり方次第で、クライアントを良い会社にしようという気持ちは絶対に捨ててはいけません。「この会社を良い会社にするために、できることをちゃんとやる。監査手続をやって、監査報告書を出すだけじゃダメなんだ」って。今、現役の人は多忙を極めて余裕がないかもしれない。でも、そういう気持ちを持ち続けていないと、監査の仕事が面白くなくなってしまうと思います。

1 2 3

性格診断テストをやってみよう性格診断テストをやってみよう

会計⼠の履歴書とは
世代、職場、地域などのさまざまな垣根を超えて、
会計士が気軽に立ち寄ってコミュニケーションしたり情報収集できる場を目指しています。
また、当サイトをきっかけに会計士に興味を持ってもらえると幸いです。

会計⼠現役会計⼠・会計⼠

会計士の方はこちら
More
『会計士の履歴書』に掲載している“会計士”は、“日本の公認会計士試験(旧2次試験)に合格している人”を対象としています。そのため、修了考査(旧3次試験)の合否や日本公認会計士協会への 正会員 又は準会員(会計士補)の登録有無とは関係なく掲載しています。