【インタビュー】自分の幸せのなかに人の幸せを組み込む。人に役立つことを起業の目的に据えたその先は? | 会計士の履歴書
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自分の幸せのなかに人の幸せを組み込む。人に役立つことを起業の目的に据えたその先は?

willsi株式会社 / 與世田 温子

自分の幸せのなかに人の幸せを組み込む。人に役立つことを起業の目的に据えたその先は?

willsi株式会社 / 與世田 温子

今回、特集でご紹介するのは、ご自身で立ち上げたwillsi株式会社で取締役を務める與世田温子(よせだ あつこ)さんです。
社会を知りたいという熱意に突き動かされて公認会計士試験を突破、監査法人トーマツに入社。優しく、そして厳しい先輩や上司に恵まれながらも、夢を叶えるために独立・起業されました。現在では、公認会計士の仕事を離れ、自社にてさまざまな携帯アプリの開発、テキストの制作、書籍の執筆などに従事。試験対策の「わかりやすい」指針を示しながら、仕事人として社会のなかでどう生きるかをポジティブに模索している與世田さんに、お話を伺いました。

willsi株式会社
「will」は未来形を表し、「si」はsimpleの最初の2文字から。
複雑化した社会へ、シンプルに便利なものを提供する。会計のポイントを「わかりやすく」伝えていくというポリシーをベースに、2012年に設立。アプリケーションソフトの企画・開発・販売をはじめ、会計関連の執筆・イベント開催などを行う。

キャリアサマリー
2007年、監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)入社。
2011年に独立し、2012年willsi株式会社設立、取締役就任。スマホ業界はこれから伸びる市場だと確信し、アプリの制作をスタート。
よせだ あつこ名義で書籍「簿記教科書 パブロフ流でみんな合格 日商簿記3級 商業簿記 テキスト&問題集」(翔泳社)、「らくらく合格 ITパスポート」「パブロフくんと学ぶ はじめてのプログラミング」(ともに中央経済社)などがある。

1社会を知りたくて公認会計士に。その先にあった目的が、起業

社会を知るためのツールとしての資格取得

会計士の履歴書、拝見させていただきました。
「理科が好き」で大学の専攻に理系を選ばれたとか。
当たり前のようにも聞こえますが、いま振り返ってみて、理科・理系に惹かれたご自身の資質、興味のあり様についてどう思われますか?

小学生の頃から、なぜ空は青いんだろう、太陽って何でできているんだろう、というように、自然の事象に対してさまざまな疑問を持ち続けてきました。
理科の分野というのは、それに答えをくれそうな気がしました。
知らないこと、わからないことへの回答が知りたかった。
ただ漠然と持っていた興味で大学まできたというのが正直なところです。
特別に理系の資質を持っていたとは思いません。

社会勉強のために公認会計士試験を目指すようになったとのことですが、そもそも社会を知る方法としてどうしてこれを選んだのでしょうか?

資格を取りたいと思う前に、「起業したい」というのが先にありました。
大学在学中に起業してもよかったのですが、社会人としての基本のキも知らないうちに起業するより、さまざまな業種、業界を学べて、会計のプロフェッショナルにもなれる公認会計士試験を受けることにしました。
実はそのときは、まだ公認会計士という仕事について何も知らなかったことが後からわかるのですが…。
友人から聞いた「公認会計士」という音に、何か惹かれるものがあったのは確かです。

そして、平均合格年齢26歳の試験を、24歳でクリアされました。

はい。
最初にチャレンジしたときは、とにかくその難しさに打ちのめされました。
そのときの衝撃は今もはっきりと記憶に残っていて、それが今の仕事につながっています。
でも、それほど難しさにショックを受けたのにもかかわらず、不思議と不安感や焦燥感はありませんでした。
大学を卒業して、無職のまま勉強しているときにはある程度の焦りはありましたが、3回受けて受からなかったらやめようと決めていたからかもしれません。
公認会計士に受かる前に簿記1級はもう取れていたこともあり、また、もともと社会勉強のために受験を決意したようなものなので、将来への不安に押しつぶされるようなことはありませんでした。

起業したいという気持ちにブレはなかった

公認会計士になりたいというより、起業したいという思いの方が先にあったとか。

そもそも、起業したいと思うようになったのは、自分のやりたいことをしたいという思いと、起業して環境・社会に貢献したいという思いの両方があったからです。
もし試験に受からなくて公認会計士になれないとしても、そのことが、2つの思いを邪魔するものだとは思いませんでした。
特にお金持ちになりたいという思いも薄くて…こういうと現職のパートナーに怒られるかもしれませんが…。

2007年に有限責任監査法人トーマツに入社されます。公認会計士として新たに見つけたご自分の資質のようなものはありますか?

自分に向いている部分と向いていない部分の両方がはっきりと見えました。
これは監査法人で働いてみないと決して気づけなかったところだと思います。
さまざまな会社の方とコミュニケーションを密に取ることで会計を見ていくのがメインの仕事になりますが、その会社を理解するためのプロセスを本当に楽しむことができました。
その会社や会計への好奇心だけでなく、その会社の製品を使うエンドユーザーの心情にまで次々と興味が湧きました。
次々と湧いてくる興味でやりがいも感じましたし、先輩の仕事ぶりを見て大変勉強になりました。
一方で向いていないなと思ったのは、会計基準が複雑かつ定型的で。その会計基準を受け入れて難なく業務をこなしていく同僚や先輩を見ていると、私よりもっともっと向いている人材が多くいると思ったことですね。
自分らしくいられて、かつ社会に貢献できる仕事内容や仕事形態は、他にあるのではないかと感じました。

そして3年間の勤務を経て、監査法人の職を離れる決意をされます。
キャリア構築という面で、不安感はありませんでしたか?

不安感はゼロでしたね。
育ててくださった監査法人を去るのには後ろ髪をひかれる思いがありましたが。
こう振り返ってみると、私は本当に物事を不安に思わないタチですね。
何をしてでも生きていけるという感覚があるんです。

今の仕事を選ぶことになった理由として、パートナー(ご主人)との出会いは大きいですか?

3年で監査法人を去っていたかどうかはわかりませんが、1人だったとしても10年以内に起業はしていたと思います。ただ、主人は私よりももっと起業家精神の強い人なので、起業が早まったとは言えます。
主人も監査法人勤務だったのですが、監査法人を辞める1年前から、休日に2人で事業計画を出し合い、どのような会社にするか話していました。スマホのアプリ制作をやると決め、監査法人を退職した後、会社を設立しました。

2willsi株式会社の理念とは

経験を生かした仕事で具体的なアドバイスを

ついにご自身の会社、willsi株式会社を起こされました。

そもそも、やりたいことがあるから起業したというよりは、自分の考えや技術、力で物事を動かしたいという思いが強かったんです。
もう小学生の頃からそう考えていました。
○○をしたいから、○○を作りたいから会社を起こした、という方がほとんどかと思いますが、私の場合は、会社を起こしたいからその手段と目的を後から探したんです。
監査法人を辞めたときには、これからはスマホアプリの時代が来そう、だからスマホアプリを作るぞ、ということしか決めていませんでした。
つまり起業したときは、起業する手段と目的が、一瞬同じだったんです。

起業されてからは、具体的にどんな仕事を?

多くのIT会社で、経営者とプログラマーは別の人物です。弊社でもプログラマーにお願いしようとも考えました。
ただ、自分たちがプログラミングを知らなければ、誰にお願いすればいいのか、また、どんなものを作ってほしいと依頼すればよいかさえわかりません。
ですので、まずは私自身がプログラミングの勉強を始めることにしました。
最初に、主人と2人で、練習がてらアプリを作ってみようということになりました。私たちは公認会計士なので、馴染みのある分野である、簿記2級、3級の勉強方法について指南するアプリを作ってみようと。
簿記の基本・応用も、勉強の仕方も、どうやったら試験に受かるかも知っていましたし、そして受かるのに苦労した体験もあるので、わかりやすく解説したアプリを作れば受験生に喜んでもらえるのではないかと思いました。
その練習がてら作ったアプリを、AppleとGoogleに登録し売ってみたところ、反響がよくて驚きました。
その後だんだん規模を大きくしていって、現在アプリは15種類ほどになりました。
さらに、アプリに加えて書籍制作、講演活動もしています。

日商簿記に合格するためのアプリ「パブロフ簿記」が人気だと聞きます。命名のきっかけ、特徴について教えてください。

最初にパブロフくんというキャラを思いついたのは、仕訳のシステムですね。
簿記の試験に合格するには、会社での取引があれば、条件反射的に仕訳が書けるくらいにならないといけません。
まさにパブロフのイヌ的な条件反射が必要なので、そう命名しました。
最近では、「パブロフ簿記3級」「2級」の他にも、「パブロフ行政書士」なども展開しています。

経験を生かした仕事で具体的なアドバイスを

結果、やられてきた勉強が生きる仕事になりましたね。

そうですね。
結果的にそうなりましたが、私が意図して勉強したことを生かそうとしたというより、アプリを作ってみたら、困っている人がたくさんいるということがわかったんです。
自分たちが合格できたハウツーを、今度はみなさんにお知らせしたい、それで簿記を楽しく思ってくだされば嬉しいです。簿記を生かした仕事につけたり、夢の実現に近づいたりする人がいらっしゃったらもっと嬉しいです。

アプリの制作やテキストの執筆となると、公認会計士時代とは、業種がガラッと変わったとも言えると思います。
いまのお仕事に生きている公認会計士としてのメリットは?

メリットは大きく2つあります。
一つは、「公認会計士です」と名乗れることです。
目上の方とお話させていただくときにも、信用していただけるきっかけになります。
著者としての肩書きにもなりますし、実力はわからないけれど会計にそこそこ精通している、という証明になると思います。
もう一つは、簿記に関して、具体的な体験談をお伝えできるということです。
会計士としての実務経験があるので、机上の空論ではない仕訳の書き方を伝授できます。
仕訳は、実際の取引をメモするためのツールです。
パブロフ簿記という簿記テキストにイラストや4コマ漫画を多用しているのも、具体的な取引をわかりやすく説明するためです。
難しい取引に対しても、文字通りパブロフのイヌのようにパッとイメージが湧くようになってほしいです。

会社の未来像が見えてきた

willsi株式会社で実現したいこと、未来像を教えてください。

たとえば子育て中の主婦の方で、すごく能力が高くても、なかなか思うように仕事ができない方が多くいます。
そういう方に自宅で仕事をして能力を生かしてもらえるような形態の会社にしたいと思っています。
その形が現在取れつつあるので、willsiの未来像がイメージできてきました。
監査法人時代には、いろいろな会社さんを見てきたので、9時〜5時で会社にいなくてはいけない業務があるのも理解しています。
また、正社員、非正社員という形態を気にされる方もいらっしゃると思うので、形態については今後考えていかなければいけませんが、私自身は、好きな時間に好きな場所で働けることが自然だと思っています。
具体的な将来像としては、従業員は50人くらいで、年商50億くらいの規模にしたいです。
一人1億、計算が簡単ですね(笑)。
自分で会社を経営する以上、従業員のQOLを無視することはできません。
一人ひとりの希望や能力、嗜好などにすべて向き合うとなると、私には50人が限界。
そして、時間を切り売りする仕事というよりは、ウェブやアプリの仕事のように集中した短時間労働で、たくさんの需要をいただける良いものが仕上がる仕組みづくりをしたいです。
そういうビジネスモデルを目指していますが、言うは易く行うは難しなので、頑張っていきたいと思います。

働く人の幸せの追求のあり方が関わってくるかと思います。起業の道を選ばれて、やはり正解だったと思う点、ここは再考したほうがいいなと思う点はありますか?

少なくても私の幸せの形は、自分が楽しく、まわりも楽しい、というものです。自分が一番楽しいと思うのは、こうしたら人が喜んでくれるんじゃないかな、と思うものを見つけて取り組んで、それを形にして多くの人に喜んでいただくことなんです。
そして使ってくれる人の声がやりがいにつながります。
わかりやすかった、合格できた、嫌いだった簿記が好きになったというような反響が聞けると、やっていることの意味があるなと思えます。
そういう声が聞こえてきたときは、起業して正解だったと思いますね。
根本的に再考したほうがいいという点はありませんが、もちろん必要な変革やチャレンジは続けていくので、いつも再考している、とも言えます。

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