上場企業CFOとして第一線で活躍するために求められるキャリアパスは?
デジタルアーツ株式会社 / 赤澤 栄信
上場企業CFOとして第一線で活躍するために求められるキャリアパスは?
デジタルアーツ株式会社 / 赤澤 栄信
今回は、日本生命相互保険会社から新日本有限責任監査法人を経て、デジタルアーツ株式会社の取締役管理部長に就任された、赤澤栄信(あかざわひでのぶ)さんをご紹介します。東証1部上場企業のCFOに求められるキャリアパスは何か。また、CFOの先に目指すものは何なのかお聞きしました。
デジタルアーツ株式会社
業務内容は、インターネットセキュリティ関連ソフトウェアおよびアプライアンス製品の企画・開発・販売。主力商品として、Webフィルタリングソフト「i-FILTER」や電子メールフィルタリングソフト「m-FILTER」を提供。企業向け、公共向けに業績を拡大。東京証券取引所市場第一部。従業員数は194名(平成29年3月31日時点の連結ベース)。東京都千代田区大手町の本社と、全国5か所に営業所を構える(北海道、東北、中部、関西、中四国、九州営業所)。グループ会社は国内2社、米国をはじめ海外に6社。平成7年6月21日設立。
キャリアサマリー
1975年大阪府生まれ。茨木高校卒業後に、神戸大学経営学部に進学卒業。
卒業後は日本生命保険相互会社に入社し、営業人事部に所属。
入社後、CFOを志し、会計士試験受験のため退職。2次試験合格後は新日本有限責任監査法人にて法定監査業務やIPO支援業務に従事。
約10年間の監査法人勤務を経て、2014年、デジタルアーツ株式会社入社。現在は管理部長として、経理・税務・財務、法務、広報等のマネジメントを担当する傍ら、IR業務を担当。親会社の取締役として経営に参画しながら、国内外の子会社の役員も兼務し、グローバルでの管理業務を担う。
目次
会計士のバリューをいかに出すかが課題
監査法人での経験をお聞かせください。
新日本監査法人の大阪事務所に入りました。当時は東京事務所の10分の1程度の規模だったと思います。東京事務所なら部門にわかれて専門で行う業務も、大阪事務所では1人がオールラウンドにこなす環境でした。
監査をこなしながら、3社のIPOとデューデリジェンスやショートレビューを経験しました。短期間で幅広く経験ができて大阪事務所に入って良かったと思う一方で、独立性の問題でクライアントに提供できるサービスに制約がかかり始めたタイミングだったので、もう少し早く監査法人に入っていたらもっとやれたのにという思いもありました。
監査法人の仕事に関連して悩んだことはありますか?
公認会計士は会計のプロとして憧れていました。ですが、上場会社の経理ともなれば頭のいい人が大勢います。しかも、彼らは自分の仕事に関係する会計基準をより深く勉強しています。そんな方々を相手に特定の分野で会計中心に議論しても、会計士のバリューを出すことは難しいと感じました。
ひと昔前は監査法人しか知らなかった情報やノウハウがありましたがが、今はインターネットに情報が氾濫していて誰でも入手できてしまいます。会計士とクライアントの情報に差がない時代に、監査法人のバリューを生むにはどうすればいいのか悩みました。
会計士のバリューはどのようにすれば生み出せるのでしょうか?
監査業務は監査法人の独占業務ですが、会計士の資格があるからといって一朝一夕にうまくいくものではありません。クライアントとの信頼関係が構築されていなければ、会社に有利になるように話を誘導されてしまい真実が見えなくなることがあるからです。
真実をつかむことは監査の最大のキモですから、「この人なら真実を話しても悪いようにはしない」と思ってもらわなくてはなりません。信用されるためにはバリューを感じてもらうことが必要で、一個一個の相談に真摯に取り組んで、信用してもらえる努力が必要でした。
CFOに求められるスキルとは?模索する日々
監査法人時代にMBAを取得したとお聞きしていますが、取ろうと思ったきっかけはなんですか?
入所する少し前までは、監査法人でもコンサルティング的な業務等を通じて、より経営者に近い立場で仕事ができていたと思います。
ところが不正問題などいろいろ出てきて、独立性が厳しくなって、監査法人が提供できる業務が少なくなりました。会計士を目指していたときよりも、会計士がCFOから遠くなってきているのではないかと危機感を覚えました。
MBAを取得しようと思ったのは、監査法人でできなくなった部分を穴埋めしようとしたからで、具体的には会計の周辺業務や経営の周辺知識を身につけたいと考えていました。
MBAで得た経験や知識は、その後のCFOの仕事に役立ちましたか?
MBAの資格を取得したことで、大きく2つのことが身につきました。
1つめは、意見の通し方です。監査人という立場にいると、会社に対して意見が通りやすくなります。最終的には監査意見を出す立場でもあり相対的に力を持っているからです。
ところがMBAで議論をするときは、会計士というバックボーンは考慮されません。中途半端な意見だと相手にしてもらえない。意見の通りやすさという意味で、監査法人に入ってからは楽になって手を抜いていたので、その状況からもう一回がんばらなきゃいけないと気づかせてくれました。
もう1つは、忍耐力です。MBAは働きながら夜間や週末に通う受講形態だったのですが、修士論文を書く頃は週に何日も徹夜をしていました。今思うと、一番ハードで忍耐力がついた時期です。
ようやく見つけたCFOへの道
監査法人からCFO職になるために、どのような転職活動をしましたか?
監査法人では多くの経験を積むことができましたが、CFOになるために会計士の資格を取得したので、「監査法人は生涯働く場所ではない」とつねづね考えていました。機会があれば転職したいと、チャンスをうかがっていました。
その一方で、監査法人からCFOに転身するのは難しいと覚悟もしていました。マネージャーになり9年目を過ぎても転職先が決まらなかったからです。監査法人に長くいて転職の機会を逃してしまった、もうCFOの道は無理かなと思うこともありました。
それでもCFOになりたいという気持ちは変わりませんでした。自分に足りない部分は何なのか、エージェントの方から話を聞いたりもしました。そうこうしているうちに、幸運にも「CFOのポストに空きが出たから来ませんか」と声をかけていただきました。
念願だったCFO職へのスカウトということで、転職はすぐ決心されましたか?
デジタルアーツはその当時すでに上場企業でした。上場企業のCFOポジションが空くというのはポジティブな理由ではない可能性もあります。そういった可能性も含め、会社の課題解決や期待に自分が応えられるのかを考えました。役に立てなかったら、早々に会社から必要とされなくなる可能性もあるので、その辺は冷静に考えました。
デジタルアーツはちょうど海外展開をはじめようとしていたときで、海外子会社を含めた管理体制の強化が課題になっていました。次のCFOにはそういった知識や経験が求められるのだと想像がつきました。
監査法人で培った知識と経験には自負がありましたので、会社が求めているものと自分の能力が合致しているので大丈夫だと確信しました。転職を決めたのは、自分がこの会社の役に立てるんじゃないかという直感を重視したからです。
CFOの面接はどのように行われるのでしょうか?デジタルアーツの面接で印象に残っていることがあれば教えてください。
当時の人事部長に面接してもらいました。会計士や日本生命での経験をアピールしなくちゃいけないと思って面接に臨んだのですが、人事部長の第一声が「神戸大学のラグビー部の部長ってすごくない?」でした。新卒の採用面接を受けているような感じですごくびっくりしました。
そういう自分の長所を見てくれた人事部長に、今でも感謝しています。「会計士で体育会系のやつはおらんのや」と言ってくださったのは、本当に嬉しかったです。
社長も外部の人や投資家様に自分のことを紹介するとき「新しいCFOです。神戸大学のラグビー部キャプテンだったんですよ」と言ってくれます。恥ずかしくもありますが、やはり嬉しいです。
デジタルアーツ株式会社の取締役管理部長をされていますが、仕事内容について教えてください。
CFOといっても、会計機能はもちろんのこと、法務、広報、情報システム、マネジメントの統括など幅広く担当しています。
会計機能でいうと、社内で会計・税務・財務分野に関して難易度の高い処理が発生したときにその質問に対応することが主な仕事で、監査法人で培った専門性を如何なく発揮できる場面です。
また、転職したときちょうど海外展開を進めているときだったので、海外子会社を含めたグローバルでの管理体制の構築を進め、会計知識の面でも役に立てていると思います。
また、当社は上場企業なので、優良な株主様に株式を持ってもらうことを大事なことと考えていて、IR活動にも尽力しています。ほかにも、社長がやりたいと思ったことを、会計的な観点を軸とした資料を示しながらサポートしています。
デジタルアーツは過去最高売上高を更新し続けているとお聞きしています。CFOとして貢献されていることはありますか?
私の仕事は売上に直接的に貢献できるようなことはありません。常に正確な情報を提供することで、あとどれくらい頑張らなければいなかいのか意識させることはできるので、正確なフレッシュな情報を効果的に社内外に提供することが役割だと思います。
また、CFOの仕事は会社の規模にもよりますが、CEOやCOOの人がやる仕事以外は全部が担当ではないかと思っています。常に「全部拾うぞ」という意識で臨んでいます。
CFOとして重要な決断をするとき、何か参考にするものはありますか?
実は判断そのものはそれほど難しいことではないと思っています。難しいのは判断の前提となる事実を拾い集めること。組織内コミュニケーションの中で正確な“事実”のみを集めるのは意外と難しいんですよ。
日常の業務の中でも、決断しないといけないことがあります。そういうときは、監査をやっている人共通のスキルだと思うのですが、「水が上から下に流れているか」と考えながら決断するようにしています。
どういうことかというと、会社組織にとって、中・長期的に不自然なことは持続しません。それなのに水が逆行するような意思決定になっているときは、これはおかしいと分かります。ヒアリングをするとき、おかしな流れになっていないかということを常に考える習慣をつけています。反していると思ったら、違和感をつぶすまでは決断はしません。
事業会社に転職して、会計士ならではの苦労はありましたか?
意見や話を通すことに苦労しました。会計の知識がない人もいますし、財務諸表を読んだことがない人もいます。そういう人たちに、いかにして自分たちが持っている知識を分かってもらうかがポイントになります。会計の専門用語を使って説明しているようでは、信頼されなくなりますからね。
たとえば、売上をあげたら売掛金を回収しなくてはならないということは、会計士なら分かると思うのですが、うちの会社に限らず一般的に見て、売掛金の回収の意味が分かっていない営業担当は少なからずいらっしゃいます。売上をあげてノルマを達成することや目の前の仕事を片付けることが役割だと思っているところがあります。現金を回収しないと会社の利益に貢献しないということまで考えられる人は、むしろ稀かもしれません。
そういった状況の中で分かりやすく説明して理解して頂くことは、質の高い売上を計上するために重要だと思っています。
また、当然ですが、過去を否定しないこと。最大限自分の意見を通そうとするときは、歴史に配慮しながら必要な人に必要な話を通すことを心がけています。
会計士CFOということで特に周囲から求められるものはありますか?
漠然とした言い方ですが、CFOは企業のバリューアップにコミットしなければなりません。バリューアップの前提としていろんな人から信用してもらうことが必要ですが、会計士は社会的にも信用がある資格なのでバックボーンをうまく使って貢献することができます。
また上場会社がバリューアップしていこうと思うと、優良な投資家様に株式を持ち続けてもらうのが重要なポイントになります。
潜在的な投資家や今の株主とのコミュニケーションでは、会計士である自分が今の数字や将来の数字を説明することで、ある程度信用していいただけると思っています。自ら責任と誇りをもって会話をしていくべきだと思います。