経営者のビジョンを最高水準のパフォーマンスでサポートする。職人気質の手腕はどのように磨かれたのか?
株式会社シャンディガフ / 土屋 英希
今回の特集は、三井信託銀行株式会社(現:三井住友信託銀行株式会社)、株式会社スクウェア(現:株式会社スクウェア・エニックス)、ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社など、名だたる企業で実務経験を積み、2007年に株式会社シャンディガフを設立し代表取締役に就任された土屋英希(つちや ひでき)氏をご紹介します。多くの経営者から支持を受ける実務管理手腕は、どのように磨かれたのか。また公認会計士二次試験に合格しながら、監査法人に就職せずに独自のキャリアを歩んできた土屋氏の世界観についてお伺います。
01
監査法人に進まず管理実務の道へ
公認会計士二次試験に合格したものの監査法人に行かなかったとお聞きしています。どういう理由だったのでしょうか?
大学2年から試験勉強を初めて大学3年生で合格したときは、当然のことながら監査法人に進むつもりでいました。
ところが、若年合格は喜ばしいことである一方で、監査法人への就職の機会を奪うことにもなったのです。私が合格した当時は、合格者が前年比で増えたにもかかわらず監査法人が採用を絞ったため、就職先のない合格者が溢れていました。私も監査法人の就職説明会には行ったものの門前払いで、「また就職できる年齢になったら来てください」と言われてしまい、監査法人の就職活動は全滅でした。

そのタイミングで合格した人は監査法人に就職できなくて大変だったのですね。その後、就職活動はどうしましたか?
監査法人での就職活動がダメだったのでどうしようかと思っていたところ、大学の就職課で学校推薦制度があることを知りました。金融系に進みたかったのと、証券会社の営業なら色々な会社と接することができるのではないかと思い、野村證券への推薦希望リストの一番上に名前を書きました。
通っていた大学では在学中の公認会計士二次試験合格者が出た実績がなかったので、学内でちょっとした有名人になっていました。野村證券への推薦希望リストに、私の後に他の学生が名前を書くことはありませんでした。
最終的に大学推薦で野村證券に就職されたのですか?
実は、大学OBの方から「就職活動の練習になるから三井信託銀行を受けてみないか」とのお誘いを受け、事前練習のつもりで言われるがまま色々な場所に訪問し、三井信託銀行の方々とお会いさせてもらいました。
ところが、気付かないうちに最終面接まで進んでいたようで、三井信託銀行から内々定の電話連絡が来てしまいました。その翌日の朝には、大学の就職課から「内々定を断ったら、今後うちの大学の後輩が三井信託銀行に一切入れなくなってしまう可能性がある」と脅しのような電話もきてしまいました。就職課からの電話を終え、早朝だったのでまだ寝ていた父を起こして、「二者択一を迫られているんだけど、三井信託銀行と野村證券だったら、どちらで働く方が良いと思う?」と相談すると、一言「株屋はやめとけ」と言われ、また父は眠り始めてしまいました。今まで間違ったことを言ったことがない父が言うならそうしようと、あまり深く考えずに三井信託銀行に就職することにしました。
公認会計士二次試験に合格していると、信託銀行では専門部署に配属されるのでしょうか?
入社時面接のときに「公認会計士二次試験に合格しているので、資格を生かせる部署に配属してほしい」という希望を伝えてはいたのですが、1年目に配属されたのは新宿西口支店でした。そこで、一通りの支店業務を覚えました。
2年目に異例の人事で本部(総合企画部)に異動になり、面接のときの配属希望をわずか1年で叶えてもらいました。当時はまだワープロの時代だったのですが、急速にIT化が進んでいたときだったので、自分の能力を発揮しながら思う存分仕事をさせてもらえました。
本部勤務になってからは終電がなくなるまで働く日々でした。ですが勤務の過酷さよりも、同じような業務を毎月、毎年、繰り返していくなかで、「これをあと30年、40年も続けるのか」と仕事への飽きが強くなり、在籍4年余りで退職を決意しました。
監査法人に行っておけば良かったと後悔したことはありませんか?
自分のためというよりは、会計士受験を応援してくれて合格を喜んでくれた両親には、いまだに準会員なので申し訳ないというのはあります。
信託銀行時代に大蔵省の財務局に会計士登録できないのか聞いたら、「経理経験だと三次試験の受験資格になりません」と言われました。その意味では、監査法人に行っておけば公認会計士という資格はもらえたかもしれません。監査法人に行っておけば良かったと思う理由はそれぐらいですね。
監査法人で監査の経験を積んでおけば良かったと思ったことはありません。逆に、監査法人の対応をしながら仕事内容を拝見していますが、帳簿を一枚一枚見ながら勘定を全部突き合わせてやったこと全部を調書に残しているのを見ると、自分には監査の仕事よりも監査対応をしているほうが向いていると実感します。
02
事業会社を渡り歩き、IPOや管理実務全般を究める
三井信託銀行のあと事業会社4社で実務経験を積んだのちに、シャンディガフを設立されたと伺っています。その中からスクウェアに移籍したときの経験をお聞かせください。
銀行では基本は経理をしていたので、次も経理職しかないと思って探していました。業種的には普段から興味を持ち続けていたのがコンピューターゲームだったので、ゲーム会社にしようと決めました。それで、そのとき経理職の応募があったスクウェアに応募しました。
当時、ちょうどスクウェアが店頭公開から東証一部に市場替えするタイミングで、野村證券の主計課にいらした和田洋一さんがスクウェアに参画された直後でした。「すぐ来てください」と連絡をいただいて面接に行くと、面接官は和田さんと人事部長さんの二人でした。
「よろしくお願いします」と私がいうと、開口一番「ごめん、昨日経理決めちゃった。でもせっかく来てくれたから少し話しようよ」というのです。もう経理の職はないんだと思いながら、すっかりリラックスして話をしていると、「きみ、経理職の割にはよくしゃべれるね。ちゃんと受け答えしてくれるから非常に話しやすい。そろそろ経理に飽きたでしょ?IRに興味ない?」と和田さんから聞かれたので、「興味あります」と答えると、「じゃあ採用ね」と、とんとん拍子に採用が決まりました。IR担当は表に出てない求人だったのだそうです。

ほかのキャリアについても時系列的にお伺いできますか?
信託銀行では1年目は支店業務で、2年目から本部で経理業務を行い、有価証券報告書や決算短信、その後の説明会資料等を作成してきました。合併報道前には、新経理システム構築プロジェクトに参加していたこともあります。
スクウェアでは主にIR担当として、証券会社、機関投資家や個人投資家の方と接する機会が多かったです。企業広報も業務範囲でしたので、企業広報も経験しました。
次に行ったガンホーでは、これまでの実務経験を総決算的に生かしてIPO実務をやりました。IPO実務は初めてでしたが、それまでに経験したことがほぼすべて活用できました。
そのあとのコンサル会社では、運用していたファンドを通じて投資についての勉強と実務経験をさせてもらいました。
5社目のマスチューン(現:みんかぶ)では、株式市場を取り扱ったサービスをやっていたので、株式市場を鳥瞰図的に見られるようになり視野が開けました。
このような感じで、金融系やファイナンス系の業務について一通りのキャリアは積んできました。経営者の方からどんな質問をいただいても対応できるようになったのは、この経験があったおかげだと思っています。
管理実務の知識と経験を網羅的に習得されていますが、そのようなキャリアを歩もうと思ったきっかけはありますか?
明確なビジョンがあったわけではなくて、目の前に転がってきた物を拾っていたところ、こういうキャリアになっていました。
ただ、管理部門の方は全般的に保守的で、新しいものが入ってくることに拒絶反応を示す方が多いですね。新しいやり方とか新しいツールが入ってくると、「自分の仕事がなくなるのではないか」とか「仕事のやり方を変えるのは非効率だ」と考える人たちが比較的多い職種だと感じます。やり方を変えれば効率的になるかもしれませんが間違いが起きる可能性もありますので、このような反応になるのでしょう。
私は新しいものが目の前に転がってきたら、「やったことがないのでやりたいです!」と手を挙げてアグレッシブに取りに行くほうで、管理畑の人間としては珍しいかもしれません。新しいことに拒絶感はなくて、逆に同じことをずっと繰り返すことに絶望を感じるタイプです。だから、今のように変化のあるキャリアを歩んできたのだと思います。

採用する立場から見て、『こういう会計士は採用する。もしくは、こういった会計士は採用しない』と判断するポイントはありますか?
会計士の資格を持っていても事業会社の経験がなければ採用しません。事業会社の経験をしていないと実務ができませんし、事業会社として働く素地ができていないと思うので。
監査法人でしか働いたことがない人の中には、監査法人というすごく特殊な世界を当たり前の世界だと思っている人もいるかもしれません。合格1年目のまだ補助の頃からお客さんに“先生”と呼ばれます。質問に答えたり指示を出したりすれば、自分より経験のある年上の人たちがその通りに動いてくれます。
私は監査法人の方に“先生”という言葉を使いませんが、使う人のほうが多いですよね。もしその状態に違和感がないなら事業会社には向いていないと思います。
03
管理業務は能力が高くて早く結果を出せる人がやるのがベスト。究極のクオリティを追求したのがシャンディガフ
シャンディガフの業務内容を教えてください。
シャンディガフでは、IPO支援や資金調達支援といった経営コンサルティング、経理・財務・人事・法務等の管理系業務支援等をしていて、管理系実務のアウトソーシングも請け負っています。契約している会社の半分はIPOを考えている会社で、残り半分はIPOとは関係なく支援をしています。
IPOは土屋さんの専門分野ですね。
専門分野ということではないですが、IPO支援は一つの業務分野だけに特化している方だと難しいため、幅広い分野の業務支援ができるという理由で私がIPO支援のご相談を受ける機会が多いのだと理解しています。
IPOコンサルティングではどのようなことが課題になるのでしょうか。具体的に一つ教えていただけますか?
IPOを目指している事業会社の経営者や担当者が、IPO業務を何度も経験していることは珍しくて、大体初めてのケースが多いです。
初めてのIPOだと監査法人や証券会社と接するのも初めてで、彼らから何か指摘されたり注文されたりすると「専門家が言うから絶対やらなきゃいけない」と思い込んでしまいます。言われた通りにしようと、今まで積み重ねてきたことをグワっと捻じ曲げて、方向転換してしまう会社さんが想像以上に多いです。
そこで私が監査法人や証券会社が指摘している理由を分かりやすく説明すると、会社の人も本当の意味が理解できます。上から目線とはいいませんが全部は説明してくれないので、初めてだとその通りにするしかないと思ってしまうのです。

会社の人が方向転換してしまうとおっしゃいましたが、具体的にどのようなことが理解しづらくて方向転換してしまうのでしょうか?
監査法人や証券会社から「CFOを採用してください」と言われることがかなり多いようです。その言葉を真に受けて、自社が望むCFO像すら議論していないのに「CFOを探さなきゃ」となってしまう会社が多いです。
このような場合、「CFOという言葉がイメージしやすいと思っているから言っているだけですよ。東京証券取引所や証券会社の審査で求められているのは“ガバナンスの観点から管理部門を管掌する取締役”であって、あなたがイメージしているCFOではありません。上場のためには事務処理能力が高い管理部長が必要です。そしてその管理部長が近い将来に経営責任を負担して取締役になってくれれば、それで審査基準は満たせます。もちろん、積極的な財務戦略やM&Aを仕掛けるという目的で早めにCFOが必要になるときもありますし、適任者がいれば早めにアサインできるに越したことはありません。ただ、現状を考えると、外部から高値で無理やりCFOを連れてくるよりも、上場して資金調達してから、ゆっくり時間をかけて自社や現経営陣にあったCFOをアサインする方が良いと思います」と説明しています。
私の説明を聞いてようやく「彼らが言っていたCFOとは、そういうことだったのか」と安心してくださいます。
監査法人や証券会社は、会社が当然知っているものだと思ってその言葉を使っているのか、分かりやすいと思ってその言葉を使っているのかわかりませんが、いずれにせよ会社が理解できているのか確認することは必要ですし真意を説明すべきだと思います。
監査を受ける立場で会計士と接する機会が多いと思うのですが、接していて何か気づくことはありますか?
今申し上げたように、会計士の方は結論だけ言う人が多いと感じます。結論に至った経緯を全部説明してもらえれば発行体の方にもいろんな考え方が芽生えるのですが、結論だけ言われると反感を買うこともあります。
結論だけ伝えればいいというのではなく、受取る側が理解しやすいようにきちんと説明をすることが必要なのではないでしょうか。
公認会計士2次試験に受かったばかりの若手の会計士が監査に来ることもあると思うのですが、若手の人が勉強しに来ることについてどう思いますか?
シャンディガフの仕事で、上場を目指している会社の非常勤CFOをお引き受けしたことがあります。そのときに監査法人の上の方から「実はうちの若手が土屋さんのところに来るのを、怖がりながらもすごく楽しみにしています。土屋さんに鍛えてもらって相当いい会計士になると思います」とお礼を言われたことがあります。
大体の事業会社だと、若手の会計士さんからの指摘であっても反論することはありません。ところが私は違います。「こういう業界があなたの言う通りにやったら、おかしいことになりませんか?」とか、「会計処理を修正するように言われましたが、こういう事態が起きたときあなたが言っている表示ではミスリードがおきませんか?」と問いかけます。
若い子が教科書通りにやろうとしていると、教科書なんて読まずにクライアントの置かれている現実を見て自分の頭で考えるように言います。若手の会計士の人を育てるCFOなんて滅多にいないのでしょうから、怖がりながらも楽しみに来てくれているのかもしれません。
土屋さんがIPOコンサルタントとして多くの経営者から支持されている理由は何なのでしょうか?
私は、完全に会社と同じ方向をむいて、主幹事や監査法人とはたまに同じ方向を向いたりたまにチラっと牽制したりしながら、上場準備を進めています。
会社の人には「やるべきことはちゃんとやりましょう。そして、彼らから求められたとしても、やらなくてよいことはやらなくて良いです。ただ、やらなくてよい理由を説明できるようにしましょう」と話しています。監査法人や証券会社からの指摘や牽制について、どう対処したらよいのか分かりやすくアドバイスしてくれるので、重宝されているのだと思います。
04
サポート役は天職。面白いビジネス構想を持った経営者を支援し続けたい
土屋さんの仕事上の強みはどこから生まれたのでしょうか?
銀行、スクウェア、ガンホー、マスチューン(現:みんかぶ)などで、金融系・ファイナンス系を中心とした会社業務実務や経営の一通りのキャリアは積んできて、そこから得られた業務知識と経験と流れがすべて頭に入っています。
コンサルティング会社が組織的に業務を進めようとすると担当者間の情報伝達の過程で非効率が発生しますが、私の場合はほとんどの管理系実務を経験しているので一人で業務を完結することができます。業務の優先順位や段取りが頭に入っていて、初めに何を動かさないと後から手詰まりになるのかが分かっているので、非常に効率がいい。そのため他の人と比べると異常に手が早くて、1年で契約していただいても半年あれば想定していた業務が終わってしまうことがほとんどです。

土屋さんの仕事の進め方について具体的に教えていただけますか?
経営計画や投資家向け説明書を経営者とディスカッションしながら作り始めます。基礎情報を出してもらったり、KPIやビジネスモデルの議論をしたりしながら数字周りのロジックを作り、投資家に説明する資料に落とし込んで、さらにそれを投資家が受け入れやすいようにブラッシュアップしていきます。
一般的なコンサル会社であれば数人がかりで数か月かける業務ですが、私の場合は他の人よりも手が早いので、一人で何役もこなしながらそれよりも短期間で成果を出しています。
経営者の方から依頼される仕事にはどのようなものがありますか?
将来やりたいことについて相談されることもあります。そんなときは「じゃあ、まずはここから手を付けておきましょう。それにはお金必要だから銀行に事前相談等も行なっておきましょう」と、アクションプランをお話ししています。「やる時間が今はない」と困っている方には、「名刺さえもらえれば、私が行って前振りしておきますよ」ということもあります。
アクションプランが提示できて必要な時に自ら体を動かせるのは、今までの実務経験からくる強みなのだと思います。取引をさせていただいたクライアントからは、「業務対象範囲外だと思っていたのに、話をしたらリアクションが返ってきた」と驚かれることもあります。
他にも、実務担当者から経営まで実際に経験しているせいか、どのプレイヤーとでも比較的話が合わせられるのも強みになっています。社長から「自分が話すと大上段から放った言葉になってしまうので、あの子たちに分かるように伝えて欲しい」とか、実務担当者からは「経営陣に刺さる言い方や表現があるはずだから教えてもらえますか(言ってもらえますか)」と個別ミッションをいただくこともあります。
転職を決断するときに大切にしている価値観はありますか?
期待されている役割が果たせるか、期待されている業務を自分がやれるのかが一番の軸になります。人事の専門家とか経理の専門家とか1つの業務に磨きをかけてきたわけではなくて、経理も財務も人事もやれるし何なら契約書も作りますと全般的に幅広くできるところが強みです。仮にクライアントの課題が1つしかないのなら、私よりももっと他にうまくこなせる人がいるのではないかと思います。そういうときは、私がやるべきではないと判断することもあります。
あとは業務に関する対価が適正かどうかも大切にしています。経済的な報酬もそうなのですが、例えば「ガンホーのIPOをやりました」ということは経済的な価値では計れませんが、自分を表現するうえで大きな武器になっているので報酬対価の一部だと思っています。
対価が適正で自分がやった方がいいとなったら、最後の判断基準になるのが“面白いかどうか”です。ビジネス構想だけじゃなくて、経営者も魅力的な方かどうか、話ができたら面白そうと思えるかどうか。楽しくやれないと長続きしませんし、会社のためにパフォーマンスを100%以上出そうという気がなくなってしまうかもしれないので、面白いかどうかで最終的に仕事を引き受けるか引き受けないかを判断しています。

土屋さんご自身がCEOになることは考えなかったのでしょうか?
道を示して後からついてきてもらうという要素は、CEOにもCFOにもあてはまるものだと思います。ですが、CEOがビジョナリー的なものを掲げるのが役割だとしたら、CFOはそれに対して道を作って実現していくのが役割だと思っています。
COOはまだできるかもしれませんが、CEOとしてビジョンを示してそこに突き進んでいく推進力が私にはないので、CEOは無理です。できることならCOOのさらに後ろから羊飼いのように、「そこは危ないから足踏み外さないでね」と声をかける立場の方が合っている気がします。
ガンホーが上場したときに東証のセレモニーに誘われましたが、自分はあくまで実務担当で表舞台に立つことはないと思い事務所にいました。鐘を突きにいくのはセレモニーだから、社長や経営陣がいれば良いのであって、「取材やマスコミが来るかもしれないので」といって事務所に残りました。前に出たりイベントごとにしたりするのが、もともと苦手なのです。
サポート役が向いていると気づいたきっかけはありますか?
スクウェア時代の話になりますが、当時社長だった和田さんに「5年後10年後どうありたいか。どういうポジションでいたいか。どういう仕事をしていたいか。なんでもいいから5年後10年後の自分の姿を考えてレポートしろ」と言われました。
理由はよく分かりませんでしたが和田さんが真剣だったので、私も1週間真面目に考えました。そして「人を引っ張っていくのは基本的に苦手だから、起業家とか社長とかトップの立ち位置は自分には向いていない。どちらかというと、新しい世界を作りたいとか熱い思いをもって突き進んでいく人の横で、実現するための支援がしたい。だから、会社の中のポジションでいくとCFOなのかもしれないし、戦国時代でいえば参謀なのかもしれない。その人がやりたいことに専念したり実現したりするために、できる限りの力を注ぎたい」とレポートしました。すると「分かった、じゃあそれ用に育てるわ」と言われ、“それ用”に育てられた結果が現在の私というわけです。
05
会計士という資格。そして将来の夢
会計士の資格についてどう思いますか?
クライアント候補の方とのご面談で自己紹介の際など、自分を説明する分かりやすい言葉なので「大学在学中に公認会計士の二次試験だけ受かりまして、そしてなぜか監査法人に行かずになぜか信託銀行に入りまして…」というように、“公認会計士二次試験合格者”というタイトルは活用させてもらっています。だからといって、それに固執する気はありません。
公認会計士の資格がなければできない仕事はしていませんし、監査をやりたいと思ったこともありません。ですが公認会計士試験で監査論など普通は学べない知識を勉強したので、それを活かして会社の役に立つ話ができるのは面白いですね。
例えば、監査法人側と事業会社側という2つの立場があるとすると、自分は事業会社と同じ側に立って、監査論の知識やこれまでの経験を活かして事業会社をサポートすることができます。「監査法人から言われたけど、何でこんなことやらないといけないんだろう」という会社の疑問や不満に対して、より的確にアドバイスをすることができます。

土屋さんはどんなことでも対応してくれますし平易な言葉で丁寧に説明してくれるので、会社の人もつい質問したくなりますね。
監査法人が何の目的で手続きをしているのか分かれば、会社も協力しやすいし今後どうすればよいのか分かります。
例えば、監査法人がなぜ“実査”を忙しい年度末にやりたがるのか分からない会社もあります。「実査という手続きはその瞬間にしかできない手続きなのはわかりますよね。だから、監査法人は実施するタイミングや実施した事実にこだわります。タイミングの問題があるのであれば、年度末前の段階で『遡及監査の可能性を検討して欲しい』と監査法人に相談すれば、監査法人だって無下に断らずに来てくれます」と、手続の目的とどう対応すればよいのか具体的にアドバイスをしています。
監査法人に対して事業会社が不思議に思っていたり不満に思っていたりする部分を、「まあまあ、そう言わないで」と言いながら説明することは、公認会計士の仕事と意外と近しいのかもしれませんね。
将来的にやりたいことはありますか?
クライアント候補との契約前のご面談時には、クライアント(又は事業)が将来的にどうなっていくのか自分なりに妄想してからお会いするようにしています。お話を聞いて妄想の次元がはるかに違うとか妄想を突き破ってさらにその先を見ているとか全く違う方向で妄想しているとなると、「そうきましたか」と楽しくなります。その妄想の実現に向けたお手伝いがしたくなり、仕事をお引き受けします。
私が仕事を引き取ることで、経営者がフリーになって妄想に向かって一歩でも半歩でも前進するなら、お引き受けした意味があると思います。
夢という意味でいうと、お手伝いをする人たちとは一期一会ではなくて、積み重ねがずっと続いていけば楽しいですね。これからもいろんな方とお会いして、その方々が持っている夢を実現していくお手伝いがずっと続けられればいいなと思っています。
自分の会社以外にも他社の役員を引き受けられて仕事の責任も大きいと思うのですが、休みの日はどのように気分転換しますか?
日曜日も普通に仕事しているので、基本的に休みはありません。一日に十数時間を週5日働くくらいなら、7日間で平準化して1日の労働を8時間以下にして働いた方が、私的にはパフォーマンスがいいし安定していると分かりました。
家に帰ったら犬と遊んで寝るくらいで、基本的にはずっと同じ日常を毎日毎日繰り返しています。ボラティリティを小さくして、とにかく安定させたいと思っているので。
仕事に関しては面白いか面白くないか相当ふるいにかけているので、ストレスを発散する必要がないのかもしれません。仮に嫌なことがあっても、一晩寝れば嫌なことは基本忘れてしまう得な性格でもあります。
ストレスがたまらないように仕事が選べるのは、独立起業する上での大きなメリットかもしれませんね。本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございました。
プロフィール
土屋 英希(つちや ひでき)
株式会社シャンディガフ
1974年神奈川県横浜市生まれ。芝高等学校卒業後に、武蔵大学経済学部に進学卒業。大学3年生のときに、公認会計士試験二次試験に合格。
卒業後は三井信託銀行株式会社(現:三井住友信託銀行株式会社)に入社し、新宿西口支店勤務後、2年目より総合企画部へ異動し主計チームに所属。
2000年より、株式会社スクウェア(現:株式会社スクウェア・エニックス)に入社。IR担当として従事。
2004年 ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社にIPO準備主担当として入社。IPO達成後、管理部部長代理兼財務グループマネージャーに就任。社長特命事項としてM&A推進。
2005年 株式会社SOZO工房に入社。入社後に取締役CFO就任。クライアントへの各種コンサルティングとともに管理系業務を統括。
2006年 株式会社マスチューン(現:株式会社みんかぶ)設立。取締役CFOに就任(2008年12月に辞任)。
2007年 株式会社シャンディガフ設立。代表取締役に就任(現任)。上場会社・非上場会社の取締役歴任、コンサルティング業務(資金調達、IPO準備、MBOスキーム構築、会社設立・経理・財務・人事・法務の管理系実務を含む業務支援)を行う。
株式会社シャンディガフについて
事業内容は、IPO支援、資金調達支援、創業支援、経営管理業務支援、経営企画業務支援等などのコンサルティングサービスの提供。会計知識と、財務や人事・総務・法務等の経営管理全般に関する豊富な実務経験を活かして、経営コンサルティング及び管理部門業務支援を行う。M&A支援案件も手掛ける。2007年設立。