会計士の履歴書
泉 光一郎

泉公認会計士・税理士事務所

代表

泉 光一郎

いずみ こういちろう

コンサルティング業務には現場担当者との信頼関係構築が不可欠。監査法人と管理実務経験を生かして独立開業

1980年2月17日生まれ(46歳) 大阪府出身 東京都在住

京都大学 経済学部経済学科 卒業 2003年合格

泉 光一郎

01

キャリアサマリー

2004

監査法人トーマツ東京事務所入所。トータルサービス部に配属、監査業務、株式公開支援業務、J-SOX導入支援業務等に携わる。

2010

株式会社DeNA経理部に入社。事業会社の経理実務を経験、経理マネージャーとして、月次決算、連結決算、法定開示等の通常業務の他、M&A対応、IFRS導入、会計システムの入れ替えに従事。

2014

株式会社会計工房に入社。上場会社の有価証券報告書等のディスクロージャー業務支援、株式公開のための提出書類作成、M&Aにおけるデューデリ、PMI業務等のコンサルティング業務に従事。

2017

独立し泉公認会計士・税理士事務所を開業。税務業務の他、フリーランスとして東証一部上場企業の管理部のマネージャー業務のほか、事業会社の経理サポートやM&Aの社内とりまとめ、ストック・オプション発行等の業務を実施。

02

監査法人における経験およびその後のキャリア選択のきっかけ

いわゆる旧試験と呼ばれる公認会計士2次試験に合格したのが2003年だった。その前年までは、2次試験会場で試験後大手監査法人がビールを配っていた(らしい)ほど売り手市場であったのが、翌年には就職環境が厳しくなり、合格者数が1,200人ぐらいに対して、4大監査法人で800人程度しか採用がなかった記憶がある。当時大阪の実務補習所に通っていたのだが、入所した時点で半数ほど無職だったことをよく覚えている。

もともとそれほど就職にこだわっておらず、あまり就職活動をしていなかったものの、さすがにこのままでは実務経験を得るのが難しそうだなと少し焦っていたところ、なぜか監査法人トーマツ東京事務所のみが季節外れの募集をしており、申し込んだところ採用され、東京で勤務することとなった。

監査法人に入所し、最初に思ったことは「監査法人でずっと働き続けることはほぼ無理だな」ということだった。人員構成をみると上が詰まり出してきており、当時、パートナーは難しいもののまだシニアマネージャーにはほぼ誰でも上がれていたが、それもいつまでかという状況だった。(今ではもっと詰まっているが…)

そのため、自分自身が「シニアマネージャーどころか、マネージャーになれるかわからないな」と素直に思った記憶がある。監査法人の業務というのは社員が主査をアサインし、スタッフのアサインは主査が行うのであるが、当然、自分より年次が高い人を使うことはあまりなく、年齢を重ねるほど職員として働き続けることが難しい。実際、シニアスタッフに上がった時の人事研修で、キャリアパスの参考のために、人事担当社員に「定年まで社員にならずにいた人はどの程度いたのか」と聞いたところ「前例がなくよくわからない」という回答だった。

法人内での昇進は難しいといいつつも、監査法人における業務経験は何事にも代えがたい貴重なものが多く、監査法人には6年弱在籍したが常に新しい業務ばかりだった。勉強を継続し専門性を高めるという習慣はこの時期に出来上がったのは間違いない。監査法人在籍中には、常に次のキャリアを考えていたのだが、もともとリスク選好が高くなく、食いっぱぐれることはないだろうということで事業会社の経理部に転職することとした。

泉 光一郎さん

03

今現在の仕事の内容、特徴、キャリアパス

今は独立開業し、一般的な税務顧問やコンサルティング業務をしつつ、主に株式会社アカツキ(以下、アカツキ)に関与し、経理・労務を担当している。通常のコンサルティング業務では、一部業務のアウトソーシングや、M&Aにおけるデューデリジェンス(対象企業や事業の価値・リスク審査)といった一部だけに関与することが多いが、アカツキではそうではなく経理・労務のマネージャーとしてかなり広い範囲の業務をしている。

具体的にいうと、経理業務では、日々の伝票承認、支払業務から、月次決算における各種作業のレビュー、取締役会資料の作成・レビューといった一般的な日々のルーチン業務のほか、M&A業務におけるDD、バリュエーションや、株式報酬制度の導入といった専門的業務も実施している。労務業務では、もちろん月次の勤怠締め、給与計算業務のレビューのほか、顧問社労士との打ち合わせ、福利厚生制度の検討や導入、労務リスクへの対応策の検討などを実施している。もちろん、人員管理といったマネジメント業務も担当している。

こういった業務は一般的には正社員の業務であり、疑問や懸念を持つ人も多いと思う。例えば、社員ではない外部の者では「情報管理の点で問題があるのでは?」「結局、最後まで仕事をやりきらないのではないか?」ということであるが、自分の事業会社の経験によると、むしろプロの業務委託のほうが経営企画部門の業務は強いと個人的には感じている。

例えば、年功序列、終身雇用が揺らいでいる昨今では、会社員だったとしても簡単に休職・退職するのに対し、外部の業務委託にとっては情報漏洩や業務の未納品など自身の信頼性が揺らぐようなことはしない。プロとして必ずやりきる。(もちろん、業務の遂行がすべてではないので、社員が担うべき役割もある。)実際、経営企画部門における経理、労務分野はアウトソーシングやシェアード化も進んでいることを考えると、フリーランスが社内にいて、単なるオペレーションを超えて経営層や高位の管理職に対して、その専門性をもって情報提供や提案をしていることは別段不思議なことではない。

現在、アカツキでは全社的に多様な働き方を採用し、他社と比べて様々な契約形態の職員が働いており、経営企画部内には、会計士も自分のほか数名在籍し、その他弁護士、IRスペシャリストなど、高度な専門性を持つフリーランスが所属している。

04

あなた独自の強みと今現在の仕事との関係性

会計士として、管理部門における実務レベルでの知識と実際の実行力が今の自分の強みとなっている。

自分が監査法人にいて監査をしていたころは、まだJ-SOXが導入されておらず、スタッフは内部統制の一環として、会社の業務を理解し各業務プロセスがどうなっているかを自分で文書化(フローチャート、業務記述書など)するという機会がわりと多くあった。そのため、現場レベルでの会社の業務を理解するというスキルを伸ばすことができた。

また、事業会社に入り、会計システムでの伝票の起票、支払作業におけるネットバンクのEBデータの作成から、その後の現場マネージャーとしての経験、それに加えて監査法人サイドではなく事業会社からみた開示やM&Aといった業務の実施し、コンサルティング会社ではJーSOX支援業務のほか、買収された会社に新オーナーからの依頼により管理部長として入りPMIを実施したことなど、一般的なコンサルタントよりもより実務的、より担当に近いレベルでのコンサルティングのスキルがついた。

例えば、業務改善というコンサルティング業務の場合、一般的には次のような工程を取ることが多い。
1.現在の業務の棚卸、工数の把握、優先順位付け
2.課題の抽出
3.改善策の提案
ただ、外部を使った業務改善というのは失敗することが少なくない。要因はいろいろあるが、業務への(本当の意味での)理解の不足、現場への入り込みの不足であると思っている。

1の把握では、現場担当にヒアリングまたは資料作成を依頼するのだが、業務改善をするような場合、担当者は忙しいことが多く、単に上から言われて対応するだけになることがある。特に担当者が高いコンサル費用を払うぐらいなら自分たちに還元してほしいと思い、非協力的になることすらある。

そうすると、結局課題についても、属人化や、マニュアルがない、ダブルチェックがないといった一般的なことになり、改善案もマニュアルの作成、チェックリストの作成・運用といった現場に余計に負荷がかかるものになりがちであり、結局現場には浸透しないことが多い。また、コンサルティングでは改善策の提案までで、実施・定着まで行うことが少ないため、そもそも実現可能性の低い提案であることもよくある。

一般的なコンサルは提案までが業務であることが多いため、依頼主である経営者や管理職との関係性に終わることが多いが、自分はまず現場担当者との関係値を上げることから始める。これは事業会社経験者が新しい部署に異動したとき実施する一般的なことであるが、それができるコンサルタントはわりと少ない。

また管理部門の業務については、そもそも現場の業務フローを知っているので、業務のヒアリングをそこまでせず、隣で仕事を手伝い信頼を得つつ、その上で具体的な業務のボトルネック改善することとなる。(例えば、経費精算の申請書の形式や、支払における取引先コードの管理の仕方といったレベルで。)実際、アカツキは東証一部上場企業であるが、経理部員の月の平均残業時間は10時間もない。

泉 光一郎さん

05

仕事をしている中で、心が大きく動いた瞬間

優秀な人と一緒に仕事をし、何かを成し遂げたときが一番仕事の充実感が高い。それは監査法人にいたときも、事業会社にいたときも、コンサルティング会社にいたときも同様だった。

一般的に監査法人出身者は、個々の独立性が高く個人主義で連携して仕事をするのが苦手だと思われているかもしれないが、そんなことはない。単に気が合うとか、合わないとか仲の良し悪しで仕事をすることは確かにあまりないが、個々がプロとして高いレベルで自分の仕事をするという意味ではやはりということが多く、このスタンドプレーとも思われる各人の業務が自然と連携され、より高いレベルでの成果を出すことはよくある。少し業務遂行にフォーカスしすぎているきらいがあるかもしれないが、これがチームワークだと個人的には思っている。

監査法人におけるIPOなどは対象会社の人と一緒になって実施する一大イベントであるし、経理部においてERPの入れ替えなども大きな仕事だった。その際には、メンバーは別に仲良しであるわけではなく各人の業務をプロとして実施するということが重要だった。もちろん、大きな業務を共にした後は、戦友的な意味で共感を得ることはあるが。

今関与しているアカツキでは優秀な人が来たくなるような面白い仕事、新しい仕事、自己実現につながる仕事、案件を、マネジメントが意識的に用意してくれている。これをアカツキではおもちゃ理論と呼んでおり、優秀な人を呼び込む工夫としている。その際には、雇用形態は特段問題とはしないため優秀な人がフリーランスも含めて多数おり、そういった人と仕事をするのは純粋に楽しい。

06

公認会計士という仕事に関連して深く悩んだこと、それをどのように乗り越えたか

特段、公認会計士という仕事に関連して深く悩んだことはない。ただし、監査法人に在籍した期間が6年とそれほど長くはなく、監査業務の現場のすべてをやる前に退職し監査現場を離れて8年たったため、現在の監査業務をあまりわかっておらず、公認会計士として監査をやってはいない点はあるが。

あえていうなら、公認会計士になり監査法人に入った後に、自分がどこにキャリアパスをみつけるか、ということに一番深く悩んだ記憶がある。公認会計士は一般には専門職であり特定の業務だけをしていると思われがちである。もちろん、専門家として監査業務といった独占業務もあるが、一般の人が思うよりはもっと幅広い道が用意されている。監査法人での勤務時代に公認会計士の仕事は企業のみならず個人を含めて、数字、お金に関する業務すべてが対象となることがわかり、その後のキャリアパスがあまりに広すぎたためどこに進むべきかということに迷った。

結果として自分の本当の希望といったものがよくわからず、ひとまず何かあっても生きていけるだろうということで事業会社に進むことにした。事業会社において経理業務を行う中で自分の専門性、強みがある程度定まり、幸運にも勤務会社が著しい成長時期だったことで、大型M&Aへの対応、会計システムの入れ替え、IFRSの導入などいろいろな経験をすることができた。また、事業部との連携や、マネジメントがどういったことを管理部門に求めているかを身をもって経験した結果、その後のキャリアにつながることとなった。

07

人生の目的と公認会計士という資格

恥ずかしながら、もともと公認会計士を目指した理由は、楽してそこそこ稼げる職業はないかなあ、と高校時代に将来について考えたことが出発点だ。当時いろいろ調べたところ公認会計士は日本で人数も少なく、どうも仕事も夕方くらいで終わるような楽な職業だと聞いたことだった。実際、そのころは会計ビッグバンの前であり連結会計もなく、上場企業が倒産するというようなことがない古き良き時代だったと聞いている。

そのため、あまり自分としてこれといった人生の目的はなく、一定程度稼ぐことができ、どちらかというとプライベート重視で過ごすための資格ということで公認会計士を取得した。ただ、実際社会に出て仕事をするようになると、せっかく平日の大半の時間を費やす労働という点については、やはり全力でやりたいし、全力でやるからには結果や報酬がほしいと思うように考えが変わった。

もちろん、会社員でも一生懸命仕事をすることはできるし、資格がなくとも起業することはできるが、やはり生来のリスク回避的、安定志向と相まって、振り返ってみると公認会計士での独立というのはちょうどバランスがとれたものに落ち着いたのだと思う。

今は独立しているため、会社員の時と比べると仕事の結果が直接報酬に返ってくるという意味で、ハイリスクハイリターンどころか、フルリスクフルリターンとなっているが、公認会計士というのが最低限のセーフティネットとなっている点で資格を取得して良かったと考えている。

泉 光一郎さん

08

これから成し遂げたい事、将来の夢

実はまだ明確に成し遂げたいこと、今後の夢、具体的な目標があるわけではない。監査法人、事業会社、コンサルティング会社を経て、自分は上場企業において成長のための経営戦略や資金、投資戦略といった財務戦略の立案のようなものについては、あまりにも抽象的でかつ現場からの距離が遠すぎる点で、結局興味がもてないなということだった。そういう意味で、会社の事業を加速させる会計士のひとつの道であるCFOは特に考えていない。

どちらかというと、現場により近い場所での業務に興味があり、上場企業であれば管理部門内でのコンサルティングや非上場のオーナー経営の中小企業における管理部門のサポートが一番自分のスキルや専門性に合っているのかなと考えている。

今はアカツキでのポジションがスキルに合っているが、アカツキが成長し、会社のステージが上がり戦略寄りの業務が増えていく過程において、もっと適した人材にバトンタッチする時期がくると考えている。

その後は、いわゆる町の税理士に興味をもっている。中小企業にとって町の税理士は社外管理部長みたいなものであるが、会計・税務は近年ますますその専門性が高まっている中、税理士の平均年齢は60歳を超えており、十分にサービスを提供できていないのではないかという気がしている。できれば自分も職員を雇用し、経営者としての気持ちがわかるようになりつつ、中小企業に対して業務改善などを現場に沿って行うコンサルティングをしていきたいと考えている。

泉 光一郎さん

09

キャリアを模索する会計士、会計士受験生へのアドバイス

よく言われることであるが、会計士試験や監査法人で働くことがゴールではない。その後に広がっている道は本当に広いので、まさに出発点であるということを理解してほしい。

もちろん、会計士の資格をもって事業会社にいくことも悪くないと思う。やはり、新卒のカードが事業会社への就職において強いのは間違いない。ただ、20代に自分のキャリアパスを確定させるのはなかなか難しく、その点、モラトリアムとして監査法人にいったん就職するのは悪くない選択肢だと思う。監査法人では会計士としての基礎スキルを学ぶことができるし、監査で様々な会社をみることができるのでそこでいろいろ考えてほしい。結局、キャリアパスの決定において重要なのは自分の納得感ではないだろうか。

監査法人で今いる人は、業務をそれなりにきちんとこなしたとすると30歳手前ぐらいになっているかと思う。失敗しても戻ることはできるものの、年齢、ライフステージ、年収を考慮すると次にどこに行くかが今後のキャリアの中での方向性を決めると思ってほしい。例えば、中小の会計事務所に行った場合、その後大手事業会社の経理となるには、事業会社未経験でかつ年齢の点でマイナスなだけであり、次のキャリアパスはほぼ独立にならざるをえないだろう。逆に事業会社の経理として就職した場合はそこから外資の金融機関や戦略コンサルティングに移ることはかなり難しい。コンサルになるとしてもIPOコンサル、M&Aコンサル、戦略コンサルとあり一から勉強することも多く、年齢を考えると試す時間も限られている。結局、周りの会計士をみていると監査法人の次の転職先が今後のキャリアの方向性となるのは間違いない。

「何をしたいか」という意味でキャリアに悩んでいたとしても、自分は「どうありたいか」ということについては漠然と考えがある人がきっと多いと思う。何をするかは、結局、その「どうありたいか」を達成するためのHOWでしかない。そのため、まずは、「どうありたいか」ということを明確化させ、それを実現している人、それに近い人に聞いてみる、できれば仕事を一緒にすることがいいと思う。

監査法人は幸運にも様々な年齢、役職、業界の人とつながるチャンスがある。法人内やクライアントもそうであるが、転職した諸先輩方もそうだ。自分のキャリアに悩んだときは「どうありたいか」を考えた上で積極的に相談してみたらいいと思う。そのためには今の仕事を全力でしてほしい。同僚、上司以上に自分の仕事ぶりを周りの人は見ており、優秀であればあるほど親身になってくれるし、いろんな人を紹介してくれるだろう。